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【世界記録更新】婚約破棄RTA(Any%) 「王子が口を開く前に罪状を叩きつけろ」

作者: とんこつ
掲載日:2026/01/01

婚約破棄とはタイムアタックである。


王立学園の卒業パーティ会場。

シャンデリアの光が煌めき、着飾った貴族たちが談笑する優雅な空間。

その中心にある壇上に、第二王子カイルが上がった。


彼の隣には、小動物のように震える(演技の)男爵令嬢マリアが寄り添っている。

音楽が止み、注目が集まる。

婚約者である私、侯爵令嬢アレクサンドラを見下ろし、王子が息を大きく吸い込んだ。


――来た。


私の脳内で、無機質なデジタルタイマーが【00:00:00】を表示し、カウントを始める。


人生7周目。


今回のプレイ目的は「婚約破棄イベントの最速クリア」。

レギュレーションは「慰謝料放棄・国外追放受諾・バグ技(壁抜け等)使用禁止」のAny%だ。

王子が口を開く。その予備動作はコンマ5秒。

私はドレスの裾を僅かに持ち上げ、前傾姿勢クラウチングスタートをとった。


「アレクサンドラ! 貴様との婚約をは――」

「はい破棄で! 承知いたしました!」

「えっ」


会場が静まり返るよりも早く、私は懐から用意していた書類の束を素早く取り出した。


「理由はそちらのマリア様との『真実の愛』! 私は二人を引き裂く悪役令嬢! よって国外追放! 異議なし! 全て認めます!」

「ちょ、待て! 貴様、何を……」


王子がたじろぐ。タイムロスだ。


ここで会話イベントを発生させてはいけない。私は彼が次のセリフを紡ぐ前に、書類の束を王子の胸板に叩きつけた。


バシィン!!


「こっ……これは何だ!?」

「貴方がこれから読み上げる予定だった『私の罪状リスト』です! 教科書への落書き12件、上履き隠し3件、お茶会での暴言54回! 全て日付と目撃者の署名入り、公証役場の確定日付も取得済みです!」

「なっ……!?」

「読み上げは時間の無駄なので省略! 私の有罪確定! 婚約破棄成立! 以上!!」


完璧なチャート運び。


本来ならここで王子がネチネチと十分間は続ける断罪演説を、物理的な証拠提出によって強制スキップすることに成功した。


私はスカートを翻し、きびすを返す。

目指すはテラスへの出口だ。


「ま、待てと言っているだろう!」


背後で王子の怒声が聞こえた。


チッ、まだ追跡フラグが折れていないか。

振り返ると、王子が壇上から駆け下りてこようとしていた。


このままでは出口の前で追いつかれ、無駄な問答イベントが発生してしまう。


足止めが必要だ。


私は視線を走らせ、壇上で棒立ちになっている男爵令嬢マリアを捉えた。


――使えるアイテムは、何でも使う。


私は再加速し、マリアの元へ肉薄した。


「えっ、アレクサンドラ様? きゃっ!?」


私はマリアの腕を掴むと、柔道の背負投せおいなげの要領で、迫りくる王子に向かって彼女を「投擲」した。


「マリアさんが倒れそうですよー!(棒読み)」

「きゃあああぁぁぁ!」

「おっと、危ないマリア!」


ドサァッ!


王子は反射的にマリアを受け止め、二人はもつれ合うように床に倒れ込んだ。

ナイスキャッチ。これにより、約5秒間の硬直時間が発生する。


「お二人ともお幸せに! 二度と会うことはないでしょう、サヨナラ!」


私はその隙を見逃さず、テラスへと繋がるガラス扉の前へ到達した。

通常ルートであれば、ここで扉を開け、衛兵に呼び止められるイベントをこなさなければならない。


だが、今の私はRTA走者だ。


私はドレスの裾をまくり上げ、装備していたランニングシューズの底で、ガラス扉を思い切り蹴り破った。


パァァァリンッ!!


盛大な破砕音と共に、夜会会場と外の世界が繋がる。


「なっ……!?」

「あ、アレクサンドラ嬢が……!?」


会場の貴族たちが悲鳴を上げる中、私はためらうことなく割れた窓枠から夜の闇へと跳躍した。


ここは王城の2階。


普通に飛び降りればタダでは済まない高さだが、問題ない。


「セバスチャァァン!!」


眼下には、山盛りの綿花を積んだ、実家の荷馬車が待機していた。

私は受け身を取りながら、フカフカの綿の中へとダイブする。


ボフンッ!


完璧な着地。

手綱を握る老執事セバスチャンが、懐中時計を見ながら涼しい顔で振り返った。


「お嬢様、ただいまのラップタイム、1分12秒でございます」

「自己ベスト更新よ! さあ出して、国外までノンストップでね!」

「畏まりました。少々揺れますので、綿におつかまりください」


セバスチャンが鞭を振るう。

特別な訓練を受けた駿馬たちが、いななきと共に急発進した。


キキキーッ!!


王城の石畳に、馬車とは思えない派手なドリフト音を響かせ、私たちは夜の王都を駆け抜けていく。

私は綿の山から顔を出し、遠ざかる王城を見上げた。

割れたテラスの窓から、王子とマリアが呆然とこちらを見下ろしているのが見えた。


「あ、そうそうセバスチャン。慰謝料の請求書はどうした?」

「ご安心ください。先ほどお嬢様が王子に叩きつけた罪状リストの束、その一番下に忍ばせてございます。『精神的苦痛への慰謝料、金貨一万枚』。王家の承認印も偽造……いえ、手配済みです」

「流石ね、仕事が早くて助かるわ」


私は夜風に吹かれながら、脳内のタイマーをストップさせた。

これにて、今回のRTAは完走フィニッシュだ。


「さて、次の人生ループでは、どんなチャートを試そうかしら。婚約破棄のRTAは更新する度に達成感が爽快でやめられないわぁ」


私は馬車の荷台でポテトチップスの袋を開けながら、攻略サイト(自分の記憶)の更新作業に取り掛かるのだった。


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― 新着の感想 ―
おもしろかったですヾ(≧▽≦)ノ 主人公の爽快感がイイですね!! この物語に実況者と解説者がいてそっち視点で話し進めた最高傑作になりそうな予感www
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