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このコンビニちょっと気になる  作者: 天芽あおい
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第四話 クマのぬいぐるみ


「トオルくん。」

「あ、マコさん!」


ここはとある大学の講義室。二人は経済学部に所属している同級生で、今ちょうど二人の取っている「経済学Ⅱ」の講義が終わったところだ。そして二人は同じコンビニで働いている仕事仲間でもある。またトオルにとって、マコは、大学における唯一の友達でもあった。


「またクマさんと一緒に講義受けてたんだね笑笑」

「もう、いつまで日記のこと引っ張るんだよおおお」

「いや、だって目の前にくまのぬいぐるみあるし笑笑」


そう言ってマコが指を指した先には、トオルの横の椅子に行儀よく座っているクマのぬいぐるみがあった。


「さみしくない?」

「そう言われると確かにってなっちゃうからやめろよ!!現実逃避してるんだよ!!」

「そっかー、じゃあ、少しでも悲しくないように、この子に名前をつけてあげよう」

「いや、もう名前あるし」


マコが驚く。


「え、あるの!?」


トオルは、コホン、と咳払いをし、自慢げに胸を張った。


「ああ、この子の名は、スーパーハリケーンダイナマイトサン…」

「却下。この子が可愛そう。」

「俺のぬいぐるみだよね!?」


マコに遮られ驚きを隠せないトオルを横目に、マコは椅子に座るクマのぬいぐるみを両手でヒョイッと持ち上げ、抱いた。


「こんなに可愛い顔してるのにダイナマイトなんてつけちゃだめ」

「えええ…」


マコは真面目な顔つきになり、じーっとぬいぐるみを見つめた。そして…


「決めた!この子はハートちゃん!」

「はああああ!?」


マコは命名すると、右手で指ハートを作る。


「俺のだぞ!そんな可愛すぎる名前でいいはずが…」

「いいの」


マコが再びトオルの言葉を遮る。


「それに、男の子はたまにかわいいのがいいの。」


トオルが目を丸くする。


「あの、それってどういう…」


トオルの言葉を無視して、マコがぬいぐるみを持ったまま歩きだす。


「ちょっと!だからそれ俺の!!奪うなって!!」


トオルが急いで机の上の教科書や筆箱をカバンにしまう。その間に、マコは教室を出ていってしまった。

やっと片付けが終わってトオルが外へ出ると、マコは、


「みてみて!これトオルくんのぬいぐるみ!」


といって、一人の友達に見せていた。


「へえ、かわいい〜」

「ハートちゃんっていうの」

「え、トオルくんそういう名前つけるんだ、意外〜!」


何故か女子二人で盛り上がっている。トオルはすぐさま二人の間に入り、ハートちゃんを奪い返した。


「おいい!勝手にその名前広めるなって!」

「あれ、思ったより早かったね。」


マコが間の抜けたような声を出す。


「あ、トオルくん!それかわいいね笑」

「!?!?」


トオルは、ハートちゃんという名前を広められて恥ずかしいのと、マコ以外に大学で久々に話しかけてもらえたのとで、いろいろな感情が沸き上がりうまく言葉が出てこなかった。


「ハートちゃん♡」


友達もこの名前を気に入ってしまったようだ。


「こっ、こいつは本当はスーパーハリケーンダイナマイトサン…」

「それは可愛そうってことでやめた」


マコが口を挟む。


「たしかに!なんか長いし〜」


友だちにもそう言われ、トオルは面倒くさくなってきた。


「わかった、わかった。それでいいから。もう俺帰るよ」

「そっか。じゃあまた明日ね。」

「トオルくんばいばーい」


トオルは、くるりと後ろを向いてあるき出した。後ろから、「ハートちゃんもばいばーい」という声が聞こえてくる。



自転車置き場に来ると、トオルはハートちゃんを自転車のかごにそっと入れ、鍵を開けた。


「ハート…うーん、呼びにくいなあ」


トオルが自転車にまたがり、帰ろうとしたその時。


「トオルくん!まって!」


という声がした。


振り返ると、声の主はマコだとわかった。

嫌な予感。


とっさに逃げようとするが、遅かった。

マコはトオルの自転車を後ろからつかんだ。その拍子に、トオルはバランスを崩し倒れそうになる。


「ま、まだなにか用か!?」


やっぱりキュートちゃんにしようとか言い出すのでは…とトオルは身構える。

しかし、マコはニコッと笑い、


「一緒にコンビニに寄って帰ろう」


と告げた。


「え!?あ、うん…いいけど…」


トオルは予想外の答えに少し戸惑ったが、嬉しくてついそう答えていた。


「じゃ、自転車降りて!」

「ああ、そっかマコさん歩きだから…」

「いや、私が乗る!」

「なんで!?」


その後も少しワーワー騒いだあと、二人は、二人が働いているコンビニ『ロッソン』に向かって歩いていった。


「こんにちは!」

「あ、マコちゃん!トオルくんも!」


サオリさんがこちらを見て微笑み、手を振った。


「こんにちは。」


トオルも少し会釈する。


「二人でやってくるとは、さては俺の指導が恋しくて非番でも来てしまったというわけだな!?」

「いや、普通に買い物しに来ただけなんですけど…」


コウジが泣いている声が聞こえるが、まあサオリがいるからなんとかなるだろう。


サオリはマコとトオルの一つ上の同じ大学の先輩で、こども教育学部に所属している。コウジはこのコンビニで一番長く働いているそうなのだが、ちょっとしたことですぐに泣いてしまう。


サオリは泣く子をあやすように、コウジを素早く泣き止ませている。トオルはそれを見て「すご…」と言葉をこぼす。コウジを泣き止ませるのは本当に大変なのだ。


トオルはマコの方を向き、問いかける。


「それで、マコさんは何を買いに来たんだ?」

「え?なにも?」

「ん!?」


一緒にコンビニに寄って帰ろうと言ったのは確かにマコだったはずだ。


「何か買うものがあってきたんだろう?」

「いや、今、からあげちゃんセール中だから、売上に貢献してもらおうと思って」

「!?」


マコの言葉を聞いて、これはまずい、と思ったトオルだったが、もう遅かった。


「サオリさん!からあげちゃんレギュラー10こお願いします!トオルくんが買ってくれるらしいです!」

「おっ!トオルくん太っ腹だね!助かるわ~。」


サオリがレジをピッ、ピッと打ち始める。


「え!?いや、俺払わねえよ!?」

「そっかー…じゃあハートちゃんじゃなくて、キュートちゃんに名前変更しちゃおうかな〜??」


マコの邪悪な笑顔を見て、トオルは覚悟を決めざるを得なかった。


「あーもうわかったよ!!!!」


トオルは半分やけくそになりながら財布を取り出す。そしてカウンターに置かれた大量の『からあげちゃん』を見て、ハートちゃんも一緒に食べてくれたらいいのに、と心の中でつぶやいた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


この作品を気に入ってくださった方は、ブクマやいいね!、評価【★★★★★】や感想をいただけますとうれしいです。


ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!

次回の投稿は9月18日(月)の20時になります。よかったらまた覗きに来てください!

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