第54話 慰め
カレンとサラの3人で午前中は薬草採取、午後は訓練と角ウサギに分かれて活動する日々が3日程すぎた。
昨日のうちに今日はお休みにしようと決めていたので、今日は街の外に出る予定は基本はない。
何時もの様にスライムに起こしてもらって、日課の柔軟と走り込みと素振りを終わらせたところだ。
確かにお休みの日なので、ゆっくり運動していたから終わる時間がいつもと違ったけど、なぜ私はカイさんに頭をつかまれているのでしょうか?
「おはようございます。なぜ頭をつかんでいるのでしょうか?」
「おはよう、ニーナ。いやな、何故かつかまなきゃいけないって気になっただけだ。何かやらかしていないか?」
「やだな、カイさん。人助けしたくらいでやらかしてはいないですよ」
手を放してもらって、カレンとサラを助けた事を伝えた。
「今は仲良くなって、一緒に薬草採取していたりします」
笑顔で話していたら、後ろから頭を撫でられた。
「楽しくやれているのか?」
ダンさんが撫でていた。
「ええ、楽しくやってます。今日はお休みなんでのんびりなんですよ」
「なら良かった。その子たちと今日は遊ぶのか?」
「疲れているから寝たいって言っていたので、起きてこないんじゃないかな。なので特に約束してないんです」
みんな納得って顔をしていた。
「じゃあ、今日はニーナは何をするんだ?」
今日の予定を聞かれたけど、何も決めてなかった。
「何も決めてませんでしたね」
思いっきり頭をなでながら笑われた。
「何も予定がないのはいいな」
頭もげそうなくらい、頭を撫でられた。
しかし確かに何も決めてないし、かといって角ウサギとか行くと普段と変わりないし。
「難しく考えるな。別に二度寝してもいいんだから」
困惑した私に気がついたダンさんが言ってくれた。
「おやつにクレープでも食べに行け」
「昼はしっかり食べてからだぞ」
おやつをけしかけるダンさんと、お昼をしっかり食べろと促すロウさんに笑ってしまった。
「今日は皆さんは何をする予定なんですか?」
自分の予定の参考になるかもしれないので、聞いてみた。
「俺たちは、明日からの依頼の準備だな。馴染みの商人の港の街までの護衛依頼を受けたから。といっても準備するものなんてテントの確認と食料を追加する位だからな。基本休養だよ」
「護衛依頼の時の食事は自分たちで用意するんですか?」
「その時々だな。今回の護衛対象の人の場合はこちらで用意しておくな」
「食料の買い出しは俺も一緒に行くからな。ダンに任せるとどうなるかわからん」
ダンさんは食料調達の信頼がないみたいだけど、私の栄養状態は気にしてくれるから多分本当はちゃんとバランス良く食べていると思うんだけどな。
「でも、そっか。みなさん数日ケイアに居ないんですね」
ちょっと寂しくなってしまったけど、そんなの迷惑だから笑わないと。
「ほんの数日だよ、ニーナ。しばらく向こうに滞在するらしいから街に送ったら戻ってくるからな」
ごまかされてくれなかったダンさんが優しい声で言ってくれた。
「俺たちが居ないからって甘い物ばかり食べていたらダメだぞ。戻ってきたら聞くからな」
ロウさんも戻って来てからの事を言ってくれる。
やっぱりこの人たちは優しい。
しかし、なんかこの前から情緒不安定になっている気がする。
この前スライム観察とかして、恥ずかしいけど泣いたし落ち着いたはずなんだけどな。
「ニーナ、ちょっと付き合え」
ダンさんが言うので訳分からないけど、後をついていく。
職員に声を掛けてから、この前女子会でも利用した部屋に連れていかれた。
勿論ダンさんだけじゃなくてロウさんとカイさんも一緒だ。
「ニーナ、話せることは無いか?俺には話せないか?」
椅子に座って、目線を合わせて言われた。
それでも黙っていると。
「嫌ならごめんな」
そっと抱きしめてくれた。
「ニーナに会ってから1カ月たったよな。それはニーナが親と離れて1カ月たったってことだろ?最初は生活の不安や緊張から感じないだろうけど、そろそろ生活は何とかなってきただろ?そしたら淋しさが襲ってくるころだと思うんだ。そして、1カ月前のニーナと同じような状況のカレンとサラに会っただろ。ニーナが1カ月前を思い出して不安定になったり、カレンとサラはまだ親と会える可能性がある事に心が不安定になっておかしくないんだ」
そっと抱きしめられて、温かくて、優しい声が浸み込んでいつの間にか涙が出ていた。
ダンさんは泣いているのに気が付いているだろうに、何も言わないでくれた。
「不安定になって当たり前なんだ。でも一人で抱え込むな。淋しいなら誰かを頼れ。頼っていいんだよ」
優しく抱きしめながら頭を撫でてくれる。
涙が止まらない。
「でも、頼る相手を考えろよ。変な奴に頼ったりしたら危険だからな」
急に保護者が出てくるけど、優しく話すから笑ったりできずに泣き続けてしまう。
なんとか涙をこらえて声を出す。
「ダンさん達は頼っていんですか?」
笑った振動が伝わってきた。
「あぁ、俺たちは頼ってくれていいよ」
頭をぐりぐり押し付けてやる。
背中をトントンする手と、笑って頭をポンポンする二つの手がある。
なんか大人の余裕を見せつけられて悔しいからもっと頭をぐりぐりしてやる。
なんか泣いてすっきりなのか、悔しいけど人のぬくもりで落ち着いたのか……。
クリーンを私とダンさんにかけて、顔を上げる。
目の前にダンさんの顔があって、びっくりした。
「ありがとうございました。次からはもっと早めに抱っこって言いますね」
3人に笑われるかと思ったら、優しく頭を撫でられた。
「おぅ、そうしてくれ」
ダンさん達に悟られたのは悔しいけど、自分一人では淋しさを受け止めきれなかったみたいだ。
やさしさとぬくもりを与えられて、ようやく落ち着いたのが自分でもわかる。
羞恥心も湧き上がっているけどね。
でも離れるのがもったいなかったので、自分から抱き着いてやった。
ダンさんは笑いながら、ぎゅって抱き返してくれた。
「多分ですけどダンさんが言っていた通りだったんです。最近どうにも落ち込んだり泣いちゃったり。きっと淋しかったんです。もう会えない。そうわかっているんです。最初は思い返す余裕もなかったし、生活が成り立つか不安だったから。でも、スライム達が居てくれて淋しさが少し紛れたんですけど淋しいんです。きっと」
背中をポンポンしてくれる手を感じながら、最近のあれこれを吐き出す。
「サラとカレンはとてもいい子です。その父親が無事にケイアに迎えに来てくれることを本心から願っています。でも、心のどこかでもう二度と会えない両親を思い出して辛くなってしまって。でもカレンとサラの父親の無事を祈っているのも本心なんです」
「そりゃそうだ。ニーナは本心で友達の幸せを祈っているさ。でも、それとこれとは別なんだよ淋しくなるのは。淋しくなって当たり前なんだ。だって会えなくなってまだ1カ月しかたってないんだぞ。当たり前なんだよ」
カレンとサラに会えて、元の世界を知る人に会えた喜びはあった。
でも、カレンとサラはこちらの世界に転生してから10年たっている。
元の家族との別れの心の整理はもうついている状態だ。
そして、今の父親をちゃんと父親として慕っている。
だからこそ心からカレンとサラの父親の無事を祈っているのに、もう会えない家族を思って淋しくなってしまう。
それを駄目だと思って否定していたからどんどん不安定になっていたんだな。
「淋しいのは当たり前ですよね。うん。淋しいんです。慰めてください」
笑いながらぎゅーって締め付けてきた。
「今慰めてるだろうが」
笑いながら、叩いて離してもらった。
ダンさんが目の前に、最初に一緒に食べたクレープと肉の皿を出してきた。
「腹減ってっから余計に暗くなるんだよ。食べようぜ」
ロウさんやカイさんもアイテムボックスから出して食べ始めていた。
「もうほとんどお昼ですよ、しっかり食べて二度寝でもしなさい」
「そうそう二度寝から目が覚めたら、また運動すれば夜も眠れるさ」
食べながら二度寝を進めるロウさんとカイさん。
そんなに疲れているように見えるのかな?
「そうします。しっかり寝て、その後に運動してまた寝ます」
楽しく朝食?昼食を食べて、3人にお礼を言って別れた。
宿泊所に戻る時に延泊手続きして部屋に戻る。
自分にクリーンをかけて、ベッドに入る。
「みんな心配かけてごめんね。みんなのおかげで本当の孤独にならなくてすんでいるんだ。本当にありがとう」
スライム達にお礼を言ってなでなでする。
「あれだけ勧められたから二度寝するよ。明日の朝まで起きなかったら、いつもの時間に起こしてね」
"""はーい"""
何となく朝まで起きない気がする。
「お休みなさい」
"""お休みなさい"""
眠れるかわからなかったけど、あっという間に眠ってしまった。
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