第8話 憧れのバリア
今朝は日が昇り始めたころに起きれた。
怪我をしたから思ったより疲れていたのかもしれない。
「ルル、おはよう」
"おはよう"
今までは無言で朝を過ごしていたが、今朝からはルルが居る。
挨拶が出来る事がこんなにも心を満たしてくれることに驚きを感じていた。
もっとルルとゆっくり過ごしたいが、今日も稼ぎに行かなくてはならない。
起きる時間がいつもより遅かったから急いで朝ごはんを食べて出発する。
今日からルルは握りこぶしくらいの大きさになって肩にくっついてもらっている。
(いずれルルが入る鞄が欲しいけどいいのがあるかな。なかったら材料揃えて自分で作るのもありだな)
昨日は薬草が16束しか取れなかったから今日は頑張りたいところだ。
訓練も大事なんだけど、貯金はもっと大事だから。
ステルスは忘れずにかけて、サーチと鑑定で薬草を採取していく。
今日もお昼までに18束採取できたが、時間を短縮するために早歩きで移動していたため昨日よりも疲れてしまった。
(体力づくりもしなきゃな)
お昼を食べながら反省し、その間にルルにご飯を食べてもらう。
ルルに聞いたら、その辺に生えている草や虫などを普段は食べていたみたいなので今日は薬草を採取するついでに薬草の周りの雑草も集めていたりする。
(冬の間のルルのご飯に出来るからね)
食後に群生地を確認すると、採取した時の3分の1くらいの大きさに育っている。
(成長速度が速いっていうけど、本当に早いんだ)
あと2日ほどでまた採取できそうだ。
貴重な群生地を荒らさないように離れた場所に移動して、今日の魔法の練習をする。
本当はもっと早くに練習するべきだったと、昨日気が付いた魔法だ。
でも、子どものころきっと誰もが遊んだあの能力が身につくかもしれないと思うとワクワクする。
「ルル、腕を伸ばしてこの石を私に向かって投げることできる?」
"多分出来るよ"
「合図したら私に向かって投げてね」
ルルに練習に必要なことをお願いして、新しい魔法を意識する。
最初は体当たりしてもらおうかと思っていたのだが、それでルルが怪我をしたら大変なので石を投げてもらうように変更した。
自分を50cm先を包むような球体。しっかりイメージしてから≪バリア≫。
「ルル軽く石を投げて」
ルルがこちらに向かって石をなげた。こつんって当たっただけでバリアが割れてしまった。
イメージした際に一瞬シャボン玉って浮かんでしまったから強度がなかったみたいだ。
今度はしっかりと硬い球体をイメージして≪バリア≫を作る。
「ルル、同じように軽く石を投げて」
ルルが投げた石がバリアにあたるが、今度は壊れることなく石を防ぐ。
やっぱりちゃんとイメージすれば成功するようだ。
冒険者の基礎知識によると、冒険者はバリアをより硬くするみたいだ。
それでも魔獣の攻撃に耐えかねて割れてしまうことがあるので、あくまで補助として利用する魔法みたいだ。
(でも、バリアは最強に近いと思うんだけどな)
小説や漫画ではバリアを張って中から攻撃とかしていたし、攻撃を反射して相手に返したりしていた。
(攻撃を受け止めきるより流す、もしくは反射する方がバリア自体に負荷がかからないかも)
今度は大きさは同じだけど、トランポリンの様に攻撃をそのまま相手に返すイメージで作る。
「ルル、今度は同じように投げた後その場所から急いで移動して」
成功したら石がルルに向かって跳ね返されるので、石を投げた後移動することをお願いしておく。
"わかった"
ルルに合図して投げてもらう。イメージ通りに石がぶつかった後に元の場所に跳ね返された。
「やったルル。成功したよ」
嬉しくてルルを持ち上げて喜ぶ。イメージ次第ではバリアで特定の人だけ通すとか、攻撃を倍返しなんかも出来そうだ。
(これで攻撃を受けにくくなるから、討伐訓練がしやすくなる)
それなりに時間がかかってしまったから、今日はスライムを1体だけ討伐しに行く。
サーチで近くのスライムを探して目標に向かって移動する。
今日はスライム相手にバリアを試すのが目的だ。
ナイフに氷の刃を付けながら最後に作った反射型のバリアをはってスライムに近づく。相手のスライムが気が付いて体当たりしてきた。
バリアにあたるまで昨日の怪我を思い出して怖かったが、当たったとたんにポーンとはじかれてしまっていた。
(攻撃としての体当たりを受けてもバリアには影響出ていない)
実践にも使えることが分かった。スライムはまだこちらに向かってきている。
実験のために、反射の力を2倍にイメージすると、スライムが当たった後すごい速さで地面にたたきつけられていた。
それでもスライムは打撃に強いのか、それでもこちらに向かってくる。
"マスター ルルが倒す いい?"
ルルが意外なことを聞いてきた。
「いいよ」
ルルにも念の為バリアを張ると、ルルは地面に飛び降りて、向かってくるスライムに対してすごい勢いで触手を突き刺した。
スライムはあっという間に浸み込んでいってしまった。
"ルル 倒した"
ポンポン飛んで喜ぶルルがかわいい。
ルルを捕まえて、抱きしめる。
「ルル凄い!」
二人で喜んでいたけど、そろそろ街に戻らないといけない太陽の傾きになってきている。
ルルに肩に移動してもらって、ステルスとサーチ、そしてバリアをしながら街に帰路についた。
ギルドで15束の買取と宿泊所をお願いする。
今日も無事に600ルーを稼げた。一日の必要経費が350ルーだから1日250ルーを残すことが出来ている。
少しづつだけど、貯まってきている。まだまだ目標金額には遠いけれど、まだこの世界に来てからまだ5日目。焦らず堅実に過ごさなければ怪我をすることになる。
そういう意味では、昨日怪我をしたのは良かったのかもしれない。
今までにない痛みだった。その痛みを知っているから無理せずに慎重に動くこともできる。
慢心して取り返しがつかない怪我をする前に、痛みを知ることが出来たのはきっとラッキーだったんだ。
(仲間も出来たし)
改めて昨日の怪我の件を振り返って、ルルに感謝をする。
反省はそれくらいにして、食堂で食事にする。
もう、食事を分けて収納していても周りは気にしなくなっている。
(受け入れてもらえたみたいで、ちょっと嬉しい)
慣れただけなんだろうけど、いいほうに考えておく。
食べながら明日以降の予定を考える。
前の世界は1週間が7日間で、そのうち2日休みが一般的だった。
この世界は12ヶ月あるのは同じだけど、一週間は6日間で1か月は30日。
でも、この世界には定期的に休むという考えはあまり一般的ではない。
基本は毎日仕事をし、事情がある時に休むというのが一般的だ。
冒険者は命がけの仕事からか、仕事をしたいときにする。
なので、冒険者ギルドは夜は規模が縮小されてはいるけど24時間営業だ。
所持金のことを考えると仕事はしないといけない。
でも、以前の世界の意識を持っている私は休みなしは正直きつい。
(明日は薬草採取だけをして、午後は少しランニングして体力づくり、それが終わったら休みにしよう)
サーチとバリアを使用しながら走る。その訓練も兼ねている。
そう決めてしまえばどこに行ってみようか楽しみになってくる。
初めて街を散策するのでどこに何があるか全くわからない。
お金ないからショッピングは楽しめないけど、見るだけでもきっと楽しい。
そう決めれば、明日が楽しみになってきた。急いで食べて宿泊所に行く。
泊まるのは5日目だけど、毎日違う部屋だけど、作りは同じだから違和感が無い。
いつものようにクリーンをかけて、ベッドに入る。
「ルル、明日は薬草採取をしたらちょっとだけランニングして体力づくりしたら街を探索しようと思うの」
"マスター楽しそう ルル楽しみ"
「ルルにはわかっちゃうね。街を探索するの初めてなの。ルルと一緒に何があるか探検しようね」
ルルは楽しそうに上下に揺れている。
ルルをなでて、「お休み」を言えば、"お休み"を返してくれた。
もう一度撫でてから目を閉じる。
(明日は朝のうちに宿泊所の手続きをしておけば、薬草採取から戻ってきたときにそのまま街に遊びに行けるよね)
この世界で初めて明日が来るのを楽しみにしながら眠りについた。
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