第7話 従魔登録
門に並んで自分の番を待つ。
何時もは独りで周りの雑談を聞いて寂しくなっていたけど、今日からはルルが一緒にいる。
自覚してなかったけど、どうやらかなり寂しかったみたいだ。
「今日も無事で良かった。手に抱えてるのはなんですか?」
兵士さんに聞かれたので、ルルを見せながら答えた。
「スライムです。偶然テイムしたみたいなんですけど、どのような手続きが必要ですか?」
分からない事は聞くに限る。
「鑑定しますのでちょっとお待ち下さい。はい、間違いなく従魔となっていますね。手続きはギルドで従魔の登録をしてください。ギルドカードに記載されるので次からはそれを見せれば大丈夫です。ただ、街の中で従魔が起こした事件の責任はマスターに責任が生じます。ご注意下さい」
丁寧に必要な手続きや注意点を教えてくれた。
(鑑定できる人が当番の時でよかった)
すんなり入場できることに感謝して、お礼を言ってギルドに向かう。
ルルをしっかり抱っこして、街の人を驚かせないように気を付ける。
「いいよっていうもの以外食べないようにね。体当たりも勝手にしちゃだめだよ」
"はーい"
側面からちょっと触手?を出して返事をしてくれる。
「ルルかわいい」
思わずぎゅって抱きしめると嬉しそうな感情を返してくれる。
今まで門とギルドを往復していただけだった。
でも、ルルと一緒だと今までただ歩いていただけの道もなんか楽しい。
ギルドまであっという間だった。
日が沈むにはまだ時間があるが、夕方前の時間はギルドも比較的混んでいる。
今日は腕を治療していたので少し遅い時間になってしまっていた。
買い取りに行く前に、宿泊所の手続きとルルの登録をするために列に並ぶ。
周りからルルをみられている気がするけど、知り合いもいないので気にしないようにして並ぶ。
さすがにこの状況でルルに話しかけるのはやめていた。
「偶然テイムしたので登録をお願いします。宿泊所の一番安い個室を1泊借りたいのですが、スライムも一緒で大丈夫ですか?」
自分の番がきたのでギルドカードを出しながら職員さんに伝える。
「宿泊所は空きがあります。スライムも一緒で大丈夫ですので、こちらのカギをご利用ください。従魔登録はこちらの用紙に記入してください。念のためにそのスライムを鑑定してもよろしいでしょうか?」
鑑定は構わないのでルルを職員さんに渡す。
ルルが鑑定持ちの職員によって確認されている間に、用紙に記入しておく。
スライム(白) ルル
種族と名前を記入するだけなので、すぐに記入は終わり用紙を職員に渡す。
ルルも戻ってきて、無事にギルドカードに従魔の存在が記載された。
「鑑定の協力ありがとうございました。時々、別の人の従魔を連れてきて登録しようとする人が居るので鑑定は必須なのです」
職員が申し訳なさそうに謝ってきた。
「初の従魔登録ですので、説明させていただきます。街中で従魔が起こした騒動の責任はマスターがとることになります。もちろん正当防衛に関しては問題ありませんが正当防衛の証拠が必要となってしまいますので、騒動自体を起こさないようにした方が無難です。なので従魔であることを主張する首輪やバンダナなど目立つものを付けることをお勧めします」
説明にお礼を伝えて、買い取りカウンターに移動して15束を買取してもらう。
今日も無事に600ルーを貰えた。
お礼を言って食堂に移動する。
(お腹空いた)
ルルをどうするか悩んで、食堂の人にスライムと一緒の席で食べていいか聞いた。
「備品を食べなきゃいいよ」
スライムが食べないようにすれば一緒でいいと許可を貰えた。
空いている席に先にルルに待っていてもらって、いつものスープとパンを運ぶ。
食べる前にいつもの等分作業をして、ルルを膝にのせて食べ始める。
(後でルルは何を食べるのか聞かなきゃ)
ルルが一緒にいるだけで楽しく食事をすることが出来た。
食器を返却して、宿泊所に移動しようとしたときに声が聞こえた。
「スライムじゃないか。従魔か?珍しいな」
話しかけられたかと思って足を止めると、慌てたようにあやまってきた。
「ごめん、聞こえちまったか。この街では従魔が珍しかったからつい」
あやまられたことで、かえって申し訳なく思ってしまった。
「いえ大丈夫です。かえってすみません。今日偶然テイムしたばかりなんです。やっぱりこの街では珍しいんですか?」
せっかくだから気になったことを聞くことにした。
「この街ではしばらく見てないな。ほかの街では見たことあるよ。従魔に乗って移動する冒険者とか」
そしたら周りからも、
「あるある。狼型に乗って移動してるの。あれ早くていいよな」
「鳥に手紙を届けさせているとこ見たことある」
って他の街のテイマーのことを言い出した。
「スライム従魔にしている奴から聞いたことあるよ。何でも食べてくれるから助かるって。従魔のトイレも必要ないし」
スライム情報を知っている人が居た。
「なんでも食べるんですね。スライムはトイレ必要ないんですか?」
「聞いただけだから詳しくないけど、スライムは完全に消化するからトイレ必要ないみたいだよ」
親切にも教えてもらえた。
「大昔にスライム乗って移動している冒険者見たことある」
衝撃的な声が聞こえた。周りの人も驚いてどよめいてた。
「遠目に見ただけだけど、明らかにスライムに乗って移動していた。あれどうやってんだかな」
目撃情報だけだけど、衝撃情報だ。部屋に入ったらルルに色々聞かなきゃ。
初めて話した人たちだけど、色々情報をくれたのでお礼を言って先に失礼した。
ルルに話を聞きたくて、我慢できなかっただけなんだけど。
昨日までならすぐに寝てしまうところだけど、今日はルルとおしゃべりをする。
いつものようにベッドと自分、そしてルルにクリーンをかけてベッドに入ってしまう。
「そういえば、ルルはあまり形を変えないね?」
草原に居たスライムを思い出すと、ゲームで有名なスライムってよりアメーバーの様な動きをしている個体が多かったように感じる。
"この形 抱っこしやすい"
側面からちょっと触手?を出して返事をしてくれる。
「スライムに決まった形は無いってこと?」
"形無い"
スライムにスライムのことを教わるという贅沢なことをしている。
「大きさも個体によって違ったけど、それは個体差?」
"少し大きさ 変えられる"
「そうなんだ!今も変えられる?」
ルルは少し考えた後、ドッチボール位からピンポン玉くらいまで小さくなってくれた。
「すごいルル」
"今度は大きくなる"
今度はバランスボールくらいまで大きくなってくれた。
「この大きさで体当たりされなくて良かった」
ドッチボール位の大きさに戻って触手を出してバツ印を作った。
"前は無理 マスターのおかげ"
"今はもっと大きくなれる マスターのおかげ"
不思議なことをルルが言った。
「テイムされたから出来るようになったの?」
"マスター出来た 意識はっきりした"
"前 食べる事しか考えない"
「テイムされて自我がしっかりしたから出来るようになったってことかな?」
触手でマル印を作ってくれた。
それに会話をすればするほどルルの言葉が滑らかになってきている。
「小さいサイズなら肩に乗るかな?落ちないかな?」
"小さいまま肩のれる 落ちない"
明日からルルは肩に乗っていてもらえそうだ。先程の冒険者から聞いたことも確認しておく。
「ルルのご飯はどうすればいい?トイレ行くのかな?」
"昼間 外 草食べる トイレ何?"
「トイレって食べかす等を体の外に出したりする?」
"食べかす無い 全部消化"
本当にトイレはいらないみたいだ。
次に私がルルに乗って移動できるかも確認しておかなきゃ。
「ルルは大きくなって私を乗せて移動できる?」
"多分まだできない"
どうやらまだできないみたいだ。時間が必要なのか、レベルアップが必要なのか。
いまはまだ長距離移動しないから、する必要が出来た時にまた聞いてみよう。
「ルルは私が他のスライムを倒すのは嫌だ?」
"嫌じゃない ルルも倒す"
これは本当に良かった。ルルがスライムを倒すことがいやだったら修行方法を考えなおさなければならなかったから。
ルルに質問をたくさんしていたら遅くなってしまった。
明日も薬草採取と魔法の練習、そしてスライム討伐だ。
ルルにお休みって言ってから目を閉じた。
"お休み? 何"
ルルはお休みの挨拶を知らなかったみたいだ。
「寝る前の挨拶だよ。寝る前はお休み、起きたらおはようって言うんだ。今から私は寝るからお休みって言ったの。その時はルルにお休みって返してほしいな」
ルルにお願いをした。
"マスター お休み"
「ルル、お休みなさい」
早速教えたことを実践してくれたルルを撫でてから、もう一度お休みして目を閉じた。