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勇者ピーマン、ヒーラー人参、老師たけのこ、暗黒騎士玉ねぎ、魔法使いパイナップルの最強パーティーで伝説の魔王を討伐してきます(中の中)

阿波池田駅所在地の徳島県三好市サラダという地名。

野菜や果物といった登場人物しか出てこないこの物語の舞台にはぴったりだと思います。

 母が最期に託してくれた、しわくちゃになったメモ。


 そこには几帳面な母の手書きの文字で、とある住所が書かれていた。




 ”徳島県三好市サラダ〇〇番地”




 住所をそのままスマホに入力し、検索してみる。俺の最寄り駅から特急で一時間ほど、山間部の駅前に目的地はあるようだ。


 特急列車を利用すると運賃・料金は片道3,000円。恥ずかしい話だが当時無職でパイナップル農園の温室でぬくぬくと育っていただけの俺には痛い出費だ。


 しかし、これは母が俺の為に遺してくれた親心に違いない。行ってみないことには母の思いに背くことになる。


 そうして俺は農園から最寄り駅までの自販機の釣銭の取り忘れなんかを逐一確認しつつ何とか4,500円ほどを調達し、三好市への旅の途についた。




 住所どおりに向かった先には古民家のごとき酒場がぽつねんとあった。


 入口の扉の横には”居酒屋こじゃんと・四国総括ギルド阿土支部”と立派な毛筆で書かれた木製の看板が掲げられていた。


 (本当にこんなところで俺の役に立てることが?)と訝しく思ったのだが…母の” きっとこの場所ではあなたの役割があるはずだから、鳳梨……”という遺言を思い出し、自分を奮い立たせるための深呼吸をしてからその扉を開いた。




 店の中は存外に広く、4人掛けのテーブル席が3つ、それから10人ほどが座れるカウンター席があり、なかなかに繁盛しているようだ。


 俺はその様子を見渡し、一席だけ開いていたカウンター席に座ってから店主の親父に『野菜ジュース一つ』と注文した。


 その直後、背後から痛いほどの視線を感じたので振り向くと、4人掛けテーブルを陣取った胡瓜、トマト、小松菜、赤キャベツが一斉にこちらを睨んでいた。そうか、店内にいる客は人外の生鮮食料品たちであった。自分の不用意な注文を反省しつつ、俺は目の前におかれたジョッキになみなみと注がれた野菜ジュースを一気に飲み干した。




 『若者よ、君は勇気があるようじゃな』


 隣席から話しかけてくる者があった。声のする方へ眼を向けると、そこには一本のたけのこがハイボールを少しずつ飲みつつ柔和な笑みを浮かべていた。


 『すみません、こちらへ来るのは初めてで…俺は鳳梨といいます。あなたは?』


 『わしは見ての通りの老いぼれの、たけのこじゃよ。皆からはなぜか老師と呼ばれておるがね』


 老師たけのこと呼ばれているらしい彼の、優しい表情越しに歴戦の覇者となった輝かしい過去の数々が透けて見えた。


 『おねがいします!俺にお役に立てることがあれば何でもしますから、あなたが培ってこられた経験のすべてを俺にお教えください!』


 思わずそう願い出た俺を見つめる老師の優しい瞳がふっと真剣なものになり、彼はこういった。


 『おまえさん――いや、鳳梨くん、君にはなにか切実な事情があるのかね?』


 どこの馬の骨ともしれない若者にこのような懇願をされることなど、これまで何度もあったはずの老師たけのこの包容力に安堵した俺は、今までのこと――生まれてから温室育ちで世間知らずなこと。その環境に甘んじて何のスキルも獲得していなかったこと。いや、その努力すらしていなかったこと。最終学歴について。好きな食べ物。そして家族との別れ。――等々を怒涛の勢いで話していた。




 最初から最後まで微笑みながら俺の身の上話を黙って聞いてくれていた老師は、しばらくぶりに訪れた沈黙ののち、静かに言った。


 『鳳梨くんは苦労というものはあまり経験がないようじゃな。それなら、どうじゃ?ものの試しにわしの元で一か月ほど修行をしてみる気はないかね?』


 老師の口から出た修行、という言葉に俺は少し身構えた。しかし先ほど役に立てることがあれば何でもする、と言い出した舌の根が乾かぬうちに断ることはできまい。何よりも母が最期まで俺を想っていてくれた、その親心に背くわけにはいくまい。




 俺は決意した。


 『老師の元で学べることは精一杯学ばせていただきますので、どうか、どうか、よろしくお願いします…!』


 叫びにも似た俺の言葉が店中に響き渡る。


 しばらくの静寂。それから疎らに手を打ち始める他の客。拍手の波は段々と大きくなり、酒場を満たしていった。




 翌日から始まった老師との修行は厳しいものだった。最初の一週間は適した職業を見極めるために様々なことに挑戦した。




 初日は剣士の修行。これは肉体面や技術面も重要だが、いかに集中するか、どのような判断をするかなどの精神面がさらに大切だ。だがしかし、鈍色の刃が自分の家族を奪っていった鋏のように思われて、俺はどうしても剣を持つことができなかった。


 二日目、まだ夜の明けきらぬうちから座禅を組み、無心で何事にも動じない鍛錬をした。だがしかし、俺には冠芽がある。そこに名も知らぬ鳥が興味ぶかそうに止まったり、そよぐ風にすら揺れ動いてしまい、失敗の連続だった。


 三日目、ひたすらに計算問題を解き、経理として向いているかを試された。だがしかし、俺は計算がこんなにも出来なかったのか。と絶望する結果に終わった。


 四日目、駅前の商店街に出てチラシ配りをやらされた。これはどうやら俺のコミュニケーション能力を推し量り、パーティーのメンバーを勧誘する能力があるかを見極めるためのものだったらしい。だがしかし、行き交う住民たちは商店街のど真ん中でチラシ配りに励むパイナップルを見つけるやいなや、露骨に避けながら通り過ぎていった。




 『老師、俺には一体何が出来るんでしょうか?』


 五日目の修行が終わった夕方、俺は老師に誘われて駅前の居酒屋こじゃんと兼ギルドで野菜ジュースをちびちび飲みながら愚痴っていた。


 『鳳梨くん、そういきなり何でも出来るわけではないのじゃ。まだ修行をする日にちはたっぷりある。焦らずに自分の道を探せばいいのじゃよ。わしも若いころは自分探しで右往左往しとった。じゃがな、ある時ふと光明が見えた。その光明を辿っていったからこそ、この老師たけのこも誕生したのだ』


 老師の言葉にハッと顔をあげる。俺はその時に至るまで大切なことを確認しそびれていたことに気付いた。




 『老師、ところで老師という職業は一体何をしているんですか?』




 そう、俺はこの時まで老師が何をされているのか全く知らなかったのだ。

短篇にするつもりだったのに、まさかの続き物になってしまうとは。

本当にごめんなさい。そしてお付き合いくださる皆さまへ、愛を込めて。

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