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イノベーションの終焉と究極のプレゼン

世界中が注目する巨大IT企業の新作発表会ですね。スティーブ・ジョブズばりのカリスマ性と「世界を変える」という壮大なビジョンで信者ファンを熱狂させるCEO。しかし、その裏にある「究極の資本主義と消費者への本音」が全世界に生配信されてしまうシミュレーションです。


今回もケンゾウの「放送事故拳」が、現代の虚飾を鮮やかに打ち砕きます。


「マイクテスト、ワン、ツー。……よし、レベル問題なしです」


世界時価総額トップクラスを誇る巨大テック企業『NEBULAネビュラ』。その年に一度の新製品発表会は、全世界で数千万人が同時視聴するIT界最大のイベントである。ステージ袖では、黒のタートルネックに身を包んだカリスマCEO、神宮寺マックスが静かに目を閉じ、精神を集中させていた。


「神宮寺CEO、本番1分前です。マイク付けますね」


裏方の音響スタッフとして潜り込んでいたケンゾウは、神宮寺の襟元にピンマイクを装着する際、彼のこめかみにある秘孔を親指で「トクン」と弾くように突いた。


「……ん? 今、静電気が……」

「さあ、お時間です。世界があなたを待っていますよ」


ケンゾウに背中を押され、神宮寺はまばゆいスポットライトの当たるステージへと歩み出た。会場を埋め尽くす数千人のメディアと熱狂的なファンから、割れんばかりの歓声が沸き起こる。神宮寺は両手を広げ、自信に満ちた笑みを浮かべた。


■ オープニングの挨拶

「皆さん、今日という歴史的な日に集まってくれてありがとう。我々NEBULAは常に、テクノロジーで人々の生活を豊かにし、世界を前進させることを使命としてきました……って、本気で信じてんのかこのカモの群れが! お前らの生活なんかどうでもいいんだよ! 俺の使命は株価を上げて、ハワイに5つ目の別荘を建てることだけだバーカ!」


会場の歓声がピタッと止まり、水を打ったような静けさに包まれた。最前列のITジャーナリストたちが「えっ?」と顔を見合わせる。しかし、神宮寺は洗練された身振りと満面の笑みのまま、巨大スクリーンを指差した。


■ 新型スマートフォン発表

「さあ、紹介しましょう。これが我々の最高傑作『NEBULA Phone 15』です。洗練されたチタンボディと、究極のカメラ性能を備えています。……つっても、中身は去年の14と99%同じだけどな! カメラのレンズを2ミリ横にずらして、新色って言い張って値段を3万上げただけだ! お前らバカだから『革新的だ!』ってヨダレ垂らして行列作って買うんだろ? 原価なんてたったの2万円だぞこのボッタクリ板!」


「な……!?」

信者たちの顔から血の気が引いていく。ステージ袖の広報担当者は泡を吹いて倒れ、プロデューサーは「配信止めろ!!」と叫ぶが、ケンゾウがシステムをロックしているため止まらない。


環境配慮エコへのアピール

「我々は地球環境の保護にも全力で取り組んでいます。今回から、パッケージから充電器とイヤホンを廃止し、100%再生紙を使用しました。……地球のためなわけねえだろ偽善者どもが! 箱を薄くして輸送コストを半分にするためだよ! そんで別売りの充電器を5000円で買わせるんだよ! 1ヶ月で断線するよう意図的に作ってあるから、一生俺たちに貢ぎ続けろエコの奴隷ども! 海亀の鼻にストローでも刺さってろ!」


■ サブスクと個人情報について

「さらに、進化したAIアシスタントが、あなたの日常をシームレスにサポートします。……お前らの検索履歴も、位置情報も、プライベートな写真も全部クラウドで筒抜けなんだよ! そのデータを広告会社に売り飛ばして莫大な利益を上げる、それが我々の真のビジネスモデルだ! お前らは顧客じゃない、俺たちの『商品』なんだよ! 規約なんて誰も読まねえからやり放題だぜヒャッハー!」


■ One more thing(最後の一撃)

神宮寺は一度ステージの暗がりに歩み寄り、再びスポットライトの中へ戻ってきた。お決まりのあのフレーズである。


「……One more thing(最後にもう一つ)。」


会場のファンが条件反射で息を呑む。


「我々は今日、空間コンピューティングの歴史を塗り替えるARグラスを発表します。……ハッキリ言って、こんな重くてダサい水中メガネ、誰も外でかけたくねえよ! 開発チームも全員『これ売れないっすよ』って泣いてたわ! 5分つけたら酔ってゲロ吐きそうになるしな! でも俺が『出せ』って言ったんだ! 開発費1兆円回収しなきゃなんねえから、お前らローン組んで全員買え! 買わない奴は情弱のチンパンジー以下だ!!」


■ 予想外の結末

「……ハッ!?」


プレゼンが終わり、数万人の沈黙の中でようやく術が解けた神宮寺。自分が何を口走ったのか、イヤモニから聞こえる役員たちの怒号で瞬時に理解し、そのままステージ上で崩れ落ち、気絶した。


翌日のウォール街。NEBULA社の株は大暴落……するかと思われた。

しかし、結果は**「ストップ高」**だった。


経済アナリストたちはテレビでこう語った。

『神宮寺CEOのプレゼンは前代未聞ですが、投資家からは圧倒的な支持を得ました。「原価2万のものを超高値で売れるブランド力」「意図的に壊れやすくして買い替えを促す完璧なスキーム」「ユーザーを商品として搾取する冷徹なまでの利益追求」。企業としてこれほど頼もしいトップはいません!』


さらにSNSでも、

『チタンボディ(ただの板)に15万払う俺たちカモの群れwww』

『CEO自ら「中身同じ」って言っちゃうのロックすぎる』

『エコの奴隷どもワロタ。とりあえず充電器ポチったわ』

『もう清々しいわ。これからも一生ついていく!』

と、その圧倒的な“正直さ”が逆にミーム(ネットのネタ)となり、新型スマホは過去最高の予約台数を記録してしまった。


ケンゾウはスマホでそのニュースを見ながら、鼻で笑った。

「結局、信者ってのは教祖に殴られることすらご褒美なんだな……」

彼は次なるターゲットを求め、再び街へと消えていった。

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