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このコンビニちょっと気になる  作者: 天芽あおい
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第五話 なんか変だな


ある月曜日。()(ある)(まち)にあるコンビニ『ロッソン』で、今日もマコは朝七時からバイトをしていた。マコは床野(どこの)大学の二年生で、経済学部に所属している。マコはいつものように、雑巾でレジの拭き掃除を始めていた。


「今日、トオル君来ないね。どうしたんだろう」


そう話しかけてきたのは、今マコと一緒に働いている、サオリだ。マコの一つ上で、同じ大学の子ども教育学部に所属している。彼女は、カップ麺が大量に入った段ボールを抱えていて、カップ麺が並ぶ棚の前に持っていくと、よいしょ、と床に置いた。


「そうですね。いつもは私が来てから数分後くらいにコーヒー買いにきてるのに。」


そう言ってマコはコンビニの入り口の方に視線を送る。トオルというのは、マコと同じ学部に所属している、マコの同級生のことだ。彼もこのコンビニで働くバイトの一員なのだが、休日に入ることが多いため、平日の朝はバイトではなく常連客としてやってくる。


「寝坊したんじゃない?」

「ありえますね。」


二人でははは、と笑う。


「トオル君、いつもホットコーヒーですよね。最近暑いのに。」


マコがカウンターを拭きながら言う。


「そうだよね。しかも毎朝歩いてきてるんでしょ?汗かいて暑いはずなのにね。」

「本人はおなかが弱いからだって言ってましたけど。」


二人が雑談をしていると、


「おはよう」


と、店長が入ってきた。店長は謎の多いおじさんというイメージだ。


「あ、店長。おはようございます。」

「店長おはようございます!今日トオル君まだ来てないんですよ」

「そうなのかね。めずらしいな。」


店長が不思議そうな顔をする。


その後、三人はそれぞれ仕事を進めながら、レジで客の対応などをしていた。時間がたつにつれ、客が増えてきて忙しくなってきた。


「ありがとうございましたー!」


と言ったかと思うとすかさず、


「いらっしゃいませー!」


という始末である。朝の8時を過ぎたあたりでは、いつも会社員や学生で大混雑なのだ。さらに、からあげちゃんやコーヒーなどをいくつも頼まれると、レジでやることが多くなって本当に大変なのだ。


レジの前にはいつの間にか大行列ができていた。いつも人が多いのだが、今日はいつも以上に人が多い気がする。マコとサオリが忙しそうにしているのを見て、バックヤードでパソコン作業をしていた店長も顔を出す。


「忙しそうだから、手伝おう。」

「ありがとうございます!」


マコとサオリがレジ打ち、店長がからあげちゃんとコーヒーを用意してくれる。三人の連携プレーが炸裂し、レジの行列もスムーズに進むようになってきた。


(ん?あれは…)


ふとマコが店内を見渡した時だった。たくさんの客に紛れて、黒い帽子をかぶり、黒いジャージを着た人物が、店内をうろうろしているのが見えた。


(全身黒で暑そうだな…)


マコは忙しさのあまりその程度しか考える暇がなかったが、しばらくしてひと段落着いたところで、もう一度見渡すと、まだ店内をうろうろとしており、優柔不断に行ったり来たりしていた。


(あの人、なんか変だな…)


行列がなくなったところで、サオリと店長に耳打ちする。


「あの、さっきからうろうろしてる人がいるんですけど」

「ああ、あの人ね」


サオリがこくりと頷く。サオリも気づいていたようだ。


「ああ、あの人。私が朝来た時も外にいたような…」


店長が思い出したように言う。


「え!?朝7時あたりからずっといたってことですか??」


マコが小声で驚いた声を出す。


「もしかして、何か盗んでるんじゃ…」


マコがそう言ったとき、その不審な人物はそそくさとトイレに入っていった。


「もしかして、トイレットペーパー盗む気…?」


サオリがいつにもなく低く小さな声を出す。


トイレの中では店員に見られることがないため、トイレットペーパーを取っていこうとする人がたまにいる。

しかし、このコンビニではそのような事件を減らすため、不審な人物は特に注意して観察し、トイレ掃除のときにトイレットペーパーの減りが異常に早いことが判明した場合には、防犯カメラで誰が入ったのか要チェックしている。そのおかげで解決したこともしばしばあるのだ。トイレ内にも、「トイレットペーパーを勝手に持ち出さないでください」という張り紙も貼ってある。


三人でトイレの方を見つめていると、レジの前で声がした。


「あの…すみません…。」


声に気づいて店長が返す。


「おや、こんにちは。お会計かな。」


声の主は、小さな女の子だった。小学一年生くらいだろうか。頭の上で二つに縛った髪の毛が、彼女が動くたびにぴょんぴょん動いてとても可愛らしい。


「こ、これ、おねがいします!」


そう言って、小さな腕を一生懸命伸ばして、カウンターに『ハラパンマンチョコ』を置く。


ハラパンマンチョコは、子どもたちに人気のキャラクター『ハラパンマン』の顔の形をしたチョコレートで、手で持ちやすいように棒が刺さっている。値段もお手頃で、子どもたちの間で大人気なのだ。


サオリはトレーを持ってカウンターの外へ出ると、


「100円です」


と言ってしゃがみこみ、トレーを女の子の目の前に差し出した。カウンターは高くてお金を置きにくいだろうと考えたサオリの配慮だ。


女の子がポケットから財布を出していると、トイレからさっきの不審な人物が出てきた。


「店長!出てきました!」

「うむ。」


店長とマコは素早くカウンターから出ると、店長はその人物にむかって、マコは入り口に向かって走っていく。


「きみ、待ちたまえ!」


店長が声をかけると、不審な人物は急いで出口の方へ向かった。しかしマコが待ち伏せているため、出ることができない。


「君、何か盗んだのかね。」


店長がそう言いながら腕をつかむ。


「ひっ!…て、店長…」

「ん?その声…」


店長はそうつぶやくと、彼がかぶっていた黒い帽子をとる。


「ああ……!」

「え、トオル君!?」


マコは思わずそう返していた。恥ずかしそうにしている彼の顔からは、一筋の汗が流れていた。


「なんで朝から盗みなんか…」

「ち、違うんだ!!聞いてくれ!!」

「とりあえずバックヤードに行こうか。」

「て、店長――――!!」


トオルは、店長とマコによってバックヤードまで連行されていった。

カウンターでは、


「ばいばいお姉ちゃん!」

「うん、また来てねー!」


というサオリと女の子の声が聞こえてくる。



「――で、どうして盗みなんかしたのかね?」

「だから違うんですって!」


バックヤードでは、警察の取り調べのように、一つの机をはさんで、トオルと店長が向き合って座っている。マコは横で仁王立ちしている。


「ちょっとカバンの中身見せてみなさいよ」

「いや、カバンしょってないし!!」

「ではトイレットペーパーはどこに隠したのだ。」

「だから盗んでないんですよ!!」


トオルの声に、マコがはぁ、とため息をつく。


「じゃあどういうこと?」

「今日の朝…」




トオルはいつものように、朝7時ごろ、コンビニに歩いて行った。今日は日差しが強いため、お気に入りの黒いキャップをかぶっていた。コンビニに着いた頃、コンビニの横の方で、泣き声が聞こえてきた。


(どうしたんだろう、こんなに朝早くから…)


そんなことを思っていると、店長から声をかけられた。


「おはようトオル君。そんなところで立ち止まってどうしたのかね。」

「いや、なんか子どもの泣き声が聞こえてくるんですけど…」


店長も耳をすます。


「本当だね。いやあ、若者は耳がよくていいなあ。」

「俺、ちょっと様子見てきます」

「ああ、頼んだよ。」




「――ああ、そういえばそんなことあったっけなあ。」

「「店長!!!」」


マコとトオルの叫び声が重なる。


「ごめんごめん、忘れてたよ」

「もう、なんで忘れるんですかあああああ」


トオルが泣きそうな声を出す。


「まあ、とりあえず続きを話してよ」

「ああ、うん。それでな…」




トオルが泣き声のする方へ歩いていくと、一人の女の子がうずくまって泣いていた。


「君、どうしたんだ?」


トオルがしゃがんで話しかける。


「う、うう…あのね、あのね…」

「うん。」


女の子は涙がいっぱい溜まった目を一生懸命にこすりながら、ゆっくり口を開く。


「私、弟の誕生日プレゼントを…買いに来たの」

「そうなんだ、偉いな。」

「それでね…ぐすっ、あのね…」


トオルは女の子の様子を見て、急いで自分のハンカチをポケットから取り出した。


「これ、使っていいぞ。」

「うう…ありがとう。」


女の子がハンカチを受け取り、目をゴシゴシとこする。


「あのね、それでね、」

「うん。」

「私、ハラパンマンチョコを買いたいの。」


トオルもハラパンマンチョコは知っている。子どもに大人気のキャラクターの顔の形をしたチョコだ。


「うん、うん。それを買いたいのか。」

「で、でも…お店に入るの初めてで…」


そこまで言うと女の子はまた泣き出してしまった。


「うわあああああああん」

「あ、ちょっと、大丈夫だから、なっ??」


女の子の泣き声は大きく鳴り響いた。コンビニに入っていく人達や出てきた人達が、何だ何だとちらちら見ているのがわかる。コンビニの中は人が多いらしく、店長も様子を見に来るどころではないらしい。


「しょ、しょうがないな。俺が買ってきてやるよ。」

「本当!?ありがとう!」

「で、でもな、このコンビニにはお兄ちゃんの知り合いがいっぱいいるんだ。」

「そうなの?」

「ああ。だから、その…」


トオルが苦い顔をする。


(俺があの人たちの前でハラパンマンチョコを買うなんて…恥ずかしすぎる)


女の子が首をかしげてトオルの方を見る。


「俺がピンチになったら、自分で入ってきて俺の代わりにチョコを買いにきてもらってもいいか?」


トオルの苦し紛れのお願いに、女の子は


「いいよ!わかった!助けてあげるね!」


と素直に返す。トオルは少し複雑な気持ちになった。なるべく店長やそのほかの人にバレないように、ちょうど大学の体育系の講義で使おうと思っていた黒いジャージに着替え、黒いキャップをかぶり、


「じゃあ行ってくるね。」


と言って店内に入っていった。




「つまり、店内をずっとうろうろしてたのは、ハラパンマンチョコを買うのが恥ずかしかったから…??」

「そ、そうです…」

「それで、トイレに入ったところで女の子が、ピンチになったのだと思って入ってきてくれたというわけか。」

「はい、おっしゃる通りで…」

「ま…まぎらわしいいいいいい!!!」

「マコ!?」


マコのあまりの迫力に、トオルが椅子から立ち上がって後ずさる。


「普通に買いに来なさいよおおおおお!!」

「待って!!待ってええええ」



トオルはその日学校に行くと、マコの友達に「腹抱えてどうしたの?お笑い番組でも見てきたの?」とツッコまれたのだった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


この作品を気に入ってくださった方は、ブクマやいいね!、評価【★★★★★】や感想をいただけますとうれしいです。


ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!

次回の投稿は9月25日(月)の20時になります。よかったらまた覗きに来てください!

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