第9話 午後はお休み
張り切って寝たからか、いつもより早めの夜明け前に起きた。
この世界に来てから日が沈み切る前に眠って、夜明け前に起きる健康的な生活を送っている。
前の世界の生活では夜更かし早起きで、いつも睡眠不足で空き時間があればいつも寝ていた気がする。
(体が幼いのもあるんだろうけど、健康的な生活を送っているな)
「おはよう、ルル」
隣にいるルルに挨拶をする。
"おはよう、マスター"
ルルは会話をすればするほど賢くなっている気がする。
人前ではルルに話しかけるのが恥ずかしくてやめていたけど、何とかならないのかな?
「ルルはどうやって私に声を届けているの?」
"わからない マスターに伝えよう 思うだけ"
ルルの返事を考えると念話の様なものなのかもしれない。
ルルと私は従魔契約でつながっているから、そのつながりから念話をしているのかもしれない。
「ルル、これから言葉に出さずにルルに言葉を伝えようとするね。聞こえたら同じ言葉を私に伝えてくれる?」
"わかった"
ルルが触手を振って返事をしてくれる。
いつも魔法を使うのと同じように、でもルルとのつながりを意識して、("ルルかわいい")ルルへ伝えてみた。
"ルルかわいい マスターいった"
「成功したよ、ルル。これでいつでもルルとお話が出来るね」
"マスターとお話 嬉しい"
朝から嬉しい発見があって、やっぱり今日はいい一日になりそう。
夜が明け始めたので、朝ごはんを食べて薬草採取に行く。
(早く懐具合に余裕が出て、ゆっくり休めるようになるといいな)
カギを返す際に延長したい場合はどうすればいいか聞くと、ここでできるというので1泊延長手続きしてもらった。カギはそのまま持っていてよくて、無くした際には罰金になるそう。
カギは失くさないようにすぐにアイテムボックスに入れた。
今日は戦闘訓練は行わないので、薬草を採取する場所までは走って体力づくりも兼ねることにする。
サーチとバリアも忘れずに使用しながら走る。
決して、街を探索する時間を多くしたいからではない。
草原に入る前に水を飲んで呼吸を整えてから入る。
ここから先は危険度が跳ね上がるからだ。
"ルルも何か見つけたら教えてね"
ルルに声に出さずにお願いする。
触手でお返事してくれたので、しっかりステルス、バリアをかけてからサーチして薬草を探す。
気合を入れたおかげか、昼までに17束を集めることが出来た。
お昼を食べている最中にルルにも周辺でご飯を食べてもらう。
群生地をチェックして、明日には採取できそうなことにルルと一緒に喜んだ。
帰りも体力づくりでサーチとバリアを使用しながら走って帰る。
体力づくりは今日はこれでいいんじゃないかってくらい街に着いた時には疲れていた。
(今度から帰りは走って体力づくりしなきゃだめだ。もしくは街の中に運動できる場所あるか探そう)
街に入る行列に並びながら、体力のなさを嘆く。
今日の街探検の目的を追加しながら、呼吸を整える。
街に入る時には、元気を取り戻していた。
"ルル、お楽しみの街探検だよ"
楽しみな気持ちを隠せずに、ルルに話しかける。
念話なら、人前でも問題なくルルとお話が出来るし、話す回数が増えればルルがどんどんスムーズに会話できるようになるから一石二鳥だ。
"楽しみ"
肩でルルも揺れている。かわいい。
取りあえず、何も考えずに大きな通りを真っ直ぐに歩いてみる。
門から続くこの道は商店が多いみたいで、見ているだけでも楽しい。
宿屋や武器や雑貨などを扱うお店や、なんかガラス瓶?が置いてある店もある。
気のせいか冒険者が利用するようなお店が多い。
"ギルドがある通りだから、冒険者用のお店が多いのかな?"
ルルに話しながら歩く。
ギルドまで来たけど、延泊手続きはしているので薬草買取は夕食前にしてこのまま素通りする。
ここから先は初めて踏み込む未知のエリアだ。
ドキドキしながら、歩いていく。
最初の頃よりしっかりした宿屋や商店を見たりしながら、真っ直ぐに歩いていく。
特に用事もない、ただ楽しむために街を歩いている。それだけで何か楽しかった。
「おう、ニーナじゃないか。買い物か?」
名前を呼ばれたので振り向くと、剣を佩いているもののラフそうな恰好をしたダンさんが居た。
「ダンさん、こんにちは。街探検中です。ダンさんはお休みですか?」
「昨日、戻るのが遅くてね。さっき朝兼昼を食べてきたところ。聞いていいのかな、ニーナ肩の揺れているのは?」
どうやらルルが揺れているのが気になったみたい。
「偶然テイムできたスライムのルルです。かわいいんです」
ルルを手に持って紹介すると、ルルが触手をだして返事をした。
「確かにかわいいな。俺が持っても大丈夫かな?」
触りたそうだったので、ルルに念話で了解を貰った後にダンさんに渡した。
ドッチボール位の大きさになったルルをダンさんの手に乗せる。
「大きさも変わるんだな。しかしこの抱き心地癖になるな」
お礼を言われてルルを返してもらった。
「ニーナの大事なルルを触らせてもらったからな、ぜひお礼させてくれ」
「いいですよ。この前だってお肉貰っているんですから」
遠慮したんだけど、食後のお茶に付き合えって押し切られてしまった。
連れてこられたのは、屋台がたくさん並んだ広場だった。
好き嫌いを聞かれて苦い野菜が苦手な事を伝えたら、ベンチに案内されてダンさんは何かを買いに行ってしまった。
"ルル、またダンさんにおごってもらうことになっちゃった"
混乱した気持ちをルルに念話を送る事でなだめている。
"マスター 大丈夫?"
ルルを抱きしめながらおとなしく待っていると手ぶらでダンさんが戻ってきた。
「何が好きかわからないから色々買ってきたよ」
そういったダンさんは、次から次へと食べ物を出してくる。
「こんなに食べきれませんよ」
手の上にたくさん乗せられたので泣きを入れた。
「収納してとっておきな。どれか一個だけここで食べればいいよ」
なんかダンさんには色々貰ってばかりだ。
「もらったお肉もまだ残っているのに、申し訳ないですよ」
「何言ってんだ。ニーナの大事なルルをこんなおっさんに触らせてくれたんだぞ。そのお礼なんだからさっさと収納する。そんで好きな時に食べろよ」
ダンさんが真剣に言ってるのが分かったので、お礼を言って1つを残して収納した。
すかさずダンさんから飲み物を渡されてしまった。
もう、お礼を言っておとなしくいただくことにした。
ダンさんが買ってくれたのはクレープと果実ジュースみたいだった。
おそるおそる食べると、甘くて幸せな気持ちになった。
「ダンさん、これ美味しいです」
素直にお礼と感想を伝えると、もっと食べろって笑われた。
「ニーナ、俺が言うのもあれなんだけど、食べ物渡されたりあげるって言われてもついて行っちゃだめだぞ」
思わず吹き出してしまった。
「まさしく俺がやってる行動だもんな。でも、悪いやつもいるから駄目だからな」
まだ言ってる。
「ダンさんは最初っから優しかったじゃないですか。ちゃんと自己紹介もしてくれたし。」
ダンさんは大丈夫だと思った根拠を伝えると、ダンさんは照れたようだった。
「とりあえず、ちゃんと警戒しろよ!ついでだ、なんか行きたい場所でもあったのか?」
「買い物はまだ無理なんですけど、体力が少ないので街の中で走り込みとか運動できる場所があるかなって思って」
話しを必死で変えるダンさんが面白いが、とりあえず運動できる場所を聞いてみた。
先輩冒険者のダンさんなら運動できる場所も知っているかもしれないし。
「ああ、ギルドの1階の奥の扉から出ると、ちょっとした広場みたいになっているんだよ。ちょっと訓練って奴はそこでやってるから広場に行ってみな。ただ、組手や魔法の訓練は壁壊す奴が多いから禁止されてるから気をつけろよ」
ギルドの奥にあったんだ。
「明日から行って走り込みします」
「おう、それがいい。逃げるにも体力が無かったらできないからな。じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。ニーナも探検はいいけど、大きい通りだけにしておけよ」
「はい。ご馳走様でした」
飲み終わったコップを回収して、ダンさんは戻っていった。
沢山もらった甘味にウキウキしてしまう。
(次にお休みした時に食べよう)
まだまだ貯蓄が進まないから、甘味を自力で買えるのはいつになるかわからない。
でも、ある程度余裕が出来た時には自分で買いにこよう。
そう決めて広場を後にした。いつも入っている門の反対側の門まで歩いてみる。
こちらのお店は宿屋と日常的な商品を扱うお店が多い気がする。
ゆっくりのんびりルルに目に付いた物について話しかけながら歩いていたら門に着いた。
こちらの門もいつもの門と同じような感じだった。
そろそろギルドにゆっくり戻ろうと踵を返す。
ダンさんとのおしゃべりと貰ったおやつを食べるのにのんびりしていたから、今からギルドに戻ったらいつもと同じような時間になるし。
(ご飯食べる前に少しギルドの広場に行こうかな)
おやつを食べたからいつもよりお腹が空いていないので少し運動しようと思う。
"ルルご飯前に聞いた広場に行くよ"
"マスター お腹空いてない?"
"大丈夫だよ。さっきのおやつでまだお腹空いてないから"
ルルに心配されながら先程通ってきた道をのんびり歩く。
逆方向から見ると、先程歩いてみた景色と違って見えてちょっと面白い。
これからどんな運動をしようか考えながら、ギルドへと戻っていった。
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