勇者パーティーの荷物持ちですが 契約上、全員逆らえません
勇者パーティーに
「荷物持ち」という役職がある。
剣も振れず
魔法も使えず
戦闘では
一切の戦力にならない。
その代わり
誰よりも多く
荷物を持ち
誰よりも早く
撤退準備ができる。
俺――
名前はレイン。
今日も俺は
勇者アレンの
背後を歩きながら
巨大なリュックを
背負っていた。
中身は
回復薬
予備武器
魔導書
替えの下着
なぜか
鍋と調味料。
「なあレイン
このダンジョン
本当に安全なのか?」
勇者アレンが
振り返って聞く。
俺は
帳簿を閉じて
淡々と答えた。
「契約第七条
危険度B以下と
記されています」
「相変わらず
堅いなあ……」
魔法使いの
リリアが苦笑する。
彼女は知らない。
この帳簿が
何を意味するかを。
◇
勇者パーティーは
王国直属の
公式部隊だ。
王と
神殿と
商業ギルド。
三者が
共同で管理し
契約によって
成り立っている。
そして
その契約の
管理責任者が
俺だった。
「え?」
と思うだろう。
だが
そういう
契約だった。
勇者アレンは
剣を振る権利を
与えられている。
魔法使いリリアは
魔法を使う
義務を負っている。
戦士ゴードは
前線を
維持する。
僧侶ミーナは
回復を行う。
そして
荷物持ちレインは
契約の
最終承認権を
持つ。
なぜなら
パーティーの
存続条件は
「物資管理」だからだ。
◇
ダンジョン最深部。
巨大な魔獣が
咆哮を上げ
床を震わせた。
「来るぞ!」
アレンが
剣を構える。
だが
俺は一歩前に出た。
「待ってください」
全員が
凍り付く。
「レイン?」
「契約第十二条
未確認魔獣との
交戦は
事前承認が
必要です」
「はあ!?」
ゴードが
叫ぶ。
「目の前だぞ!」
俺は
静かに
契約書を開いた。
「未承認で
戦闘を行った場合
報酬無効
装備没収
蘇生費用は
自己負担です」
沈黙。
魔獣の
咆哮だけが
響く。
「……撤退?」
リリアが
恐る恐る聞く。
俺は
頷いた。
「今回は
危険度が
想定を超えています」
「くそっ……!」
アレンは
歯噛みしながら
剣を下ろした。
魔獣は
拍子抜けしたように
首を傾げていた。
◇
王城。
報告会。
「なぜ
魔獣を
討たなかった!」
大臣が
机を叩く。
俺は
一礼した。
「契約違反を
防ぐためです」
「勇者が
現場判断できぬ
はずがなかろう!」
俺は
静かに
一枚の紙を出した。
「こちら
勇者契約書
第十四条です」
大臣は
黙った。
王も
黙った。
なぜなら
その条文は
王自身が
署名したもの
だったからだ。
◇
夜。
宿屋。
「なあレイン」
アレンが
酒を飲みながら
言った。
「俺たち
お前に
逆らえないよな」
俺は
少し考えてから
答えた。
「逆らえますよ」
「本当か?」
「契約を
破棄すれば」
全員が
黙った。
「その場合
報酬
装備
名誉
蘇生権
すべて失います」
「無理だな」
ゴードが
即答した。
ミーナは
祈るように
手を合わせた。
「レイン様
これからも
よろしく
お願いします……」
「様は
やめてください」
俺は
苦笑した。
◇
翌朝。
俺は
いつも通り
荷物を背負う。
誰よりも
重い荷物を。
誰よりも
静かな権力を。
勇者パーティーは
今日も
俺の後ろを
ついてくる。
「なあレイン」
アレンが
言った。
「俺
勇者だよな?」
「契約上は」
「夢がねえなあ」
俺は
少しだけ
笑った。
荷物持ちは
今日も
一番偉い。
だが
一番
腰が痛い。
それも
また
契約通り
だった。




