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まっつぃ17|現代×ファンタジーお仕事短編集

死亡フラグが折られすぎて失業寸前なので、死なせずに“物語を震わせる仕事”に転職しました

掲載日:2026/02/21

この話自体は2018年頃に書いてた話をブラッシュアップしたものです。


私は概念世界に生きる、しがない死亡フラグ公務員である。


正式名称は、概念省・因果調整局・退場演出課 第一係。

俗に言う「死亡フラグ担当」だ。


今日も今日とて、

「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」

「ここは俺に任せて先に行け」

「大丈夫だ、すぐ戻る」

といった名台詞を、因果の織り成す世界各地へ納品する予定――だった。


「……また、折れてる」


端末を確認する。

私の担当案件、今月二十七件中、成立三件。

成立率、11%。

因果律の維持効率としては、労基的にアウトである。


原因は明白だ。読者が賢くなった。

昔はよかった。フラグを立てれば、八割はそのまま美しい散り際として回収された。だが今は違う。


「それ死亡フラグだぞ」と作中でツッコミが入る。


主人公がメタ耐性持ち。


視聴者コメント欄が未来を予測する。


サブスク文化で“意外性”が過剰供給されている。


結果――フラグは折られる前提で消費される娯楽になった。


これは我々概念側にとって死活問題だ。

そもそも死亡フラグという概念が誕生した当初、我々は歓喜した。

「退場に物語性が与えられる!」「因果が美しくなる!」

だが、最初の担当者は鬱になった。

立てるたびに折られる。折られるたびに存在が削れる。

概念とは、人々が信じてくれる限り存在できる。

信頼を失ったフラグは、ただの独り言だ。


その危機を受け、上位存在――通称“神様的ポジション”は我々を公務員化した。

終身雇用。安定収入。メンタルケア制度。折損手当あり。

さらに業務は細分化された。


戦場系


日常系


回想直後系


幸せ絶頂系


あと三日で定年系


私はその中の**「幸せ絶頂系・若年層担当」**だ。

結婚直前。夢が叶う瞬間。告白成功直後。

もっとも効率よく因果を回収できる部署だった。


――昔は。


「最近の若者は死なないんだよなぁ」

隣のベテランがぼやく。

今の主人公は強い。回復魔法がある。保険がある。仲間が助けに来る。なんならタイムリープする。

さらには、「この作品、主要キャラ死なない系だから」という読者の安心設計。

我々は今、“優しい物語”という巨大な流れに押されている。


私は端末を閉じる。

今月の評価はB−。このままでは予算削減対象だ。

「退場演出課は統合の可能性あり」という内部文書も回ってきている。


つまり――

死亡フラグが、死亡する可能性がある。

それは概念世界における最大の皮肉だ。


だが、私は思う。

本当に必要なのは、“死なせること”ではないのではないか。

もしかすると我々は、「退場の予感」を届ける存在であればいいのではないか。

実際、最近伸びているのは“疑似フラグ”案件だ。

立てる。折られる。しかし緊張は生まれる。

死ななくても、物語は揺れる。

もしかして――我々は“死”ではなく“緊張”を供給する存在に進化すべきでは?


その時、庁内アラートが鳴った。


【大型案件発生】

【主人公、幸せ絶頂で油断発言】

【回収難易度:S】


モニターに映る青年が言う。

「やっと平和になったな。もう誰も死ななくていい世界だ」


私は立ち上がる。

公務員証を胸に差し込み、呟く。

「……それはどうかな」


私は決断する。

物理的退場命令――保留。

代わりに、因果揺動プロトコルβを起動。

青年の背後に、ほんのわずかな“間”を落とす。


夕焼けが一瞬だけ鈍く濁る。

ヒロインの携帯が震える。

遠くで救急車のサイレンが鳴る。


だが、何も起きない。

青年は笑い、ヒロインも笑う。

世界は平和のままだ。


モニターの数値が更新される。

【死亡数:0】

【緊張波形:急上昇】

【視聴者心拍シンクロ率:87%】

【コメント欄:「今、絶対誰か死ぬと思った」】


私は静かに息を吐いた。

死なせなくても、物語は震える。

数秒後、庁内回線が開く。


「第一係の処理、確認。死亡なしにもかかわらず、因果密度維持成功。興味深い」

上層部の声が続く。

「退場演出課の統合案は保留とする。名称変更を提案する」


翌月、部署名は改められた。

概念省・因果調整局・緊張演出課。


死亡フラグは消えない。

ただ、形を変えるだけだ。


私は今日も出勤する。

誰かを殺すためではなく、誰かの心拍数を一拍だけ上げるために。


そしてどこかの世界で、誰かが言う。

「もう、何も起きないよ」


私は静かに、風を送る。

――物語は、まだ生きている。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回の物語、あなたはどう感じましたか?

「こういう世界、ありそう」「いや、もう既にこうだろ」など、ぜひ感想で教えてください。

★評価やフォローは創作の燃料になります。

現代社会にファンタジーを混ぜた変な物語を、今後も投稿していきます。


他のファンタジー短編は以下のリンクから多数読めます!

https://ncode.syosetu.com/s0717k/

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