第5話 はじめての討伐
夜明け前に自然に目が覚める。
早寝しているからとても目覚めがいい。
今日は少しだけ早く動いて、薬草を採取したら魔法を試すことにする。
今まで使用していたのは、ほとんどの人が使える基礎魔法のクリーンや飲み水を出すウォーターだけだったので、買い物で取得した各属性の魔法を安全なうちに試しておきたかった。
この世界は道であっても決して安全ではない。単に人が多く通る場所で兵士が定期的に討伐してくれているから他よりは多少安全なだけの話だ。
(身を守る手段は確認しておかないといけないよね。この世界は自分で自分の身を守らなきゃいけない)
いままで生き物を傷つけることは犯罪だという常識の世界で生きてきた。でも、ここはいざという時には相手を傷つけようと自分で身を守らなければならない世界だ。
いきなり感覚を変えるのは難しいので、少しずつ弱い魔獣から戦うことを覚えていかなければならない。
それが出来ないのならば、街の中で職を探すことになるけれど、私という個人を保証してくれる人が居ない事から就職自体が難関になることは想像できる。
だからこそ、誰でもなれる冒険者ギルドに登録したのだから。
試してもいないことをあれこれ考えても悲観的になってしまうので、朝ごはんを食べることにした。
ベッド以外のわずかなスペースに昨日買ったテーブルと椅子を出して食べる。
(なんかキャンプみたい)
ちょっと気分が上向きになったので、急いで食べて本日の薬草採取に向かった。
朝ごはんを宿泊所で食べてきたので、昨日より早い時間に薬草採取が始められた。
ラッキーなことに群生地を見つけたので、お昼までに19束集めることが出来た。
お昼を素早く食べた後、もう少し森の方に向かって歩く。
当然サーチとステルスは使用している。
(ここら辺でいいかな)
道から30分ほど森の方に入った草原で魔法の実験をすることにした。
今回実験するのはレベルの高い水魔法と光魔法だ。
時間があれば風と土も実験したいけど、火魔法は火事が怖いので後回し。
(まずは安全そうな光魔法で明かりを出してみよう)
手の平の上に丸く浮かぶ電球ほどの光をイメージする。
「≪ライト≫」
最初なので言葉に出したが、成功した。
イメージ通りに手の平に電球ほどの明るさで光の球が浮かんでいる。
光の球が消えるのをイメージしたら消せたので、次は3mほど前方に同じように光の球を出してみる。
「やった成功! 基礎魔法だけどクリーンとか使っていたから成功したのかな」
次は自分の1mほど前に光の球を出すんだけど、自分が動いたら同じような間隔をあけたまま移動するイメージで実験する。
前後左右に歩いたり、回れ右をしても光の球がちゃんとついてくる。
(さすがLv.3なだけある)
どうやらレベルが高いため、魔法の成功率がいいみたいだ。
(次は水魔法を実験しよう。水魔法はイメージ次第で森でも使用できる攻撃に使えそうだし)
光魔法と同じレベルなら、私程度のイメージ力でも魔法として発動できそうだ。
まずは光魔法と同じように手の平、次に3m先に水の球を浮かばせる。
ここまでは問題なく出来る。次は水のカッターをイメージして足元にあった石を切断しようとする。
(これはある意味失敗だ。細いけど水をすごい勢いで出すから魔力消費が激しい)
小石を切るのに今までなかった疲労感を感じたので慌てて魔法を止めた。
これまでの実験で分かったのは、レベルが高いからか光と水はイメージ通りに発動しやすい。
水を出し続けるなどは、魔力の消費が激しいが光の球、水の球みたいに出すだけなら消費はそこまで負担でもない。
(魔力の消費が少なく、私にできる攻撃手段を増やすには……)
採取用のナイフを取り出して、ナイフの刃に水の球をまとわせる。
水の球を変形させて、日本刀の様に鋭いよく切れる刃を想像して水の温度を下げていく。
硬い硬い鋭い氷を想像する。
10cmほどの刃のナイフが20cmほどのナイフ?小太刀になった。
「あとは強度と切れ味が良ければしばらくはこれで何とかなるかな?」
そこら辺に生えている葉っぱに向かって横なぎに振ってみる。
無事に切れた。次に強度を確かめるために小石を拾って叩いてみるが、びくともしない。
思ったより強度があったので、面白がって石に対して振るってみた。
「うわ……切れた」
小石とはいえ切れたことに、自分で作っておきながら一瞬引いてしまった。
(とりあえず攻撃は何とかなりそうだ)
まだ時間はあるので、初実戦を経験するためにサーチで一番弱い反応がある場所に行くことにする。
魔法の実験をしていた場所から10分程歩いた所でステルスで身を隠している。
少し先にサーチで一番弱い反応があるからだ。
よく目を凝らしてみてみると、形の崩れたゼリーみたいなものが何体かいるのが見える。
(あれがスライム)
以前の世界には存在しない、生物なのかもわからない魔獣。初戦として精神的負担が少ないだろうと思って選んだ。
冒険者の基礎知識によると、スライムの攻撃は体当たりと取り込んで捕食行動。
大量のスライムに囲まれなければ子どもでも相手が出来るようだ。
でも油断は禁物。1体で外れているスライムを探す。
右の方に1体で伸びているスライムを見つけた。
ステルスで気配は消しているけど、上手くいくかわからない。
緊張で心臓の音がうるさい。
スライムの近くに来た。
先程実験した時と同じようにナイフに氷の刃を付ける。
スライムに向かって振り下ろした。
突き刺すのと振るうのをどちらにするか迷ったが、ほかに武器がないのに突き刺した場合に反撃されたときに何もできなくなりそうなので振り下ろすことを選んだ。
スライムは何もできずに本当の液体のようになって地面に浸み込んで何も残っていなかった。
倒せたのかわからなくて混乱してしまったが、基礎知識がスライムを倒すとこの様になることを教えてきた。
ほっとしたけど、すぐにそこを離れた。
何も残らなかったけど、初戦は経験できた。
想像していたより緊張していたからか疲労を感じるので、今日は街に戻ることにした。
また、明日薬草を採取した後にスライムを探して倒して戦闘に少しずつ慣れよう。
スライムが平気になったら角ウサギが目標だ。
(角ウサギはお肉になるんだから。って違う薬草より高く買い取ってもらえるんだから)
角ウサギが狩猟できるようになれば、冬ごもりの資金も早く貯めることが出来る。
早く貯めて、他の必需品を揃えていかなければならない。
(冬服っていくらするんだろう。冬ごもり貯金の次は冬服の資金を貯めなきゃ)
余裕ある暮らしは遠いとため息つきながらも、習慣になったステルスしながらのサーチで安全を確認しながら帰路に就いた。
街に着いた時には、昨日よりも遅くもう少しで夕方になりそうな時刻だった。
いつもより混んでいるギルドで今回も15束を納品して600ルーを貰い、宿泊所をお願いした。
(いつもより遅かったから宿泊所空いてないかと思った)
ちょっとひやひやしたので、もう少し貯まったら連泊でお願いしようと思う。
お決まりのスープとパンを注文して、空いている席を探して席に着いた。
いつものように分割した後に食事を始める。
(いつもより遅いから少し混んでる)
昨日よりも人で賑やかな食堂を見ながら食べていると、隣に人が来た。
「おう、ニーナ。仲間も一緒に相席いいかい?」
「ダンさん。もちろんいいですよ」
自分だけ独りだったので、少し寂しかったのがダンさんのおかげで消えた。
「今日もそれだけか?肉食え肉」
ってまた串焼きを渡された。
「昨日も貰ったのに、申し訳ないですよ」
返そうとすると、ダンさんのお仲間と笑っている。
「初めまして、ダンの仲間のロウといいます。お近づきにどうぞ」
「俺も初めましてだな。ダンとロウの仲間のカイだ。肉食え」
そう言われてしまった。
「ニーナです。よろしくお願いします。串焼きありがとうございます。いただきます」
こうなったら遠慮せずに貰っておいた。
やっぱり美味しいけど、最初の一個でお腹いっぱいになっちゃう。
了解を得て保存させてもらう。
「ニーナはいつもなんのクエスト受けているんだ?」
ダンさんが何か飲みながら聞いてきた。
「薬草を採取してます。何とか集めて宿泊所と食事位はなんとか」
正直に答えると、皆さん笑っていた。
「最初はみんな同じだ。最初に討伐に行こうとするやつは殆ど帰ってこないからな」
最後のは少し苦い笑みで言っていた。
「ニーナ。少しずつ進んでけ。段階を踏んでステップアップしろよ」
先輩冒険者からのありがたいアドバイスだ。
「はい。薬草を採取して合間にはぐれているスライムを倒そうと考えてます」
これからの行動指針を伝えると、それがいいと認めてくれた。
ダンさんたちは色々お話してくれた。
宿泊所は壁が薄いし、個室だがベッドがやっと入っているくらいの狭い部屋、複数人の部屋も同じように狭いのであまり人気はない事。
だから、深夜に戻った冒険者、所持金が心もとない初心者が利用する事が多い事。
でもちゃんと所持金を考えていないと、宿泊所すら利用できずに不衛生の雑魚寝部屋に泊まらざるをえなくなるから気を付ける事。
街から出て、道の右側の方の森は初心者から中級者向けな事。
だから薬草採取などは、道の右側の方を探す方が安全な事。
左の森は、右の森より強い魔獣が出るのでいかない方がいい事。
この人たちはきっと心配して、わざわざ相席までしてアドバイスをくれたんだと思う。
とてもやさしい人たち。
(お肉くれるし)
色々なアドバイスにお礼を言って、先に宿泊所に戻ることにした。
体が10才だからかもう眠くなってしまった。
ダンさんたちは笑いながらお休みって言ってくれた。
今日もお休みなさいを言って、先に宿泊所に戻った。
この世界に来てから初めて誰かと一緒に食事をした。
その事がなんか嬉しくて、先を考えて落ち込んだことをすっかり忘れて眠りにつくことが出来た。