第83話 冒険者の集落
集落に着いたけど、高い壁があるだけで入口が無い。
「ここで待ってろ。挨拶してくる」
ニコお爺ちゃんが壁を飛び越えて入っていった。
唖然とその様子を見送った私たち三人を見て、トムお爺ちゃんが教えてくれた。
「ここの壁は門なんかないんだよ。飛び越えるか登るかだな」
登るって言ってもツルツルしてるし、よく見ると微妙に反って作られている。
実質飛び越える一択な気がする。
カレンとサラの三人で壁を触ったり、見上げたりしていたら、トムお爺ちゃんが飛び越えて戻ってきた。
「許可が出た。もう少し移動したところから中に入るぞ」
お爺ちゃんの誘導に従って移動した場所の壁も同じようにツルツルだし反りかえっているし高かった。
「カレンとサラは親父たちに抱えてもらえ。ニーナはどうする?挑戦するか?」
ニヤって笑われたけど、答えは決まっている。
「もちろん。挑戦します。ダメだったら誰かお願いしますね」
そう言って、今の自分にできる最大の強化で壁を越えようと少し助走をつけて飛び上がる。
一気に体が上に上がるけど、分かっていたけど壁を越えられる高さにはならない。
近づいた壁を蹴って体勢を整えて着地する。
ちょっと悔しい。
「思ったよりも高く飛べたな」
そう言って褒めてもらうけど、悔しさは消えなくて表情に出ていたらしくて周りにいた人たちに頭を乱暴に撫でられた。
そして話し合いの結果、私を抱えて壁を超えるのはカイさんになった。
先にトムお爺ちゃんが飛び越えて、その後をサラとカレンを抱えたお父さんズが越えていった。
私はカイさんに背負われて、カイさんのスライムに腰あたりからしっかりとカイさんと離れないように包み込まれた。
「女の子なんだから、緊急時ならともかくそういうところ触れられたくないだろ」
「お気遣いありがとうございます」
「いや、10歳な……」
言いかけたダンさんはロウさんに殴られていた。
呻いているダンさんを放っておいて私を背負っていても軽々と壁を越えていた。
安定した着地で、すぐにスライムを外してくれておろしてくれた。
お礼を伝えて、壁の内側を見渡す。
ここは壁近くには建物などはなく、少し離れた所から建物がちらほらとあるようだった。
全員壁を越えて、一か所に集まった。
「ここにテントを建てる許可もらってるから。外との出入りはそこの壁から。注意としては、騒ぐな、中をうろつくなって位だ」
手を挙げてお爺ちゃんに聞きたいことがあるってアピールする。
「お爺ちゃん以前聞いたときは柵に囲まれた村って言ってたけど、結局ここってどんな所なの?」
柵じゃなくて壁だし、明らかに村じゃないよね。
「ここは俺たちみたいなのが第一線を退いたけど、街や村になじめない奴らが集まって自然に作られた村だな。だから壁があるし、壁超えられなくなったら諦めて街に移るか壁の中で生活するかするらしいな」
ここで生活をするための最低基準が壁を越えられるかどうかって事なのかもしれない。
「別に人を拒絶しているわけではないからそこまで気にする必要はない。ただ、この村では静かに生活するのが普通だからな。住んでる人に倣えって事だ」
それからは、お爺ちゃんの指示でテントを用意して夕食の支度を始めた。
今日は疲れたカレンとサラからカレーのリクエストが来たので、お爺ちゃんに香りが強い料理を食べていいか聞きに行く。
「お爺ちゃん、ちょっと香りが強いスープを夕食に食べようと思うんだけど大丈夫かな?」
「たぶん大丈夫だ。心配なら血抜きの時と同じように上空に匂いを飛ばして食べればいい」
「その手があったね。そうする」
その方法なら慣れないにおいに皆をさらさずに食べることが出来る。
私もカレーが食べられるの嬉しくなって、カレンとサラの所に走って行って許可が出たことを話して3人で喜んだ。
私達のテントの周りにカレーの香りが広まらないように魔法を使おうとしたら、その前にスコットお爺ちゃんが魔法を使用してくれた。
3人でお礼を言って、カレーの石鍋を出す。
作りたてだからとてもいい香りがする。
試食した日以来だから、サラもカレンもお皿を持って待っている。
ふたりにカレーを渡してあげて、自分の分もって思ったらやっぱり香りが気になるのか注目を集めていた。
「一皿50ルーですけど、食べてみます?」
「なんか催促したみたいで悪いな。初めて嗅ぐ匂いだが何なんだ?」
私に50ルーを渡しながらダンさんが聞いてくる。
「新しく登録された調味料でカレー粉って言うらしいですよ。まだやってないけどお肉にかけても美味しそうな感じです」
ダンさんは受け取ったカレーを恐る恐る口に入れる。
一度止まって、すでに食べているカレンとサラを見て食べ始めた。
「苦手なら無理しない方が……」
「いや、なんか癖になる。俺はこれ好きだ。ニーナ、今度肉にかけて焼いた肉も食べてみたい」
「そ、それ私も食べたい」
「私も」
その感想を聞いて結局皆がスープを買ってくれた。
私も食べながら皆を見ていると、すでに毒見済みだからかあっさり食べ始めて美味しいって言って貰えた。
今回でカレースープがなくなったことをカレンとサラに伝えると、がっかりしていた。
でも、お爺ちゃんに材料があるなら調理する時間はあるって聞いて元気になっていた。
面白いのがカレンとサラはわかるけど、ダンさん達も同じように元気になっていたのに皆で笑った。
皆クリーンをかけて食欲そそるカレーの匂いを取る。
カレンとサラ、私も眠くなってきたので挨拶してテントに入る。
スライムにベッドになって貰って、改めてスライム達とクリーンを掛け合って倒れこむ。
"ごめん。おやすみ"
"""""おやすみなさい。マスター"""""
優しく受け止めてくれたので、少し丸まって眠りに落ちてしまった。
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