第64話 連携して足止め
目元をひんやり冷やされて起きたんだけど、遠慮がちに腕をペシペシしている子がいることにも気がついた。
目元を冷やしている子を掴んで剥がして、腕をペシペシしていたであろう子を抱き寄せた。
手で掴んでいるのはルルで腕をペシペシしていたのはアンバーだった。
ルルはビヨーンて伸びてるし、アンバーも楽しそうに抱き着かれてミュって形を変えている。
他の子もモニュモニュして、最近朝のお約束になっている触れ合いをしている。
今日も護衛依頼を受けるので、朝ごはんをさっさと食べてギルドに向かう。
昨日と同じようにダンさんが依頼を受けている間はギルドの外で待っている。
今日は髪の毛をまとめるのはアンバー、首にルルとリト、肩にマリンとローズの配置となっている。
ボーッとしている間にダンさんが本日の護衛対象を連れてきた。
昨日と同じ2人だけど、今日は女性2人だった。
挨拶は簡単なもので、ダンさんから仲間ですって言われて会釈して終わった。
ダンジョンに向かって先頭をダンさんカイさん、神職者達、私とロウさんの順で歩いていく。
昨日と同じ道を通って、神職者達のペースに合わせてダンジョンに向けて歩いていく。
しばらく歩くと入り口を囲む壁が見えてきた。
門を入って、休憩なしでダンジョンの中に入って行く。
今日の神職者達は4階が希望階なので、休憩は3階にある4階への階段手前のセーフゾーンでとる事になる。
4階が希望なだけあって、3階までのアンデッドはあっさりドロップに変えられて昨日よりも速いペースで3階にある4階への階段までたどり着いた。
3階までは昨日も来た階だけど、4階は初めてだ。
事前に数か多いときの打ち合わせをするくらいだから、一度に来る数が増えるんだろう。
軽く食べて休憩を済ませて4階に移動する。
階段近くには何故かアンデッドは見かけないので、そのまま通路を進んでアンデッドと出会うまで移動し続ける。
歩いているうちにサーチに反応があった。
やっぱり5体はいるので、その場にとどまって近づいてくるのを待つ。
ダンさんとカイさんはそれぞれ魔法を準備済みみたいで、しっかりと前を見て近づくのを待っている。
次の自分の番の時のために、徐々に近づいてきたゾンビにどのタイミングで魔法を使用するのか見ていた。
ゾンビが先頭のダンさん達から2メートル位に来たときにカイさんが水をかけて、1メートル位でダンさんがその水を凍らせて足止めをした。
ゾンビは身体に掛った水と足元の水も凍ったので動きを阻害することが出来ているみたいだ。
足止めされたゾンビは、神職者の人が放ったエリアライトヒール1回でドロップに変わった。
足止め1回で交代することになっているので、私とロウさんが先頭で歩き始めた。
後ろは後ろで緊張感があったけど、先頭はもっと緊張感があった。
今までにない緊張を感じながら、前に進む。
緊張はしてもいいけど、周りを見るのを止めたらだめだ。
前に出過ぎたらあっという間に命を失うだろう。
幸いなことに少し歩いただけで、次のアンデッドに出会うことが出来た。
私は多少タイミングが早くなっても大丈夫な水をかける担当なので、水魔法を準備する。
2メートル位の位置になったと思った時に水魔法を発動させてゾンビに水をかけて1メートル位の所から床にも水をかけておく。
自分の番が終わったらちょっと冷静になったところ、ゾンビの位置を見たら2メートルまで近づいてなかった。
でも、水はかかったし通路には1メートル位の所からちゃんと水をかけてあるから及第点のはず、はずだよね。
ゾンビが1メートル位の位置まで近づいた時、ロウさんが水を凍らせて足止めを完成させた。
神職者の人が、足止めの方法を理解したのか凍らせた直後にエリアライトヒールを発動させてすぐにドロップに変えていた。
ダンさんとカイさんと先頭と交代して後ろに下がる。
また歩き出してすぐに隣を歩くロウさんのスライムから触手が伸びてきて右肩に乗っていたマリンに接触して触手を戻していった。
"マスター、ルークのマスターから伝言。上手く出来ていた。次はもっと上手く出来る。よくやった。だって"
驚いてロウさんの方を見ると、ニコって笑ってくれた。
私も笑いながら頷いて、前を見る。
次はもっと冷静に魔法を使おう。
歩きながらも瞑想をして魔力を回復する。
今回は知らない人も一緒にいるからスライム達に魔力を譲渡してもらうのは禁止されている。
ある程度広めたら大丈夫になるみたいだけど、今はまだ駄目だから自分で回復している。
それに、先程のスライムを使った伝言で気になったことがあるから、忘れずに覚えておくようにしなくちゃ。
それからもゾンビに遭遇するたびに交代しながら足止めを行って、神職者の人達も交代で魔法を使っていた。
魔力回復のために時々休憩しているのだが、最初の時に木の板に先程気になったことをメモとして焼き付けて残しておく。
休憩ではちょっと食べたり水分取ったりして過ごす。
しかし、このダンジョンはゾンビが居なくても臭い気がして食欲が落ちる。
あまり長居したくないダンジョンだ。
今日もゾンビをドロップに変えるのと、時々の休憩のサイクルを時間いっぱいまで行ってダンジョンから出た。
やっぱり今日もダンジョンから出たらクリーンをその場でかけていた。
そのまま街まで戻ってギルドに行って依頼書に完了のサインを貰って神職者の人達と別れた。
今日も宿で夕食後にお風呂に入ってゆっくりする。
このゆっくりした時間にメモまでして忘れない様にした事を考えておかないと。
この考えなきゃって思いついたのは、スライムを使った連携手段だ。
あの時ロウさんは自分のスライムに伝言を頼んで、マリンに接触して伝言を伝えた。
つまり、ロウさんと私の間に2体のスライムがいるけれど無言で伝言が伝わったんだ。
自分のスライムとは接触していなくても念話出来る。
どれくらいの距離を離れたら念話が伝わらないか実験も必要だろうけど、自分のスライムを相手に預けておけば……。
また私が相手のスライムを預かっていればスライムを経由した無言での連携が出来るようになるんじゃないだろうか……。
だんだん考えがまとまったし、お風呂も出るので部屋でこの考えを話してみようと思う。
部屋に戻って、ダンさん達に小声で相談を始めた。
「ちょっと相談があるんですけど……」
「ニーナの相談。なんか怖そうだけど」
失礼でもないか、結構心配かけているからな。
「あのですね。今日のダンジョンの中でロウさんからスライム経由で伝言を貰ったんですよ」
ロウさんが思い出したのか、あぁって顔をしている。
「自分のスライムは接触無くても念話出来るじゃないですか。だからお互いのスライムを預けあえば言葉にしなくてもスライム経由で意思疎通が出来るんじゃないかなって……」
だんだん真剣な顔になっていく皆さんが怖くて小声で話していたのにどんどん消えるような声になってしまった。
「はぁ、とりあえず部屋で実験するか」
お互いのスライムを交換し合う。
私はリトとあえて念話に慣れていないローズとアンバーを送り出した。
3人からもスライムを1体ずつ受け取って、ルルと一緒に抱っこする。
「じゃあ、俺がスライムに話す内容がみんなに伝わるか実験するぞ。俺がスライムに伝言を伝えたら手を上げる。その後にスライムから伝言を聞いたら手を上げてくれ」
みんな静かにダンさんが手を上げるのを待つ。
手を上がって直ぐにルルから念話がきた。
"ナナから伝言。答え合せでおやつを手に出せ"
黙って手を挙げた。
ロウさんとカイさんも私と同じくらいで手を挙げた。
「じゃあ、答え合わせな」
ダンさんが声を掛けたので、私は手にクレープを1つ取り出した。
ロウさんとカイさんも手にちょっとした食べ物を出している。
「正解だな。ちなみにスライム達はどんな言葉で伝言を伝えた?」
「私は、ナナから伝言。答え合わせでおやつを手に出せって聞きました」
ロウさんとカイさんも同じだった見たいで頷いている。
「スライム達はちゃんと言葉を正確に伝えてくれたみたいだな。ニーナ、これ使えるどころじゃないな」
「でも、念話には気が付いている奴も多いからな。いずれ誰かしら始めると思うから魔力譲渡よりは大丈夫だろ」
「テイム出来るならグループ全員でスライムをテイムするところも多くなりそうだな」
よかった、これはそこまで大きな問題にならなそうだ。
「でもスライムですらこんなに凄いのに従魔自体あまり見ませんよね?なんでなんですか?」
今日の説明はカイさんがしてくれるみたいで、こちらに身体を向けてくれた。
「従魔が少ないのは戦闘に参加させるものってイメージが強いからだろうな。だから強い魔獣をテイム出来なければ意味がないんだよ。スライムはそこらに居る最弱魔獣だろ?冒険者よりも食堂などで生ごみを食べてくれるって意味でテイムしている奴がいるって感じだな。で、強い魔獣をテイムするってどうやるんだよ。弱らせるにも中途半端だと反撃くらうし、やりすぎると討伐してしまう。移動手段としてテイムしている奴はいるけどな。食事の世話や排泄の世話や宿もそれ用のにしなきゃいけないからな。色々あって偶然テイムしたとかって奴しかいないのが実情かな」
ロウさんが後を引き継いで話し始めた。
「テイムの才能があったもので、面白い事をやっていた奴の話を聞いたことがある。弱くてもかわいい魔獣、綺麗な魔獣をテイムして街で有料で触れ合いさせていたんだって」
移動ふれあい動物園ですか?
「まあ結局強い魔獣を偶然テイムしたとかじゃない限り、自分からテイムしに行こうって奴はなかなかいないんだよ。駆け出しだと従魔の食事代を捻出するのも大変だしな。でもこれから冒険者や女性はスライムをテイムする人が増えるだろうな。食事代もかかず、排泄の世話もなく、抜け毛もないから世話しやすいからな」
感心してほほうってなっていたら、カイさんに頭をつかまれた。
「誰の影響だ」
「スライムが凄いからです」
頭をつかまれた状態できっぱり言った。
「まあスライムは凄いよな。角ウサギを倒せるくらいでもけん制にはなるからな。ニーナもあまりスライム達に無理させるなよ。スライム達はそんなに魔力持っていないからな」
「はーい」
「まあ、この連絡手段を明日実験してみるか。明日も護衛依頼を受けるか?」
「5階の敵はどんな感じなんですか?」
「5階は敵の数が増えて、人型の敵が時々武器を持つって感じだったよな?あとゴブリンのゾンビが出る」
少し悩んで私にはわからないので判断を任せる事にした。
「今日の足止めで何とかなりますか?神職者の人達が次の魔法を使うのは何階ですか?」
「5階は今日の足止めで大丈夫だと思うぞ。神職者はこのダンジョンではライトヒール、エリアライトヒール。ハイライトヒールだけど、ハイライトヒールはもっと上層階に行かないと使わないだろうしそこまでの神職者はだいたい固定の護衛が付いているから今回は見る事が出来ないと思うぞ」
なるほど、今回ではもう新しい魔法を見る事は難しいって事か。
「ヒールがゾンビに効果があるなら私達だけで入るのも手ですけど、スライム通信を実験するなら護衛ですか?」
ダンさん達だけなら平気でもっと上層階に行くんだろうけど、私に気を使って私の意見を色々聞いてくれる。
先輩としてすべて決めてしまってもいいのに、本当にいい人たちだ。
「じゃあ、明日は連絡手段?スライム通信の実験するのに護衛依頼を受けるか。そして明後日は依頼受けずに自分達だけで入って、ライトヒールって奴試そうぜ」
明後日までの予定が決まったので、明日の為にも寝る事にした。
お休みなさいって挨拶をして、自分のベッドに向かう。
防具を外して手分けしてクリーンをする。
ローズとアンバーも近くで見ているので覚えようとしてくれているみたい。
ベッドに入って、スライム達を1体1体モニュモニュしてから目を閉じる。
明日の実験上手くいくといいな。
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