第56話 友達の幸福と私の混乱
カレンとサラが朝の運動をするようになってから数日たった。
結局、安全第一を方針に角ウサギの狩猟を見学することなく、サラとカレンは午後は魔法の練習を行っていた。
今日も朝食前に柔軟を行って、薬草採取の午後の自由時間で角ウサギを狩猟し、サラとカレンは練習を行っていた。
サラとカレンはバリアの強度も上がり、魔法も水球はスムーズに放てるようになって他の魔法も練習しているみたいだ。
今日は薬草を合計36束、角ウサギは3体狩猟出来ていた。
今はギルドの食堂でいつものスープとパンのセットを食べている。
3人でのんびり食べていると、階段を凄い勢いで登ってくる音が聞こえた。
ほとんど食べ終わっていたので、何が起きても大丈夫なように急いで最後まで食べてしまう。
サラとカレンも同じ様に残っていたものを急いで食べてしまったようだ。
この世界に来てから初めて起こる事態に、ちょっと怖いと思ってしまう。
周りの大人たちもさりげなく身構えているのが分かる。
凄い足音で登ってきた人たちが見えた瞬間に、カレンとサラが立ち上がって走り出した。
私はそれに驚いて立ち上がったけど、動きが遅れて2人を見送ってしまった。
「お父さん!」
カレンの叫び声で、私も周りの大人たちも警戒を解いた。
サラは何も言わずに抱き着いて泣いているみたいだ。
どうやらカレンとサラの父親が無事にケイアにたどり着いたみたいだ。
2人の遅いとか心配したとかの声と、それにごめんって答えている声が聞こえる。
(良かった。カレン、サラ、本当に良かったね)
椅子にもう一度座って、カレンとサラが父親に抱き着いて泣いているのを見守る。
本心から良かったって思っているけど、でも淋しいと思ってしまう。
でも、それは当たり前だってダンさん達が言っていた。
だから淋しいのは当たり前、でも2人の友達が父親と再会できたのは本当に良かったと思っているのも本当。
それでいいんだよね。
あれからダンさん達はまだ帰ってきていないから、淋しい。
(早く帰ってこないかな)
どうやら、カレンとサラは泣き止んだみたいで父親と話をしているけど抱っこされている……。
まあ、冒険者の人からしたら10才の女の子なんて軽いから抱っこも楽に出来るんだろうな。
抱っこしたままこちらのテーブルに移動してきている。
(来ないでいいから)
正直逃げたい気持ちがあるけど、逃げるわけにはいかず立って出迎える。
「ニーナ、お父さん達来てくれたよ」
「お父さん、降ろして。友達の前で恥ずかしいから」
カレンは抱っこのままで平気そうで、サラは恥ずかしがって降ろしてって父親を叩いているけど、その父親は笑ってサラの要求を無視している。
好意的に考えれば、長く離れていた娘だし、比較的安全とはいえ街を移動させたんだから心配で離したくないんだろう。
「初めまして。カレンの父のラルフです。そっちがサラの父親のヘンリー。もう一人いるのが同じグループを組んでいるハリーだ。カレンとサラが世話になった。ありがとう」
サラの父親も抱っこしたまま頭を下げている。
「そんな、友達になったんです。だから頭を上げてください」
やっとラルフさん達は頭を上げてくれた。
「ありがとう。娘たちが怪我もせずに無事に過ごせたのは君のおかげだ」
「いいえ、ケイアまで無事にたどり着いたカレンとサラが頑張ったからです。ケイアは周りの人がさりげなく助けてくれるので私と出会わなくても無事だったと思います」
本心からの言葉に、何故か顔見知りの周りの大人が照れている。
「あ、私はニーナです。カレンとサラの友達です」
自己紹介もしていない状態で話していた事に気が付いたので、急いで自己紹介をした。
友達の親にはいい子に見られたいじゃない。
「ニーナは凄いんだよ。1人で頑張っているんだよ。私たちも助けてもらったし」
「色々教えてもらったの。ニーナのおかげで安全に薬草採取出来ていたのよ」
カレンとサラが次々に父親に話している。
何時もよりテンションが高いのは父親が無事だったからだろうね。
「ニーナさんは1人なのかい?保護者は?」
「ニーナでいいです。保護者はいません。1人です」
「嫌なことを聞いてすまなかった。俺たちはケイアで家を買ってみんなで生活するつもりなんだけど、ニーナも一緒にどうだい?こうやって話しているだけでも君がいい子なのはわかるし、サラもカレンも喜ぶだろうから」
そんな提案をされてびっくりした。
考えたこともなかったし、サラやカレンは好きだけど一緒に暮らすとなると話はかなり違う。
ましてその親も一緒なら、ルームシェアじゃなくて私は居候にしか思えない。
きっとサラやカレンの父親ならいい人たちだ、でも、でも……。
その時、食堂に入ってきた人が見えた。
その瞬間、混乱から自分でもわからずにその人達に向かって走り出してぶつかるように抱き着いた。
「おふ、ニーナ勢い良すぎ」
ダンさんが苦しそうに言っているけど、知らない。
サラの父親の提案はきっといいものだ。
住むところが確保されて、保護者代わりにもなるのか?安全も増すだろう。
でも、心が納得しない。
私が反応しないので、ダンさん達は困っているようだったけど、私にも上手く言えないんだから仕方がない。
「とりあえず状況を聞いてくるわ」
カイさんとロウさんが私の頭を撫でて、状況を聞きに行ってくれた。
その間に私はダンさんに持ち上げられて、みんなから少し離れた席に運ばれていた。
「ニーナ椅子に座れるか?」
仕方ないから手を放して、椅子に座らされた。
「話せるか?」
頷いて、ぽつぽつとまとまらない気持ちのまま話した。
ダンさんにだけ聞こえるように、小さな声でまとまらないまま。
カレンとサラの父親が無事で心から良かったと思っている事。
家に一緒に住むことを提案されたら、何とも言えなく心が乱されたこと。
その方が安全だろうと理解していても、うなずけない事。
まとまらない気持ちをそのまま話した。
「あぁ、ニーナには酷だな。ちょっと待ってられるか?」
頷くと、手にコップを渡された。
中にはジュースが入っているみたい。
「これ飲んで待ってろ」
頭をポンポンされたけど、いつもみたいに頭を上げていられない。
ちみちみジュースを飲んでいると、ロウさんがこちらに来てくれた。
「ただいま、ニーナ。ちゃんと食事を食べていたか?」
「はい、ちゃんと甘い物じゃなくて食事をしてました」
ちゃんと返事しないとっておもって、しゃべったけどこれも小声になっちゃった。
「今、向こうで話をしているからな。大丈夫。ちゃんとニーナの気持ちを伝えるから仲が悪くなることは無いよ」
全部任せてしまった罪悪感も出てきた。
さらに落ち込んでいたら、ダンさんが戻ってきた。
「ニーナ、確証はないんだけど面白い話を聞いたからさ鉱山に俺たちと一緒に行かないか?半月くらいかかるかもしれないけど」
面白い話ってなんだろう。
でもダンさん達が誘うってことは私が喜ぶか興味のある話だろう。
それに少しここから離れるのもいいかもしれない。
せっかく出来た友達なのに、このまま一緒にいると本格的にサラとカレンにひどい態度を取ってしまいそうだから。
「一緒に行きたいです」
「わかった。じゃあ、サラとカレンにちゃんと自分で言おうか。友達続けたいんだろ?」
もちろん続けていきたい。
だからダンさんに促されてサラとカレンの所に戻る。
「急に走り出して、ごめんなさい。一緒に住むことを提案してくださって嬉しかったです。でもごめんなさい。一緒には住めません。サラ、カレン一緒に住めないけどまだ一緒に活動してくれる?」
ダンさんに話して、ロウさんがそばにいてくれている間に考えたことだ。
「ニーナごめん。ニーナが気にすることは何もないよ。一緒に冒険者をやろうよ」
「そうよ、ごめんね。私もニーナとカレンと冒険者続けたいよ」
そう言ってくれた2人が抱きしめてくれた。
私も抱きしめ返して、3人で泣き笑いみたいになった。
「私少しの間、ケイアを離れるね。ダンさん達に鉱山に誘われたの。その間に思う存分お父さんと一緒にいてよ。そして冒険者のノウハウを教えてもらって、私に教えてよ」
サラとカレンも笑ってくれた。
「了解。しっかり教わって今度は私がニーナに教えるよ」
「ええ、今度は私たちがニーナに教えるわ」
まだ、3人でくっついていたので小声で2人に伝えた。
「ぜひスライムをテイムして。そして色々話しかけてね。スライムは色々覚えるよ」
カレンとサラが私の両肩を見た。
「うちの子は身体の大きさを変えられたりバリアやクリーンが出来るよ。スライムに血を吸わせることで血抜きが出来るよ。特に女の子にはクリーンが重要だから、テイムしてね」
「ニーナ、それ教えていいの?」
サラはこの情報の重要性が少しわかったのかな。
「角ウサギの買取価格が上がるからね。今食堂に居る殆どの人は血抜きの事を知っているよ。でもバリアやクリーンはダンさん達とマリーさん達だけ」
「わかった。テイムしようとしてみる。でも何も覚えなかったらどうしよう」
「大丈夫だよカレン。私が戻ってきた時に覚えてなかったら一緒に頑張るから」
そう伝えると安心したみたいで、頑張るって小声で言ってる。
「テイムするときは頑張って叩いてね。切りつけちゃだめだよ」
2人がうなずいたので、離れた。
「ダンさん、2人に鉱山に行ってくること伝えました。待っててくれるって言ってくれてます」
「良かったな」
ダンさんが頭を撫でて言ってくれた。
「出発は明日はきついから明後日にギルドの広場で朝待っててくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
北門にはあまり行ったことが無いことを知っているから、ギルドで待ち合わせにしてくれたんだろう。
「ニーナ、さっきは君の心情を考えず済まなかった。うちのサラと今後も仲良くしてやってくれ」
ヘンリーさんが言って後ろでラルフさんが頭を下げている。
「こちらこそ、お話最中に走り出してしまいすみませんでした。私の方こそサラとカレンと仲良くしてもらいたいです」
「そうだ、ニーナ明日は一緒に居られるんだよね?」
「うん。あ、明日行ってみる?心配ならお父さん達に付いて来てもらえば?」
「行きたい」
「いいんですか?嬉しいですけど、ニーナの準備は?」
「準備は大丈夫だから行ってこい。食料はこちらで買い込んでおく」
カイさんが私の頭に手を置いて言ってくれた。
「私の分、ちゃんと請求してくださいよ」
それには返事しないで、頭をポンってされて終わらされてしまった。
「準備は大丈夫になったみたい。お父さんたちを連れてくるかは任せるよ。スライムとは言ってもバリアの強度がないと怪我するから」
2人は悩んで、相談するって言ってた。
もう普段寝ている時間になっているので、私はここでお暇させてもらうことにした。
「ニーナ、大好きだよ。ニーナのおかげでお父さんと無事に会えたよ。また明日ね」
カレンと共にサラも私に手を振ってくれている。
「私もカレンとサラが大好きだよ。お父さん達が無事で本当に良かった。また明日ね」
私も手を振り返して宿泊所に入っていく。
部屋に入って、防具を外して手分けしてクリーンをかける。
ダンさん達には、何かお礼をしなきゃな。
カレンとサラのお父さんたちが無事でよかったし、関係が壊れなくて良かった。
「ずっとそばにいてくれてありがとう。明日もよろしくね。お休みなさい」
"""お休みなさい"""
友人の幸せと、ダンさん達が帰ってきたことが嬉しくて羞恥心は忘れて、幸せな気分で眠りについた。
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