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第1話 吾輩は吉良義安である

 吾輩は転生者である。名前は吉良(きら)上野介(こうずけのすけ)義安(よしやす)。令和の世に普通に生きていて、小説投稿サイトで歴史IF小説などを楽しんでいたはずが、気づいたら戦国時代に逆行転生していた。


 それで、自分が吉良義安と気づいてガッカリした。名前でお分かりだろうか? そう、あの『忠臣蔵』の吉良上野介義央(よしなか)のご先祖様なのである。


 これがまた、歴史IF的に活躍できるタイプの武将ではないのだ。家柄だけのボンボンである。家格だけなら、今川義元より上。そして、妻は家康の祖父である清康の娘。神君ご縁戚なのだ。


 しかも、自分が転生者と気づいたのは結構歳がいってからだった。気づいたときには、既に松平元康、つまり後の徳川家康とマブダチになっていた。どっちも今川家の三河支配の邪魔なんで駿河で人質生活だったのである。それで縁戚。そりゃ仲も良くなるわ。元康の元服のときには髪結いの役やってるし。


 あえて変なことをしなくても、このままのほほんと史実通りに生きていれば、我が吉良家は徳川将軍家の家臣、名門旗本、高家筆頭としてこの先生きのこることが保証されているのである。先生キノコりました! もっとも、吾輩自身は三十三歳で死んじゃうんだけどね。一説には駿河に幽閉されたまま死んだという。でも、そうだとすると弟の吉良義昭が三河一向一揆で家康に謀反を起こしたあとで、吾輩が三河吉良家を継いでいるという記録と矛盾するんだよね。


 というわけで、吾輩の目標はとりあえず今川義元が桶狭間で死んだ時に駿河から脱出すること。あと、三河一向一揆のときに弟の義昭みたく家康と敵対しないこと。まあ、こっちはマブダチだから当然家康に味方する気だし。


 そして、あっさり成功しました。転生者知識チート万歳!


 このままのんびり余生を生きていれば、大して苦労も無く……いやまあ、徳川家というか三河武士って結構大変な目にはあうんだけど……ウチ、高貴な家柄なんで、贅沢やワガママ言わずに家康の権威付けに協力してるだけで、徳川幕府成立まで何とかなるっしょ。


 しかし、そこで気が付いてしまった。吾輩はOKである。吾輩の息子の義定もOKである。孫の義弥も徳川幕府高家筆頭、旗本三千石に取り立てられるのでOKである。その息子義冬もOKである。


 だが、その更に息子の義央、テメーは駄目だ。そう、あの『忠臣蔵』である。玄孫の代で(正確にはその養子の代だけど)我が吉良家はお取り潰しの憂き目にあってしまうのである。


 しかもしかも、コレ、我が家で何とかしようとしても、多分無理。


 人形浄瑠璃『仮名手本忠臣蔵』の悪役、高師直(こうのもろなお)が極悪非道の悪役として描かれているせいで、一般的にも悪役にされちゃってる我が玄孫義央なのだが、史実的には領地のことをしっかり栄えさせようと頑張った名君なのである。別に賄賂とかも取ってないよ、アレは正当な指導費なのだ。


 さらにさらに、史実的には、実はイジメなんて全然やってない。そんなことして失敗したらヤバい勅使饗応(ちょくしきょうおう)の責任者なのである。大過なくやり遂げようと頑張っていただけなのだ。


 ところが、あの浅野(あさの)内匠頭(たくみのかみ)長矩(ながのり)が、何をとち狂ったか……というか、どうも実際に狂ってたらしい。親戚にも突然発狂して刃傷沙汰起こしてるヤツがおんねん。ヤバい家系なのである。だから、特に理由も無く斬りつけてきたのだ。「かねてよりの遺恨」とか言ってるが、その中身が何も無い。ただの言い訳である。だから「喧嘩両成敗」じゃなくて一方的な「刃傷沙汰」扱いで義央は無罪だったのだ。


 それなのに「喧嘩両成敗じゃないのはおかしい」とか言いがかりつけられて、赤穂浪士どもに討ち入りされて義央は首チョンパされてしまったのである。


 つまり、我が吉良家は、我が玄孫義央は、完全にやられ損なのだ。子々孫々まで「身を慎め」とか「政務に励め」とか「賄賂を取るな」とか「いじめをするな」とか家訓を残しても、やべーヤツに一方的に攻撃されてアウトになるだけなのである。


 マズい、詰んだでござる。


 ……そう思っていた吾輩の頭のなかに、突然ピコーンと、いいアイデアが思い浮かんだのだ。


 そうだ、家康に吉良家を継がせよう!

※第2話以降は毎日19:30の投稿で、全話予約済みです。

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