ep5.
「先輩、何処か行きたい所はありますか?」
「連れてってくれるの?」
「クリスマスに約束しているので、一応」
「どこでもいいの?」
「健全かつ、遠い場所でなければ」
「私の事どんなふうに思ってるのかな」
「ノーコメントで」
「じゃあ水族館。デートっぽいでしょ?」
――デート。
言葉のやり取りの中に放り込まれた異質な一言に、スマホ画面ですいすいと動いていた親指が止まる。デート。
そうか、クリスマスに二人きりで出かけるとなると、それはもう誰の承認を得るまでもなく、クリスマス・デートというものになるのか。俺は一瞬固まった指先にぐっと力を籠めると、
「わかりました」
と短く返して、おやすみなさい、というパンダが枕を抱えて眠っているスタンプを押した。
スマホを枕元へと放り投げて布団に頭を沈めると、まさか本庄先輩と俺の間に、そんな単語が飛び出してくるなんてと、少し面食らっている自分に気付く。
心臓が高鳴り、クリスマスが楽しみで仕方ない! ――なんていう少女漫画のような展開は、無論この胸には溢れて来ず。けれど、呆気ないほど易々と手に入れてしまった人生初のデートに、天井へとため息を吐き上げる位の感慨深さはあった。
少しくらいは身なりは気にすべきだろうか。
不意にそんな事が頭を過る。けれど、よく思い返してみれば、このデートは大島との約束をすっぽかす為の単なる口実に過ぎない。別に俺が気合を入れる必要などどこにもないのだ。
俺はそう思い直して、寝返りを打った。しかし、いくら特別な事ではないと言い聞かせても、胸の奥がざわざわと少しだけ煩い。