第82話 馬車終了
周りに気を使ったのか、ベッドになっていたローズが振動して起こしてくれた。
身支度としてクリーンをかけて、ローズから降りる。
横を見ると、2人とも起きて身支度を整えていたので声をかけて床の石を分割するための薄い溝を刻んでしまう。
2人に床石を分割するか聞いたが、今日も馬車の移動とその後に拠点とする集落に移動するはずなので私がやってしまうことにした。
三人でテントを片付けて、お爺ちゃん達の所に行って指示を仰ぐ。
今日の予定は、各自朝食を食べて色々済ませた後に街まで行って馬車と馬を返却。
この時、私たちは街の外で待つように言われた。
その後は拠点とする集落まで一気に走っていく事を教えられた。
「カレンとサラはまだ俺たちみたいに走れないだろう。だから最初は自分で走れ。その後はお前達の父親が背負って走るからそこで色々探ってろ」
ニコお爺ちゃんが挑戦的にカレンとサラに笑いかける。
カレンとサラも笑いながら頷くので、きっと何かをつかむんだろう。
私は二人の隣でニコニコ笑っていたので、2人に叩かれてしまった。
そんな穏やかな朝の時間を過ごした後は、馬車に乗らなきゃいけない。
「はぁ、スライムのおかげで何とかなるけど憂鬱」
「ニーナの馬車酔いすごかったもんね」
「馬車の移動ってあこがれていたのに……」
最初っからスライム達に全身を包むくらいの椅子になってもらってそこに座って振動を吸収してもらう。
それでも苦手意識が染みついたのか、乗るってだけで気分がへこんでしまった。
「そうそう馬車に乗る機会なんかないさ。さあ、街に着くまでだけど馬車護衛依頼に関して話そうか」
お爺ちゃん曰く、馬車護衛の依頼って思いのほか多いんだそうだ。
理由はいくつかあるけど、収納が商売するための商品を全て入るほど大きい人は少ない。
そうなると貴重品は収納するけど、商売品は馬車での輸送になるからなんだって。
だから馬車輸送は一般的だけど、その分襲われる率が高くなる。
その為に護衛依頼が増える。
ただし、護衛依頼は盗賊が襲ってくる可能性が高いから、人と戦うことになる。
人を殺せないなら護衛依頼系は一切受けるな。
その点を考えて依頼を受けるかどうかを決めなければならないって話だった。
余談として、実は冒険者には収納力が高い人が多い傾向にあるんだって。
荷物を手に持っていない方が戦いやすいし、持ち帰ることが出来る。
予備の武器や食料を持ち歩けるので、生き残る確率が高いからじゃないかって言ってた。
そんな話を聞いていたら、御者席に座る前に街についてしまった。
ゴードンお爺ちゃんが馬車と馬を返してくるので、戻ってくるのを昼食食べながら待つことになった。
「カレン、サラ、それで足りるの?」
小さ目のパンとスープで終わりにしようとしているカレンとサラに声をかける。
「だって、この後走るでしょ?限界まで走ったらどうなるか分からないから控えめにしているの」
「そうだよ。お腹痛くなるじゃん」
「確かに」
納得したので、私は普通に食べた。
だって最初はカレンとサラにスピード合わせるけど、2人が背負われた後は私のスピードに合わせられるのが目に見えてる。
少しでもしっかり走れる様に食べておかなきゃ。
”マスター。この後走るんでしょ。魔力譲渡や回復していいの?”
ルルが確認のために意思を伝えてくれた。
"もちろん。してくれていいよ。ありがとう"
その会話から、ルルはより私に密着するように首に沿う形に変形したし、リトとマリンは髪留めみたいに頭部に移動した。
ローズとアンバーは邪魔にならないように手首に巻き付いてきた。
数が増えたらどこにいてもらうか考えなきゃいけないな。
それよりも名前考えておかなきゃ。
ゴードンお爺ちゃんも戻ってきて、お爺ちゃんが食べて食後休憩をとってから出発になった。
「カレンとサラに合わせるから無理せず走ること。限界よりも手前で声掛けしろよ。その後は父親におんぶされるんだから限界まで走ったら横抱きだからな」
いくら父親でも、お姫様抱っこで走られるのは嫌かも。
「ニーナもおんぶされたいのか?」
私の微妙な表情を心配したのかカイさんが小声で聞いてきた。
「大丈夫ですよ、走れますしね」
笑って答えたはずなのに、頭をなでられてしまった。
お爺ちゃん達の掛け声で走り出す。
先頭を走るニコお爺ちゃんは器用にカレンとサラのペースに合わせて走っている。
カレンとサラの隣にはすぐに対応できるように二人のお父さん達が走っているので、二人の後ろに居るようにした。
お爺ちゃん達みたいに後ろのペースに合わせながら走ることはまだ出来ないから。
私の周りにはダンさん達が走っている。
さっきのやり取りを勘違いされたかもしれない。
長距離を走るためかそこまでスピードは出ないが二人は頑張って走っていた。
お爺ちゃん達も休憩を入れてくれて体力を回復するタイミングを作ってくれている。
休憩後も頑張って走っていたけど、サラが先にギブアップした。
サラが何かを言う前にサラのお父さんがすっと横抱きで抱き上げてそのまま走り出した。
サラは抱っこされながら息を整えるのに集中している。
それから少ししてからカレンもギブアップをしたのかカレンのお父さんがサラの時と同じように横抱きにして走り出した。
トムお爺ちゃん達がお父さん達の隣に来て、何か声を掛けている。
トムお爺ちゃんがその後に先頭のニコお爺ちゃんの所に行って声を掛けた後から徐々にスピードが上がった。
どうやら二人は横抱きのまま次の休憩か目的地まで運ばれるようだ。
私も周りと同じようにスピードを上げていき、そろそろ厳しいなってところでスピードを上げるのが止まった。
多分ダンさん達が私の様子を見て何かしら合図を送っているんだろう。
このスピードで走るのはダンさん達と鉱山に行った時以来になる。
だから丁寧に周りへの警戒と体力の回復アップと強化を丁寧に行う。
ルルも回復や魔力譲渡をしてくれているのが分かる。
時々、マリンとリトからも周囲の安全確認報告や、ローズやアンバーも応援してくれている。
黙って走っているけれど、スライム達とのコミュニケーションを楽しみながら皆についていった。
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