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勇者魔王短編作品

勇者ですが、「最終決戦に懐かしキャラが駆けつけてくる展開」は熱いけど、全然知らない奴らまで駆けつけてきました

 勇者リュウガ率いる勇者パーティーと魔王ディロスの戦いは熾烈を極めていた。


 リュウガらは奮戦するが、やはり魔王の力は圧倒的であった。

 まず、リュウガに負けぬほどの剣技を誇る戦士ドルンが重傷を負ってしまう。


「ぐうっ……! ちくしょう……!」


 続いて、魔法のエキスパートであるエリナも魔王の魔法に屈する。


「きゃあああっ! なんて奴なの……!」


 女僧侶レミは必死に皆のサポートをするが、回復魔法や補助魔法を唱えるうち限界を迎えてしまう。


「私も……ここまでのようです……」


 もはや壊滅状態のパーティーを見て、ディロスは高笑いする。


「フハハハハッ! ここまでのようだな、勇者!」


 しかし、リュウガの目から光は失われてはいなかった。


「まだだ……! まだ俺が残ってる!」


「この状況でもそんな目ができるのは流石だ。だが、貴様ももう限界だろう。トドメをくれてやる!」


 ディロスの右手から、傷ついたリュウガにとっては絶望的な一撃が放たれようとしている。

 その時だった。


「諦めるな、勇者殿!」


 屈強な戦士たちが駆けつけてきた。


「あ、あれは……ハロック戦士団!?」


「ハロック団長!」ドルンも驚く。


 かつて戦士ドルンが所属していた戦士団が、加勢にやってきたのだ。

 団長であるハロックが部下に命じる。


「今こそ我々の力を見せる時だ! 少しでも魔王にダメージを与えるんだ!」


 大勢の戦士たちがディロスに斬りかかる。

 だが、ディロスの力は彼らの手に負えるようなものではなく、次々に蹴散らされていく。


「ふん、ザコが増えたところで私の敵ではないわぁ!」


 このままでは戦士団が全滅してしまう。

 そこへ炎や雷が飛んできて、ディロスの攻撃をストップさせた。


「なんだこれは……! 魔法……!?」


 やってきたのは魔法使いエリナの出身である魔法村ミレドの村民たち。

 勇者たちをサポートするため、危険をかえりみず魔王に立ち向かう。


「ほっほっほ、エリナよ。微力ながら助太刀するぞ」


「村長様……!」エリナも喜ぶ。


 ミレド村の住民は皆が魔法を使える。その一斉攻撃を受け、さしものディロスも苦々しい表情を浮かべる。


 さらに僧侶レミがいたパール教会の司祭たちもやってきた。


「今だ、みんなで勇者様たちを回復するのだ!」


 司祭らの回復魔法で、リュウガたちの傷も癒えた。


 とはいえ形勢逆転とまではいかない。援軍の攻撃はディロスを怒らせただけに過ぎなかった。


「おのれぇ……ゴミどもが!」


 周囲の人間をまとめて吹き飛ばすような大技を繰り出そうとする。


「させるかぁっ!」


 投げつけられた槍がディロスの肩に突き刺さった。


「ぐぬ……!」


「あの槍は……グラオ王国の騎士団!」


 リュウガの言葉に騎士団長が応じる。


「その通り、グラオ王国騎士団参上! 勇者パーティーに助太刀いたす!」


 大陸一とも称される勇猛な騎士団が来てくれた。

 リュウガたちに国を救われた後は国防に徹しているはずだったが、最終決戦に挑むリュウガに恩を返さずにはいられなかったのだ。


「みんな……!」


 感激するリュウガ。

 しかも、冒険の途上で出会った人々はまだまだ駆けつけてくる。


「ぼくたちも来たよー、勇者!」


 スライムやゴブリンといった魔物軍団。

 リュウガらと交流した温和なモンスターたちである。


「へへっ、俺っちたちも来たぜ! 魔王ならたくさんお宝持ってんだろ?」


 リュウガらと時には対立し、時には共闘し、いつしか心が通じ合ったクラッシュ盗賊団の面々。


 援軍はさらに続き――


「勇者様、俺たちにも戦わせてくれ!」

「盾になるぐらいならできる!」

「魔王め、覚悟しろ!」


 冒険の途中で出会った人々が、戦闘員非戦闘員に関わらず押し寄せる。


 もちろん、圧倒的な力を誇るディロスにしてみれば個々の勢力は虫けらのようなものである。

 しかし、勇者パーティーに回復の時間を与えるのに、そして勇気を与えるのには十分すぎる力だった。


 剣を掲げ、リュウガがディロスに宣言する。


「魔王ッ!」


「!?」


「確かにお前は強い! だが、俺たちにも今までに出会った人との絆がある! その絆がある限り、お前などに負けはしない!」


「くっ……!」


 絆の力にディロスが怯む。

 リュウガを筆頭に勇者パーティーが反撃に出ようとする。


「応援にきたべ~!」


 リュウガが「まだ駆けつけてくれる人がいたのか」と思い振り向くと、そこにはいかにも農作業をしそうなおじさんがいた。


「あなたは?」


「オラ田吾作だっぺ!」


「田吾作……?」


「はるばる田舎から駆けつけてきただよ!」


 リュウガは田吾作という人物に全く心当たりはなかったが、とりあえず礼を言う。


「ありがとうございます……」


「よっしゃ、オラの鍬の威力見せてやるだよ!」


 謎の人物田吾作に面食らったものの、リュウガは再び剣を構える。

 すると今度は怪しい装束を身につけた集団がやってきた。これまたリュウガたちには心当たりのない顔ぶれだった。


「あ、あなたがたは?」


「ドルベリッチリンダッタ教です。助太刀に来ました」


「ドルベリッチリンダッタ教!?」


 聞いたこともない宗教団体だった。

 しかし、助太刀に来たというのなら無下に扱うわけにもいかない。

 この状況に、リュウガも困惑し始める。


「なんだか全然知らない奴まで駆けつけてきたな……」


「おい見ろよ、まだ来るようだぜ」


 ドルンが指差した方向から、スーツ姿の中年男が徒歩で近づいてきた。


「初めまして、佐藤と申します。サラリーマンをやっております」


 名刺を差し出され、「これはどうも」と受け取るリュウガ。


 ひとまずアイテム袋に名刺をしまうが、まだまだリュウガの知らない勢力が駆けつけてくる。


「きゃああああっ!」


 悲鳴を上げるエリナ。

 彼女の前には、厳かなマントをつけた巨漢が立っていた。

 その迫力は魔王ディロスをさらに上回る。


「誰だお前は!?」剣を構えるリュウガ。


「我は地獄帝! 我ら地獄の軍団も戦わせてもらおう!」


「じ、地獄帝……!」


 名前からして地獄を統べる者だというのは想像がつく。もちろんリュウガたちは地獄など行ったことすらない。一体なぜここに来たのかすら分からない。


「空に無数の円盤が飛んでいます……!」


 女僧侶のレミが上空を見上げている。


「我々はグビラ星人。宇宙の平和を守るためやってきた」


 とうとう宇宙人までやってきた。勇者たちに宇宙に出た経験などないことは言うまでもない。


「どうなってるんだ、これは……!?」


 混乱する勇者パーティーをよそに援軍ラッシュは止まらない。


「ゴーガン大王軍100万見参!」


 聞いたこともない謎の大王の大軍勢が現れ――


「公務員の小林です」


 実直そうな公務員が登場し――


「ギャオオオオオオオンッ! オレ……怪獣デダン!」


 巨大ビルほどの大きさの怪獣までもが応援に駆け付ける。


 さまざまな勢力が入り乱れ、リュウガらがいた戦場は大混戦になってしまった。

 もはや戦場というよりはバーゲン会場といった様相で、戦うどころかはぐれないようにするのが精一杯だった。


「エリナ、レミ! 俺とドルンから離れるな!」


 知らない連中にもみくちゃにされる勇者パーティー。


 やがて――


 大歓声が上がった。


「ついに倒したぞぉぉぉぉぉ!」

「やったぁ!」

「バンザーイ!」


 人々が口々に勝利の雄叫びを上げる。


 リュウガは焦る。


「魔王が……! ディロスが倒されてしまった……!」


 とんでもない事態になった。

 自分たちが倒すべき敵だった魔王を、どこかの誰かに倒されてしまった。

 これで冒険は終わる。喜ぶべきことでもあるのは分かっているが、魔王を倒す使命を帯びていた身としては複雑な心境である。

 とはいえ倒されたものは仕方ない。リュウガたちも素直に祝福しようとする。


「銀河竜皇帝ザークロンをついに滅ぼしたぞー!」


「誰!?」


 倒されたのはこれまた全然知らない敵だった。


 集まった者たちは口々に打倒ザークロンを喜ぶ。


「やったぁ!」

「これで銀河は救われた!」

「ざまあみろ、ザークロンめ! さすがは佐藤さんだぜ!」


 ディロスの「ディ」の字も出てこない。

 しかも、ザークロンにトドメを刺したのはサラリーマンの佐藤さんだったようだ。

 群衆にもみくちゃにされ、戦いを全く見ていないリュウガたちにはどんな戦いが繰り広げられたのか見当もつかない。


 しかも、喜びのあまり、このままここで祝賀会が始まる勢いらしい。

 リュウガらは魔王がどうなったのかも分からないまま、そのまま祝賀会に参加することになってしまった。


「では長きに渡る銀河竜皇帝ザークロンとの戦いの勝利を祝って、祝賀会を開催いたします!」


 リュウガたちが見たことも会ったこともない人物の司会で、祝賀会が始まった。


「いやー、ザークロンが倒されてよかったですねえ。奴の支配の恐ろしさときたら……」


「え、ええ……よかったです……」


 全く知らない人間に声をかけられ、リュウガも話を合わせる。

 他のパーティーメンバーもこの状況に流されるしかないと考え、すでに料理に手をつけ、酒を飲んでいる。


 自分は魔王と戦っていたはずが、大勢の援軍が駆けつけ、いつしか全然知らない敵が倒され、祝賀会が始まっている。

 わけが分からないまま、リュウガは会場をさまよう。

 すると――


「あ……!」


「貴様は……!」


 ディロスと出くわした。

 どうやらディロスもこの全然知らない軍団に呑まれ、会場をさまよっていたようだ。


「生きてたのか、魔王!」


「そっちこそな、勇者!」


 一応宿敵同士なのに、なぜか再会を喜び合う二人。

 リュウガは周囲を見回しながら、こう言った。


「どこ見ても、俺らの知らない顔だらけだな……」


「ああ、我々の戦いに次から次に知らない連中が駆けつけてきて、いつの間にか戦いが終わっていた……」


 少し思案してから、リュウガがつぶやく。


「俺は……自分のことを“世界を救う人間”だと思っていた。皆が俺のことを知ってるのは当然であり、自分がこの世の“主役”かなにかだと本気で思っていた」


「私もだ……。私こそが世界最高の悪であり、魔王ディロスの名は誰もが知っていると思っていた」ディロスがうなずく。


「だけど、この広い世界からしたら、俺たちの方が“全然知らない連中”だったのかもしれないな……」


 今この祝賀会会場が盛り上がっているのは、「銀河竜皇帝ザークロン」が倒されたことについてであり、勇者リュウガや魔王ディロスについて知っている者はほとんどいないだろう。

 ようするに、一連の騒動は“全然知らない連中が駆けつけてきた戦い”ではなく、むしろリュウガたちこそが“全然知られてない存在”だったのだ。


 このことに気づいたリュウガとディロスはふっと微笑み合った。


「俺たちなんて世界的に見ればまだまだちっぽけな奴らだったってことか」


「フッ、そうだな」


「こんな状況でいがみ合っても仕方ないし、とりあえず一時休戦といきますか」


「ああ」


 穏やかな表情になり、リュウガがしみじみという。


「今日俺たちは自分たちが全く知られてない存在だと知ることができた。そのことに乾杯だ」


 勇者と魔王の持つグラスが軽くぶつかり、カチンと音が鳴った。






お読み下さりありがとうございました。

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[良い点] 面白くて考えさせられるオチ。 このカオス、最高です!
[良い点] あっこれ某F○Oの一部最終章のアレ的なやつでしょ!って思いながら読んだのに、全然違った!Σ( ̄□ ̄; ていうか二転三転どころか七転八倒っていう……!(爆笑) しかしよくこんなん思いつき…
[良い点] 田吾作から始まり、明らかにヤベー宗教団体、宇宙からの来訪者、地獄の使者にリーマンに公務員… …いや、誰だお前。本っ当に誰なんだよお前!? リーマンはしれっと名刺渡すな。 最終決戦での胸熱展…
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