9.偽りの夫婦
その後、予定通り帝国に到着し、無事に結婚式を終えた。
「ステライト皇太子殿下。これから末永くよろしくお願い致します。私も次期皇太妃として殿下をお支えできるよう、精一杯務めさせて頂きますわ。」
「…あぁ。こちらこそよろしく頼む。それより、せっかく夫婦になったのだから、名前で呼んでくれないか?私もシスティーナと呼ばせて頂こう。」
「分かりました。ではユージン様と。」
「あぁ、システィーナ。改めてこれからよろしく頼む。」
「…はい。ユージン様。」
その後、ユージン様と少し豪華な晩餐を頂いて、メイド達に体の隅々まで磨かれ、綺麗なナイトドレスを着せてもらった。そっか、今夜は初夜だから…。本当は愛されてもいない政略結婚の相手になんて嫌だけど…、彼がもし私を愛してくれているのなら。
…どうしよう、緊張してきた。勉強は一応してきたけど、こんな事初めてだし。
「待たせたか。」
「っ!」
「い、いえ全然。あの…私こういう事は初めてなので自信はないのですが、そ、その…よろしくお願いします!」
「………。」
「あ、あのユージン様?」
「…はっ。お前はそうやって初心なフリをして男を誑かしてきたのか。」
ユージン様の声が急に冷たくなる。
「…え?」
「お前の噂は帝国にまで届いている。自分の妹を虐げ、男を誑かす悪女だとな。」
「……!」
「いいか。俺はお前を愛する事は決してない。」
「なっ!聞いてください!私は悪女なんかじゃ!」
「黙れ。悪女の話など信じる訳がないだろう。」
「そんな……。」
「…詳しい話は明日する。」
ユージン様は冷たく吐き捨てるようにそう言うと、部屋を出て行ってしまった。
ーーあぁ、またか。誰も信じてくれない。やっぱり私はレイだけでいい。…あの人は「いらない」。その瞬間、私の心がスッと冷えていくような感覚がした。