第39話 和解
今朝も顔へのペシペシと腕の中での振動で目が覚めた。
どうやらマリンを途中抱き込んでしまったみたい。
「おはよう。いつもありがとう」
リトもドームを解除してこちらに来てくれたので、モニュモニュする。
「今日も昨日と同じで交代で角ウサギを狩猟しようね」
やる気に満ちたスライム達は早く行こうと念話してくる。
「朝食前に広場で体力づくりしてからね」
広場に移動して、スライム達は隅でバリア特訓を体当たりではなく突きをして行っている。
私は軽く走った後に、剣の素振りと棒の素振りを行う。
運動後に延泊手続きして部屋に戻って朝食を食べて、防具を付けて角ウサギを狩りに行く。
草原でサーチで見つけた角ウサギを昨日と同じ様に順番で狩っていくけどお昼までに3体しか見つからなかった。
午後に1体だけでも見つけないとリトが今日の狩猟が出来なくなっちゃう。
スライム達は草を食べるのと非常食用にアイテムボックスに草を貯める事をしてもらった。
私はその間にお昼と近くにあった草を抜いてスライム達の非常食を増やしておく。
沢山貯めておけば冬でも新鮮な草を食べさせてあげられるから。
ある程度草むしりをした後に、角ウサギを探して移動する。
何とか2体の角ウサギを見つけた。
私とリトで狩って、午前中に狩猟した分も血抜きをしてもらい、全てにクリーンをかけて収納しておく。
少しだけ街に戻るには早いけど、次の角ウサギに行くには短い微妙な時間があいたので2回目のお風呂を決行する。
「私はお湯につかるけど皆はどうする?水遊びする?」
"""水遊び"""
石タライと浴槽を出して、スライム達は石タライに入れてあげる。
浴槽に最初っから温かいお湯を入れて、自分にクリーンをかけてお湯に入る。
張り付く服や重くなる靴が不愉快だけど仕方がない。
短時間だけどお湯に入って温まることで疲れが抜けていく気がする。
長湯は出来ないので直ぐに出て自身にクリーンをかけて綺麗にする。
浴槽のお湯を捨てて、石タライからスライム達も出てきたのでまとめてクリーンをかけて収納する。
クリーンのおかげで清潔なんだけど、やっぱりお風呂に入ると疲れが取れる気がする。
これから街に戻れば何時もの時間になるので、スライム達を抱き上げて街に向かって移動する。
今まで色々な事を同時に行って思考に負荷をかけていたけど、並列思考みたいなスキルが生えていない。
そのようなスキルがないか、やり方が間違えているかのどちらかなんだろうな。
何事もなくギルドに戻って買い取りカウンターに角ウサギ8体である事を伝えて、奥のテーブルに今日の狩猟分の8体を置く。
この査定を待っている時間が、この間の事を思い出してちょっと怖いんだ。
「いいところに。ニーナ」
声がかかってビクって動いてしまった。
「あー、悪い。驚かしたな」
ポールさんがバツが悪そうに立っていた。
「大丈夫です。すみません驚いて」
「いやいや、この後少しいいか?」
「はい。では食堂で待っててもらえますか?」
そろそろ査定が終わりそうなので、食堂で待っててもらうようにお願いした。
了解してくれたポールさんが食堂に移動するのを見送って、少ししたら査定が終わって買い取りカウンターに呼ばれた。
「お待たせしました。無傷な角ウサギが4体と首に傷がある角ウサギが1体の合計5体です。首に傷があるものも小さいし剥ぎ取りに影響が無い箇所と大きさですので1体600ルーで3,000ルーで買い取り可能です」
「それでお願いします」
リトが安心した気持ちを伝えてきた。
買い取り金額3,000ルーを受け取ってポールさんが待っている食堂に向かう。
食堂に行くと、ポールさんが席に座って待っていた。
同じテーブルの席に座った。
「すみません。お待たせしました」
「こちらこそ急にすまないな。以前の問題児の件の追加の報告なんだ。同じ町出身だって言ったろ。だから町まで行って、親に今回の件の報告と少しの間だけど俺が指導することを報告しに行っていたんだ」
町までポールさんもわざわざ一緒に行ってくれたみたい。
「あいつらは当然怒られ、改めて冒険者を続けるかの選択をさせられていたよ」
どう答えていいかわからないので、黙って話を聞き続ける。
「まあ、全員冒険者を続けることを選んで一緒に戻ってきたよ。それであいつらの親からお詫びの品を持っていてくれって頼まれてな」
ポールさんがテーブルの上に出し始めた。
丈夫そうな手袋と干し果物が入った袋、小さな鍋が置かれた。
どうしたらいいかわからなくて、ポールさんの顔を見た。
「受け取ってやってくれ。自分よりも年下でソロで頑張っている子に八つ当たりしたってのがあまりにも情けなくて、申し訳ないって言っていたから」
「わかりました。受け取ります。あの人たちはどうしてますか?」
受け取らないと終わらなそうだったので受け取った。
「あいつらも反省して、素直にアドバイスを受け入れるから何度か一緒に狩りに行って、角ウサギを問題なく買い取ってもらえるくらいになったよ。生活にも余裕が出来たみたいだ」
もう問題なく生活できるようになったみたいだ。
(良かった)
「あいつらも改めて謝りたいって言っているんだが……どうだ?」
ポールさんが声を掛けてきたときからそうかなって思っていたので、身構えずに答えることが出来た。
「はい。ポールさんが見ててもう大丈夫と判断したんですよね?」
うなずいたポールさんにうなずき返した。
「今からでも大丈夫か?」
まさか今からとは思わなかったけど、問題はないので同意する。
ポールさんが席を立って呼びに行った。
ちょっとドキドキしているけど、周りの顔見知りの人達が気にしてくれているのが分かるのできっと大丈夫。
でも緊張するので、スライム達をモニュモニュして待つ。
ポールさんと、あの人達が戻ってきた。
「ほら、ちゃんとしろ」
ポールさんが促している。
「本当にすみませんでした」
先頭の人と後ろの2人の人が頭を下げた。
「もう大丈夫です。気にしないでください。私はニーナです。これからはよろしくお願いします」
謝罪を受け入れて、こちらから自己紹介をした。
「受け入れてくれてありがとう。俺はテッド、一緒にいるのはマーク、オーティス、ラリー。本当に済まなかった」
「もういいですよ。先輩たちからしたら私たちはまだまだ若造らしいので。頑張って一人前になっていきましょうね」
「そういうこった。ニーナもテッド達もまだまだガキなんだから。でも自分が上手くいかないからって年下に八つ当たりするのは格好悪いけどな」
テッドさんが申し訳なさそうに小さくなっている。
「もういいですから」
笑いながらポールさんを止めた。
「ご家族の方からもお詫びを頂いたので、本当にもう気にしないでください」
「ニーナがそう言うならそうするか。じゃあ和解ってことでおごらせてくれ」
いやいや、首振ったけど押し切られてしまった。
まあ、和解の後に一緒に食事をすることでわだかまりもなくなりそうだけど。
ポールさんがテッドさんをこき使って料理を運んでくる。
私もと思ったけど、ポールさんに止められたのであきらめて座っていた。
食事がそろってぎこちないながらも雑談をする。
食べ進めていくうちにだんだん普通に話せるようになってきた。
さんを付けてで呼んでいたんだけど、年齢も近いし、申し訳なさすぎるから呼び捨てで呼んでくれって言われたので呼び捨てで呼んでいるんだけど慣れない。
テッドとマークは魔力を持っているんだけど魔法として発動できないんだって。
だからと言って町で差別されたりしていないんだけど、何となく外を見たくてテッドとマークの2人で冒険者になりに街に出ようと思っていたら、一緒につるんでいたオーティスとラリーも一緒に来てくれたんだって。
私に八つ当たりした時は、狩も上手くいかないし持ってきた初期資金も乏しくなってきてどんどん心の余裕を失っていたんだって。
ポールさんが付いてくれて狩りをして、かなりダメなところを指摘してくれて収入がましになって生活がなんとかマイナスにならなくなった。
今は明らかに自分より年下の子に当たるなんて情けないって思える気持ちの余裕を取り戻したって。
話しを聞いて気持ちが凄くわかってしまった。
私も最低限の費用が稼げるかわかるまでは、周りを見る余裕なんてなかったし働けない日が続いたらすぐに詰んでしまう状況に焦っていたから。
私がぎりぎり何とかなったのはサーチと鑑定があったから。
それが無かったら薬草を効率よく探せなかったし、そもそも薬草がどれだか分らなかっただろうし。
だから、私も冒険者になってからの事を少し話した。
ギルドの受付で安い宿を聞いたら、年齢とソロなのもあって狭いけどギルドの宿泊所を進められた事。
食事もギルドの食堂のパンとスープを食べている事。
スライムをテイムして淋しさが無くなった事。
ギルドの広場で体力づくりしてから薬草採取や角ウサギの狩猟をしに行っている事を話した。
どうかこの話がヒントである事に気付いてほしい。
まだまだ新人で年下の私がヒントを出すなんておこがましいことだけど、多分最初の部分のヒントは他の人は出してくれないから。
周りの冒険者の方達はヒントだと気が付いたのかニヤニヤしているくらいだし。
ヒントの内容はギルドの受付で聞いた宿泊所、スライム、広場だからどれかだけでもいい。
今でも収支がなんとかなっているなら宿泊する場所は変える必要はないかもしれないし、ポールさんが気にかけている今ならギルドに相談することもないかもしれない。
でも、スライムがいれば血抜きを教えれば買い取り額が上がるし、広場で体力づくりすれば周りの人の動きから自分で色々気付けるかもしれない。
何かを察したのか、広場に体力づくりに行くことを相談している。
冒険者には色々な人が居るから、事情が知られた今なら手を差し伸べてくれる人がきっといるから。
私に手を差し伸べてくれているダンさん達みたいに。
こういうのを恩の先送りって言うんだっけ?
私が伝えられることは伝えたし、スライム達の能力は言っていないからまあ大丈夫だろう。
それからも雑談して食べて私を気遣ってくれて早めにお開きになった。
すっかりわだかまりもなくなって、お休みなさいの挨拶を交わして宿泊所に戻る。
部屋に入ってベッドのクリーンはルルに、防具は手分けしてマリンとリトに、私自身と脱いだ靴は私がクリーンをかける。
何度も使っているとどんどん楽に使えるようになるからね。
ベッドに入って、みんなをモニュモニュする。
「明日も角ウサギを狩りに行こうね」
すりすりしてくれて皆狩りを楽しみにしているのを伝えてくれている。
その後は寝る前のルルとの魔力譲渡の練習を忘れずに行って、譲れる魔力量が多くなれるように練習する。
眠くなってきたので、練習を止めて寝るために横になる。
今日は胸の奥に小さなしこりになっていたことが解消されたので、気持ちがすっきりしている。
スライム達にお休みを伝えて、目を閉じる。
今日はいい夢が見られそう。
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