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第49話 初心に帰る

 久々の顔をペチペチで起こされた。

今日は早く起きたのか、顔が痛くなっていない。

「おはよう。ありがとう」

クリーンをかけて、広場に向かうとここで会うのは珍しいダンさん達が居た。

スライムもつれているから丁度よい。

「おはようございます。ちょっとムム達貸してください」

「おはよう。いきなりだな。ちゃんと起きているか?」

「起きてます。貸してください」

怪しみながらもムム達をこちらによこしてくれた。

"クリーンを教えてあげてムム達使えるようになる?"

"ムム達なら使える。昨日の子達はきっとまだ無理だけど"

"そうなんだ。特訓した後なら昨日のスライム達も出来るようになるかな?"

"多分"

"そっか。まあ今はムム達にクリーンを教えてあげて"

ルル達を下におろしたら、スライム達でモニュモニュしている。

「で、ニーナ。何やってるんだ?」

いつの間にか側にいたロウさんに肩をつかまれた。

もともとダンさん達が隅に居たこともあり、ものすごーく小声で答えた。

「クリーンを教えています」

肩をつかむ力が強くなった気がします。

「ニーナ、その話知らなかったな……」

ダンさんも片手で目を覆っている。

あれ?そんなに重要?

「マリーさん達にスライムがクリーン出来る事は教えたんです。だからムム達にクリーンを教えておこうと……」

頭をつかまれた。

そちらを見るとカイさんが目を据わらせて頭をつかんでいた。

「いや、だってバリア出来るの知ってるじゃないですか!基礎魔法もきっと使えるようになるって言いましたよね?」

「そうだけど、そうじゃない」

いつの間にか肩に乗っていた手は外れていて、ロウさんとダンさんはスライム達を観察している。

「ニーナ、情報を出すときには気を付けろと……」

頭から手は外れたけど、説教が始まってしまいました。

「これ話したのはダンさん達とマリーさん達だけですよ。マリーさん達には出来る事は伝えたけど教えてないです。あ、マリーさん達とテッド達には大きさを変えるのと血抜き方法はスライム達に伝えました。他の色々は内緒にしてます。でもムム達にだったら全部教えさせますよ」

脱力されてしまった。

「一応最低限にしているんだな」

「はい。でもマリーさん達のスライムがクリーンを覚えたら、多分スライムをテイムする女性が増えると思います」

「聞きたくないけど聞かなきゃな。それはなんでだ?」

「聞かない方がいいと思いますよ」

「いいからってあれか?月一の?」

「そうです。スライムは寝ないので夜に定期的にクリーンをかけてもらえば……ね」

「それは確かに増えるかもな」

「でしょ。だからカイさん達が、教えて大丈夫と思う人のスライムには伝授してあげてください」

思いっきりため息つかれたけど、了解してもらえた。

「別に男性の冒険者のスライム達にも教えていいですよ。ただテイムしたスライムを大切にしている人にしてください」

「わかった。教えていいと思う奴には、大きさを変えるのと血抜きを教えておく」

これでますますスライムを可愛がってくれる人が増えるといいな。

「教え終わったみたいなんで、私運動してきますね」

うちの子達にも声を掛けて少し離れて柔軟、走り込み、素振りをすます。

全てが終わる頃にはダンさん達は広場から出て行っていた。

スライム達を回収して、延泊手続きして部屋に戻る。

朝食を食べながら、今日の予定を伝える。

「今日は森をお休みして角ウサギを狩ろうか」

"今日は森いいの?"

""角ウサギー""

「森は明日に行こう。まだ連日だと疲れちゃうから」

"わかった"

朝食を食べ終えて、防具を身に着けて街を出る。

森に入って分かったのは、まだ精神的な疲れが大きく連日だと途中でミスをしてしまいそうと言う事だ。

なので隔日で森に行けば丁度いいかと思ったからだ。

だいたいいつもの場所まで道を進んで草原に入っていく。

そこからは今までと同じようにサーチで角ウサギを探して順番に狩猟をしていった。

お昼までに運良く6体狩猟することが出来た。

お昼を食べながら午後からをどうするかを悩んでいた。

「午後から何しようか……。角ウサギか特訓か」

"""お休みしよう"""

「お休み?」

"マスター疲れているよ。街に帰って遊んでもいいし、寝てもいいよ"

スライム達に言われて、はっとした。

確かにツアーコンダクターから手紙をもらった日から休んでいない。

これじゃ疲れちゃうはずだ……。

「そうだね。お休みにしよう。でもその前に新しい石タライを作ってからね」

手持ちの石を出して、4つの新しい小さいサイズの石タライを作る。

石タライの底と側面4か所に、私の従魔の証のマークとマークの下にそれぞれの名前が溝として刻まれている。

それぞれに水を入れて渡してあげると喜んでくれて、すぐに収納していた。

マリンに以前の石タライを返してもらい、この前作ったもう一つの小さい石タライも出す。

この二つを合体させて中くらいの石タライを作成する。

この中サイズの石タライにも底と側面4か所に従魔のマークを刻んでおいた。

「ギルドの広場で私はボーっと休憩させてもらうから、中サイズの石タライで水遊びでもする?」

"""する!"""

そうと決まればその場を片付けして、街に戻る。

ギルドの買取カウンターで角ウサギを6体を裏のテーブルに出して、3600ルーで買い取ってもらえた。

そのまま1階の広場に行った。

流石にまだ昼間なので他に2組しか人が居ない。

隅に移動して、私の椅子と先程作ったばかりの中サイズの石タライを設置する。

石タライには水がこぼれないバリアを張って、スライム達を入れてあげた。

私はその横でスライム達を見ながらひたすらボーっとしていた。

とりあえず、未来の事もスキルの事も森の事も何もかも考えずにただ揺れる水面とスライム達を見て、心を穏やかにしてボーっとしていた。

しばらくそうやってボーっとしていて、ようやくあの手紙を読んでからよくわからない焦りみたいな物を感じていた事に気が付けた。

だから休みも入れずに新しいステップである森に進もうとしていたのかもしれない。

あの手紙で、この世界に私が買い物してスキルを貰ったのと同じようにスキルを貰った人がこの世界にいる。

そのことを考えないようにしていたのに、手紙を読むことで意識してしまったのかもしれない。

別に競争でもないし、共闘でもない。

多分、何人かは1カ月を迎えられずに亡くなった人もいるのだろう。

今自分がこうやって生きていけるのも、偶然もらえたスキルが稼ぐのに向いていただけだ。

そして最低なことに、生き残っている人の中で自分の生活水準が高いかどうか、やりがいに満ちているかを無意識に気にしていたのかもしれない。

それが焦りって形で表に出て、休みを取らずに動き続ける原因になっていたのかもしれない。

この世界は元の世界の様な競争社会ではない。

そうわかっているのに、周りというか同じ立場の人達を気にしていたのかもしれない。

これまでその人達に会わなくて良かった。

会っていたらきっともっと意識して、いずれ無理してミスをして命を落とすか怪我をしていたかもしれない。

偶然だろうけど怪我も大きなミスもしなかった。

大きなため息がでた。

初心に帰ってシンプルに考えよう。

元の世界でどう死んだのか全く分からないけど、絶対に帰れないことはわかる。

だからこの世界に送られたときに、生き抜くかどうするかで生き抜くことを選択したはずだ。

周りは関係ない。

私はこの世界で精一杯生きていく。

それだけだ。

ようやく頭がすっきりした気がする。

晴れやかな気持ちになったので、スライム達と遊ぶために石タライの水を操作して波のプールみたいに波を次から次へと生み出す。

スライム達は楽しそうに波を乗り換えて進んでいる。

時々渦を出したりして、楽しく夕方まで遊んだ。

食堂で夕食を食べて、宿泊所に早々に戻る。

(今日は早く寝るんだ)

部屋に入って、手分けしてクリーンをかけてベッドに入る。

「今日はお休みにさせてくれてありがとう。明日も起こしてね。お休みなさい」

"""お休みなさい"""

スライム達の声を聞きながら目を閉じる。

何故かスライム達をテイムする前を思い出して、今返事をしてくれるスライム達がいる事にとても感謝を抱いた。

(この子たちが居て本当に良かった)

私はこの子たちと一緒に楽しく生きていくんだ。

そう決意して、眠りに落ちていった。


ブックマーク、評価、いいねをありがとうございます。

大変励みになります。

これからもよろしくお願いします。

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