第81話 野営地と馬上
野営地に着いたので、馬車から降りてお爺ちゃん達の指示を待つ。
「勝手に動かなかったな。いいぞ。まずはテントを建てる。場所はそうだな……」
ニコお爺ちゃんはすでに野営準備を始めている他のグループを野営地を見渡して確認した。
「ニーナ達はこの馬車のすぐ横に。他は適当にやってくれ」
お爺ちゃん達の言葉に従って、私とカレンとサラは馬車のすぐ横まで移動した。
「もう始めてもいいですか?」
「いいぞ」
了承をもらったので、出そうとしている地面を均してこの前作成したテントの足場を取り出して設置する。
練習の時のように布を広げて真ん中の棒を立てて支える。
ある意味一番力を使うので、この係は私になっている。
カレンとサラは手分けして残りの棒を立てて完成だ。
「「「完成しました」」」
三人で報告に行くと、お爺ちゃん達はテントを点検した。
中の確認もいいか聞かれたので、テントの中にも入ってもらい内側からもチェックしてもらった。
チェックする人の中にカレンとサラのお父さんも混じっていたけど、黙っておいた。
「ちゃんと出来たな。石の土台を利用するのは考えたな。でも、石の土台の周りを溝掘って排水の流れを作っておいた方が安心だな。後は取り出すときに見られないように気を付けるといい」
「手間だけど分割して収納して、使用する時にはくっつけて使用する方がいいかもしれん」
「確かに無用なトラブルを招きこみかねないから自衛しろよ」
確かにその通りなので、カレンとサラを見ると同じことを考えていたのか頷いておいた。
明日の朝は分割して収納しなきゃ。
「それじゃ次は馬だな。乗せて歩かせるのはできないが上に乗ってまたがってみろ。大丈夫トムが乗っているから落ちる心配はない」
ニコお爺ちゃんはそう言って、馬の近くに踏み台を用意してくれた。
ちょっと怖いけど、私、サラ、カレンの順番で上に乗せてもらうことになった。
踏み台に乗っても届かなかったので、即席でそこまで簡単に上がれる台を用意してトムお爺ちゃんに支えられながらまたがった。
「トムお爺ちゃん、支えててね」
馬といっても前の世界で見た馬より背が低そうだし、足も太い。
でも、今の自分よりも高い位置の馬の背中に乗って、周りを見るとちょっと怖い。
震えはしないけど、馬の購入金額とスピードを考えると走った方がいいと思ってしまった。
「怖いか?」
トムお爺ちゃんに聞かれたので、素直に怖いと答える。
お爺ちゃん達は笑いながら、それでも優しく馬からおろしてくれた。
「まあ、ニーナは慣れれば乗れるようになるかもな。じゃあ、次はサラだな」
サラは私よりすんなり乗せてもらって、上でも楽しそうに周りを見ている。
「サラは大丈夫そうだな。どうだ?」
「平気みたい。馬に乗れたら移動が楽になるのかな?」
どこか期待がこもった眼でお爺ちゃんをサラが見る。
「お前さんたちが、俺たちと同じことが出来るようになったとしたら自分で走るほうが早いぞ」
「冒険者で馬で移動って少ないんですか?」
「ほぼないな。馬がいると泊まれる宿も限られてくるし、世話の時間がどうしても必要だからな」
しょんぼりしたサラが馬からおろされた。
次はカレン何だけど、なかなか台に上らない。
「ん?カレンは高いとこ苦手か?」
「自分も知らなかったけど多分。足がすくんじゃって」
「やめておくか?」
ちょっと悩んだみたいだけど、カレンは顔を少し白くしながらお爺ちゃんに答えた。
「頑張る。経験しておくのが大事なんだよね?」
お爺ちゃんがカレンをなでながら頷いた。
トムお爺ちゃんがおりてきて、カレンを抱き上げながら馬にまたがった。
周りにいるお爺ちゃん達も馬の轡を持ったり、手綱を短めに持ったりしている。
私やサラの時には大人しく乗せてくれた馬の様子も少し違う。
「カレン、目を開けて」
トムお爺ちゃんに言われて、カレンが今まで目を閉じていたことを知った。
「っひぃ」
抑えたけど、小さな悲鳴が私にも聞こえた。
お爺ちゃん達は馬をなだめている。
トムお爺ちゃんがさっと馬からカレンと一緒に降りて、馬から離れた。
「カレン大丈夫?」
サラと一緒に小声でカレンに声を掛ける。
カレンは少し震えているけど、大丈夫と答えてくれた。
「全然大丈夫じゃないじゃない」
手元に近かったマリンにお願いしてカレンを全身支えられるくらいの椅子になって貰ってトムお爺ちゃんにそこにおろしてもらう。
毛布も出して、少し休みなって横にさせた。
「カレン?」
少し離れたところで野営の用意をしていたカレンのお父さんが近づいて、カレンをのぞき込む。
「高いところが怖かっただけだよ」
それでも心配そうにそばについているので、私たちはニコお爺ちゃん達のそばに戻った。
「カレンは馬に乗るのは難しそうだな。怯えが馬に伝わっちまうし本人も怖がっているしな」
お爺ちゃん達も心配そうにカレンの方を見ていたけど、トムお爺ちゃんもお父さんもそばにいるので次に進むことにしたようだった。
「次は馬の世話を少し体験してみるか。借りた時にやらなきゃいけないことは教わるだろうけど知っていて損はない。まあ俺たちがやるのはブラッシングして布で拭いてやって、水と餌を置いてやるだけだ」
お爺ちゃん達は簡単に言っていたけど、私たちがブラッシングも布で拭くのも高さがあるから大変だった。
手綱を結んだ近くに水と馬用のご飯が入った桶を置いておく。
「水はともかく餌は寝る時分には片付けてしまう。臭いでおびき寄せてしまうからな」
馬が食べるのを一緒に見てくれていたニコお爺ちゃんが教えてくれた。
「さ、二人とも疲れたろ。カレンも回復したっぽいし夕飯にしよう」
お爺ちゃんのその言葉に、サラとふたりでお礼を言ってカレンの所に走っていく。
カレンの顔色も戻っていたので一安心。
カレンもお爺ちゃん達にお礼を言いに行ったのを、心配そうにお父さんもついていってた。
夕飯は各自持参したものをそれぞれが食べているのでばらばらだけど、この世界にきて初めての大人数での食事に楽しくて仕方がなかった。
食後のまったりとした時間を過ごして、最初の見張り番以外は寝る時間になったので声を掛け合ってカレンとサラとテントに戻った。
私を入口近くにするために、寝る場所はカレン、私、サラになった。
ローズにベッドになって貰って、一度装備を外してクリーンを手分けしてかけていく。
「ニーナ、スライム達にもクリーンしてもらっているの?装備したままクリーンした方が早くない?」
「そうなんだけどね。私は使う機会が多いほうが身に着くからさ、スライム達もそうかなって思って」
「まだクリーン使えないとおもうんだよね。ニーナのスライム達だって使えないときはあったでしょ?その時はどうしてたの?」
「あー、確か見せていた気がする」
納得した二人はスライム達の前でクリーンを使って身に着けているものをきれいにしていった。
今日はローズにベッドになって貰った。
「あ、敷布買うの忘れた」
今回はあきらめて、ローズの上に乗って足と靴にはしっかりとクリーンをかけて毛布をかぶって横になる。
「「「お休み」」」
皆で揃ったお休みの声に思わず笑い声が漏れたけど、目を閉じる。
スライム達にもお休みを伝えて眠りに落ちた。
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