ep6.
クリスマスが平和に過ぎて、正月が素知らぬ顔で身体の横をすり抜けて行った。
十二月三十日から一月四日まで、両親は何処か温泉旅行へ行き、テーブルにはお土産だと彼らが買ってきた温泉饅頭が、封を切られないまま放置されていた。
白い箱の上で、窓から差し込む朝日が、カーテンの揺らめきを受けて、波打つように揺れている。
賞味期限が残り二日に迫っているのは知っていた。
しかし、その箱は開封される気配はなく、渡されたその日以降も、その場から動かされる事はなかった。
それは俺達の細やかな抵抗でもあった。
果歩がどう思っているか分からない。けれど、少なくとも「食べない」と言う選択肢を俺は自ら選んだ。
「せっかく買って来たんだから食べなさいよ」
と急かす、母親の少し苛立った声を曖昧に払い退けて、俺は「その内」と告げて、果歩は「ダイエット中だから、いらない」と、言い放った。示し合わせたような「拒否」に、母親は溜息を一つ零し、父親は我関せずで、視線すら向けなかった。
俺は開封されないままの饅頭の箱を、冷蔵庫の上へと押しやって、彼らのなけなしの愛情を拒絶した。恋に賞味期限があると言われるように、愛情にも賞味期限があれば、いくらか楽なのに。
俺はそんな事を思いながら、頭上の饅頭の白い箱の角を見つめた。
食べ物に罪はないけれど、これは必要な犠牲なのだ。戦争だって、必要だからっていう理由で、意図も簡単に人を殺す。饅頭一箱無駄にしたところで、誰に何を責める権利があると言うのか。
――なんて、小学生以下の理屈をごねても仕方ない。けれど、これは俺と果歩にとって、必要悪と言うやつなのだ。
クジラを殺したら大事だけど、牛や豚を殺しても何も言われない、そんな身勝手な解釈と、愛情とも呼べないそれを踏み躙りたい。
犬の糞を踏んだローファーの踵で、蹂躙しつくしたい。そんな酷く乱暴な感情が、胸の中で渦巻いている。
俺はそう思いながら視線を逸らすと、学校へと足を向けた。