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たわいもないこと  作者: 渡邉 一代
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くつがない

 あれは三十くらいの頃だったと記憶しているけれど、その当時私は、クリニックで仕事をしていた。といっても、直接医療行為をするような医師や看護師ではない。クリニックの受付に座り、患者さんを出迎えて、最後に会計をして送り出すという仕事だ。

 この仕事をする際には、医療事務の資格も取った。

 私はその当時、実家で両親と暮らしていた。父は高齢ではあったけれど、まだ仕事もしていたし、たまにボランティアに行くこともあった。

 母は長年専業主婦をしたり、たまにパートに出ることもあった。

 そう言えば私が小中学生の頃、学校で予防接種が行われていたんだけれど、その受付を行ったり、先生のサポートしたりというボランティアのような仕事をしていたこともあった。

 私の仕事は午前診と午後診があり、その間の時間は一度家に帰ることにしていた。午後の仕事がない時もあるので、この時はゆっくりと余裕のある時間を過ごしていたように思う。

 ある朝、いつものように玄関で靴を履こうとしたのだけれど、私の靴が何処を探しても片方だけ見つからない。

 頭に何で?何処行った?そんなこと考えるけど、時間がない。

「母さん、私のいつも履いてるスニーカー片方ないんやけど。」

「えぇ?何で?」

そう言いながら母も玄関にやってきた。

「あっ、ほんまや。」

「あっ、こっちの靴も片方しかない。まさか。」

「あっ、お父さんやわ。」

「えっ、でも普通間違える?色も紺色とベージュやし、サイズも違うんやけど。」

「でも、これ、お父さんしか考えられんやろ。」

「じぁあ、一度電話してみるわ。」

そう言って私は父の携帯に連絡を入れた。

ルルルルル、ルルルルル、ルルルルル、

「…はい。」

「あっ、父さん、あのさぁ、私の靴間違えて履いてない?」

「えっ、あぁ、間違えてるわ。」

「何で間違えるん?」

私は時間がないながらも問い詰めると、今日はボランティアの日で、朝五時頃に家を出たらしいのだけれど、暗闇の中、電気もつけずに靴を履いたらしく、歩いてて少し違和感はあったらしいのだけれど、そのまま出かけてしまったようだった。

 私は呆れながらも、苦笑いをし、母にそのことを伝えつつ、電話を切り、急いで違う靴を出して履き家を出た。

 この日仕事が終わり家に戻った時の、父の苦笑いしながら申し訳なさそうにしてたのは言うまでもない。

 私は父に呆れながらも、電気をつけて靴を履く様にだけ、注意をした。

 まぁ、その話は今でも二十年程経った今でも、亡くなった父のエピソードの一つとして、「ふふっ。」と思い出したりしている。

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