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真実のグルメ暴言録(デリート・グルメ)

その男、ケンゾウは、テレビ業界の片隅で働く音響スタッフ。しかし、彼には秘密の顔があった。こめかみの秘孔を突き、人を一時的に極度の汚言症にする術「秘孔・爆言拳ひこう・ばくげんけん」の使い手である。彼は、建前ばかりの世の中に嫌気がさし、テレビという公共の電波を使って、人々の心の奥底にある毒をぶち撒けさせることを密かな愉しみとしていた。


今回のターゲットは、国民的グルメ番組『ウマい店、全店制覇!』のメインリポーター、佐藤さとう。常にニコニコと、どんな料理も「おいしい!」「最高!」と褒めちぎることで知られる、好感度抜群のタレントだ。ケンゾウは、ロケ車のマイク調整を装い、出発直前の佐藤に近づいた。


「佐藤さん、マイクの感度チェックしますね」

「ああ、いつもありがとう」


佐藤が笑顔でこめかみを差し出した瞬間、ケンゾウの指がスッと秘孔を突いた。


「……ッ!? 何だか、急に頭が……」

「大丈夫ですか? ロケ、始めましょう」


ケンゾウはニヤリと笑い、ロケ隊と共に最初の店舗へ向かった。


■ 1店舗目:老舗ラーメン店『頑固親父の味』

看板メニューは、頑固親父がこだわりのスープで作る「極み醤油ラーメン」。佐藤は、いつものようにカメラに向かって笑顔を作った。


「さあ、やってきました! ここ『頑固親父の味』のラーメン、評判ですよね! 頑固親父さん、こだわりのスープ、いただきます!」


佐藤はスープを一口すする。本来なら「濃厚なコクが口いっぱいに広がって〜」と言うはずだった。しかし、彼の口から飛び出したのは……


「……ペッ! 何だこれ! ドブ川の水か!? 泥臭くて飲めたもんじゃねえぞ! 頑固親父? ただのボケ老人じゃねえか! こんなもん客に出して金取ってんのか、この豚野郎!」


スタジオが凍りついた。頑固親父は顔を真っ赤にして怒鳴り散らし、スタッフは佐藤を止めようとするが、彼の口は止まらない。


「麺はゴムみたいに硬えし、チャーシューはパサパサで犬のエサにもならねえ! この店全体が公衆便所の匂いがするぞ! 視聴者の皆さーん、こんな店絶対来ちゃダメですよ!」


ディレクターが「カット! カット!」と叫び、ロケは一時中断。佐藤は術が解けたように呆然としていた。


■ 2店舗目:高級寿司店『鮨処・極』

気を取り直して、2店舗目は完全予約制の高級寿司店。板前が目の前で握る特上握りが自慢だ。佐藤は、緊張した面持ちで板前の前に座った。


「……先ほどは失礼しました。気を取り直して、ここ『鮨処・極』の特上握り、いただきます。板前さん、よろしくお願いします」


板前が丁寧に握った大トロが、佐藤の前に出された。彼はそれを一口で食べた。本来なら「口の中でとろけるような〜」と言うはずだった。しかし、暴言が再燃する。


「……うわッ、酸っぱ! 酢飯が酢っぱすぎて死ぬわ! ネタは腐りかけの生ゴミみたいで、生臭くて吐きそう! これで一貫3000円? 詐欺だろ、おい! 板前、お前詐欺罪で逮捕されろ!」


板前は包丁を握り直し、目は血走っている。スタッフは佐藤を羽交い締めにする。


「このシャリ、砂利でも混ぜてんのか? ガリガリ言って歯が折れるわ! この店、ミシュランの星取ったって? 審査員、全員味痴か、買収されたんじゃねえのか! 視聴者も、こんな高い店行けねえだろ、貧乏人どもが!」


ロケはまたしても中止。佐藤は顔面蒼白で、スタッフは彼をロケ車へ押し込んだ。


■ 3店舗目:行列のスイーツ店『ベリー・ベリー・パラダイス』

最後の店舗は、オシャレな内装と見た目も可愛いパフェで人気のスイーツ店。行列ができるほどの人気だ。佐藤は、パフェを前にカメラに向かった。


「……すみません、本当に。最後は、ここ『ベリー・ベリー・パラダイス』のパフェ、いただきます。見た目がとっても可愛いですね」


佐藤はパフェを一口食べた。本来なら「甘すぎず、ベリーの酸味がアクセントになって〜」と言うはずだった。しかし、容赦ない汚言が飛び出す。


「……ゲロッ! 砂糖の塊じゃねえか! 甘すぎて吐き気がするわ! ベリー? 腐ったイチゴとブルーベリーじゃねえか! 見た目だけの中身スカスカ! こんなもん写真撮って喜んでるインスタ女子は、全員脳みそがプリンになってるバカだろ!」


店員は泣き出し、客は驚いて佐藤を見ている。スタッフは佐藤を引きずるように店から連れ出した。


「こんなもん食べて『幸せ〜』とか言ってる奴、全員味痴の極みだ! 人生損してるぞ、もっとマシなもん食え! この店も、明日には潰れてるわ、バーカ!」


■ 放送と反響

術が完全に解けた佐藤は、絶望のどん底にいた。スタッフも「これは放送できない」と青ざめていた。しかし、プロデューサーは「逆にとんでもない視聴率が取れるかもしれない」と、そのまま放送することを決定。


そして、放送日。


日本中の視聴者が、テレビの前で凍りついた。好感度抜群の佐藤が、次々と料理を罵倒し、店主を罵り、視聴者をバカにする姿。しかし、SNSのタイムラインは、予想外の反応で埋め尽くされた。


『佐藤さん、神すぎるwww』

『今まで嘘ばっかり言ってたグルメ番組に風穴を開けた!』

『「ドブ川の水か!?」は名言www』

『本音が聞けて最高! 佐藤さんの汚言に共感!』

『この番組、毎週見るわ!』


なんと、クレームどころか、日本中の視聴者から大喝采の嵐が巻き起こっていたのだ。誰もが心に抱えていた、嘘くさいグルメ番組への不満や、建前ばかりの社会への鬱憤。それを、日本一好感度の高いタレントが、公共の電波で(汚い言葉を交えながらも)代弁してくれたことで、一種のエンターテインメントとして大熱狂を生んでしまったのだ。


翌日、佐藤の元には、数多くのバラエティ番組から出演依頼が舞い込み、彼は一躍「真実のグルメ暴言王」として、予期せぬ形で人気爆発した。


ケンゾウは、アパートの部屋でテレビを見ながら、発泡酒を一気に飲み干した。

「さて、次は誰の心の鍵を開けてやろうか……」


彼の「放送事故拳」は、建前で生きる現代社会において、恐ろしい威力を発揮し、人々の本音を暴き出し続けている。

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