第七話 かわいい幽霊…?
前回、次回の投稿は10月2日と記載していたのですが、手違いにより投稿できておりませんでした。大変申し訳ございませんでした。
ある日の夜10時。
トオルは、いつも彼がアルバイトとして働いている、戸有町のコンビニ「ロッソン」へ向かっていた。彼は、いつもはこんな時間にコンビニへ来ることはないのだが、今日は事情があった。
「俺の自転車を返してもらわないと…。明日絶対必要なのに…」
そう、彼はこの前、夜勤のおじさんと何故か昼間から幽霊探しをし、その際におじさんがトオルの自転車を持っていってしまったのだ。
「ていうかあれから一週間は経ったよな!?なんであのおじさん返してくれないんだよ!!同じコンビニで働いてるのに!!」
そんなことをブツブツ言いながら、歩みを進めていく。外はもう暗く、人も少ない。時々、夜風が肌にあたって、トオルは少し身震いをした。
ピロリロリロン
カウンターにいたのは、見覚えのある、あのオカルト好きのおじさんだった。いつもオカルト系の服を着ているらしく、それが彼の特徴となっている。しかし今日は夜勤中なので、制服に着替えていてわからない。
「おお、君か。またあえて嬉しいよ。」
「そうですか…。」
「で、こんな時間に何を買いに来たんだい?」
「いえ、今日は買い物しに来たんじゃないです。」
そう告げると、トオルはまっすぐにおじさんの方を見て、単刀直入に言った。
「俺の自転車返してください!!」
しかしそれを聞いたおじさんは、ポリポリと頭をかいた。
「ああ、ごめん。それ家においてきちゃったんだ。」
おじさんの言葉に、トオルはがっくりと肩をおろす。
「もう…!明日絶対必要なんですよ!俺ちょっとだけレジ変わるんで取ってきてください!!」
「いや、君は今シフト入ってないからだめだよ。」
「なんでこういうときは常識人なんですか!!」
おじさんは、公園での幽霊探しの際、子どもたちに冷ややかな目で見られてしまうほど、非常に変わった人だったのだ。
「僕は変人じゃないぞ」
「いや、昼間から幽霊探ししてるなんて変人と言われてもおかしくないと思うんですけど…」
「そしたら手伝った君も変人だ。」
「……!?」
おじさんの返しに、トオルは言葉をつまらせる。
「そ、そんなことより!!自転車どうしてくれるんですか!!明日絶対必要なんですよ!」
「すまないが、僕も明日、どうしても必要なんだ。」
「自分の自転車買ってくださいよおおおお!!」
「まあまあ、あと少しだけ、なっ?」
おじさんはそう言いながら、ホットスナックの片付けに取り掛かっていた。からあげちゃんはまだ残っているが、ロッチキは完売したため、そのトレーを取り出し、流しに持っていく。
…と、その時。トオルは彼の足を見て思い出した。
あの日、おじさんが自転車に乗って去っていったとき。彼の足はなくなっていたのだ。
…しかし、今は彼の足がはっきりと見える。
あの時見間違えたはずはない。隣りにいたマコも、彼を見て同じように驚いていたからだ。
「あの、おじさん。」
「ん?なんだい?」
「その…。おじさんって人間ですよね?」
おじさんが驚く。
「え?僕が人以外のなにかに見えるのか?」
「いや…その、人以外というか…生きてるんですよね?」
「突然何を言い出すんだ?」
おじさんはそう言って笑い出した。
「僕は趣味で幽霊探しをしているけど、自分自身が幽霊になろうなんて考えたことはないぞ?」
「そう、ですよねぇ…」
おじさんはカウンターの奥に入っていき、流しでホットスナックのトレーを洗う。ジャー、という音が、静かな店内に鳴り響く。
トオルは、何だかその音に、少し違和感を覚えた。時々、不自然にジャッ、ジャッと途切れ途切れになるのだ。トレーを動かしているからその音だろうと思っていたが、何だかおかしい。カウンターの奥に顔をのぞかせ、おじさんの手元を見てみる。
ジャー、ジャーー…ジャッ…ジャーー
今の途切れ方を見て、トオルの抱いた違和感は確信に変わった。おじさんがスポンジに洗剤をつけている最中だったのにもかかわらず、蛇口から出る水が途切れたからだ。水の流れに触れずに、途切れさせることはできないはずだ。
その時トオルは、ふとあるアプリのことを思い出した。
そして、スマホをポケットから出し、そのアプリ――『レッツ幽霊探し』をタップした。このアプリは、おじさんと幽霊探しをしたときにも使用した、見えてはいけない何かがたくさん写ってしまう写真アプリなのだ。
「まさかまた、これを使う時が来るなんて…」
トオルは冷や汗を流しながら、そのアプリで恐る恐るおじさんの背中を写した。
「う、うわあああああああ!!!!」
トオルは思わず大声を出してしまった。
その声に気づき、おじさんがトオルのほうをむいた。
「え?ちょっと、どうしたんだ。なんで僕を写しているんだ」
おじさんはトレーを洗う手を止め、トオルの方にに向かって来た。
「お、おじさん!!そこ、そこに…!!」
「なんだ、どうした」
「い、いるんですって!!」
「ん?なにが」
「だ、だからああああ!!あなたならわかるでしょう!?」
そう、彼の手元に写っているのは、ある女の霊だったのだ。長い黒髪に、白装束を着ていて、下半身が透けている。宙に浮いているし、どう見ても霊だ。
トオルの青ざめた顔を見て、おじさんは、
「あ、もしかしてレイコちゃんのことか?」
と聞いた。
「ええ!?知り合い!?ウソでしょ!?」
「ああ、やっぱり。僕もそのアプリで見つけたんだ。」
おじさんは何故か慣れている様子である。
「な、なんでそんなに当たり前のような…」
「まあ、長い付き合いだからね。」
霊と、長い付き合い…?
「も、もしかして、生前に親しかった人とか…?」
「ううん、ここで夜勤を始めたときに知り合って、仲良くなったんだ。」
トオルはそこまで聞いて、腰を抜かして床にペタンと座り込んでしまった。夜勤を始めたときから、ということは、このコンビニに潜んでいる霊なのだろうか。その霊と仲良くなった…?ますます意味がわからない。
「おっと、君、大丈夫か?」
おじさんがカウンターから出てきてしゃがみこみ、トオルの手を取り立ち上がるのを手助けする。
「もしかして君、栄養足りてないのか?」
「今の流れでよくそう思いましたね…、うう…。」
トオルは腰をおさえながら、なんとか立ち上がる。
「霊が、怖いとか思わないんですか…?」
「ああ、なるほど。霊が怖くて腰を抜かしたのか。大丈夫、彼女は可愛い霊だからね。」
「可愛いって…」
「やることといえば、棚からおにぎり盗んだり、お菓子を落としたり、レジ袋を浮かばせたり…つまりは遊んでいる程度だ。」
「そ、そうなんですか…」
「そして、僕も遊び友達ができて嬉しい!」
「仕事中でしょう!?」
「まあまあそう言わず、とりあえずそのアプリで彼女をよく見てみてくれよ。なかなか可愛くて面白い霊だからさ。」
そう言うと、おじさんはまた流しの方に戻っていった。
トオルは正直、怖さのあまりすぐにでも家に帰りたかったのだが、さっき腰を抜かしたせいで、カウンターに寄り掛かって立っているのに精一杯だった。そのため、少しだけ様子を見ることにした。
「やっぱり、まだいるなあ…」
例のアプリ『レッツ幽霊探し』を使っておじさんの方を写すと、彼女はまだ流しの上の方で浮いていた。おじさんが洗っているのをしばらく見ていたかと思うと、今度はニコニコしながら、蛇口から出てくる水をちょんちょんつついて遊んでいる。
「なるほど、さっきの変な途切れ方はそういうことだったのか…」
おじさんが洗い終わって、カウンターに戻ってきた。
「どうだった?結構かわいいだろう。」
「まあ、怖さは半減したかもですけど…」
「お客さんも来ないし、君、もうしばらくそこにいていいから、ぜひ彼女を観察してくれ。」
「ええ!?」
「そして良ければ、動画も撮ってもらいたい!!」
「あなたの趣味に付き合う気は…」
「撮ってくれたら、なるべく早く自転車を返すよ」
「明日必要なんですけど!?」
トオルは文句を言いながらも、動けずに暇なので観察を続けることにした。
レイコは、おじさんの髪を引っ張ったり、入口のドアを開けたりしめたりするのを繰り返したり、店内のBGMをハラパンマンのマーチに変えたりして、終始遊んでいた。客が来た時にはおとなしくしているようで、客も困った様子は無い。
「確かに、この程度ならお店自体が困ることはないか…。あのおじさんも怖がってないみたいだし…」
トオルは自分の腰が回復してくると、
「そろそろ帰ります。」
といって入口の方へ向かっていった。
「そうか。じゃあな。またレイコに会いに来てよ。」
「自分の子どもみたいな言い方しないでくださいよ」
トオルは外へ出ると、もう一度振り返った。
閉まっていく自動ドアの先で、おじさんの足が消えていくのが見えた。
「これ…もしかして…」
トオルはさっきのアプリをもう一度起動し、かざしてみた。
「レイコが指さしながら笑ってる…。足が消えてたのは彼女のいたずらの一つだったのか…。あれ、じゃああの子はコンビニの霊じゃなくて、いつもおじさんと一緒にいるってこと…!?」
レイコはトオルがまたスマホを向けていることに気づくと、トオルにむかってピースをしてみせた。
「ふーん、なるほどね」
大学へ向かう途中、トオルはマコと偶然会ったので、昨日の幽霊の話をした。
「まあ、そのくらいなら大丈夫でしょ」
「本当に大丈夫かなぁ…」
「考えすぎだって」
そう言いながら、マコはトオルの方をまじまじと見る。
「な、なんだよ」
「いや、自転車持ってないみたいだけど、今日どうするのかな〜と思って。」
「!!!」
トオルは昨日の騒動で、自転車のことをすっかり忘れていたのだ。
「今日、経済学部1年の交流イベントで、サイクリングする日だよね?」
「お、俺やっぱ参加しな…」
「トオルは走るで決定だね!」
マコがトオルに向かって親指を立てる。
「いやだからやらな…」
「参加しないなら、またからあげちゃんいっぱい買ってもらおうかな〜??」
「…くっそおおおあのオカルト野郎!!!!」
その日、トオルは自転車と並走するハメになり、まるで自分の足がなくなったかのような感覚を覚えたのだった。
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次回の投稿は10月16日(月)の20時になります。よかったらまた覗きに来てください!