第29話 初ダンジョン1日目
顔にペチペチされる感触で目が覚めた。
青い天井をみて、マリンが包んでくれていることを思い出した。
部屋の様子を伺うとまだ動きがないのでこのまま動きがあるまで待つことにする。
"おはよう。みんなありがとう。他の人が起きるまでまだ静かにね"
まだ声は出せないので、念話で挨拶と感謝を伝えておく。
今日は初めてのダンジョン。
今日私が戦うのは少しだろうけど、少しでもうちの子たちの修行になるといいな。
そんなことを考えていたら、他のベットも動く気配がしたのでマリンにドームを外してもらう。
飛び込んできたマリンとルルを抱きしめて、体を起こす。
同じくらいに体を起こしたカイさんと目が合ったので、小声で挨拶を交わす。
ベットの上で足や手、胴体に昨日の防具を装着していく。
2回目だから昨日よりはすんなり装着出来た。
スライム達も肩と首に移動してもらう。
装着出来たころにはダンさんやロウさんも起きて、装備を着け始めていた。
さすがにちゃんと職人による装備なので着けるのも楽らしく、私より早い時間で装着できていた。
装着出来たら、ベッドから降りてクリーンをかける。
「みんな準備できたから、朝食食べてダンジョンそのまま行くからな。忘れ物するなよ」
絶対ダンさんは世話焼きだと思う。
下の食堂で朝食を食べて、いよいよダンジョンに向かう。
ダンジョンはこの街の東の門を出て少ししたところにあって、そこには一応売店などがある小さな町みたいになっているんだそうだ。
元々はダンジョンの入り口を管理かつ隔離するために、その周辺に石壁を作って中に買取所や兵士滞在所などだけだったのに、いつの間にかに売店ができ、簡素だけど宿屋ができてって町みたいになってしまったんだって。
昨日そちらに泊まらなかったのは、夜中でもダンジョンから出てくる人が居るので騒がしいから夜中にダンジョンから出てきたとかでない限りダーモットの方で寝る方がゆっくり出来るからなんだって。
東の門を出て、道を歩いているとすぐに石壁が見えてきた。
(本当にダーモットの街に近い)
石壁の所に兵はいるけど、街に入るみたいに検問みたいなのはしていない。
疑問に思ってダンさん達に聞いたら、ここは街と違ってダンジョンから魔獣が溢れることを警戒する場所だから入る時にはよほど怪しい人間じゃなければ声をかけられることもないんだって。
ちょっと心配していた、お手製のゼッケン型防具は目立つ様なこともなかったので安心して歩くことが出来た。
ダンジョンの入り口はなんか独特な雰囲気をした大きな岩に穴が開いているようだった。
ふと興味を惹かれて鑑定してみた。
ダンジョン(ダーモット)
通称 優しいダンジョン
4階までは初心者の力試しに丁度いい。
5階から草原、洞窟などの一般的なダンジョンに変わる
宝箱が出る可能性あり
ダンさん達から聞いた情報が簡単な文章で表示された。
(やっぱり鑑定は勉強した内容で変化するのかも……)
ダンジョンの入り口には、1階への入り口と登録階にジャンプ出来る魔法陣の2つの入り口がある。
混んでいるのは魔法陣のほうなので、1階に入る私たちはすんなり順番がきた。
入り口をくぐる時には緊張した。
だって、岩に入り口があるだけで塔があるわけでも、岩の後ろに山があるわけでもないんだから。
くぐった瞬間は、なんか不思議な感覚だった。今まで居た空間とは確実に別の所にいるのが分かる。
地図を見ると、今までの地図とは別の地図になっているのでその事からもここは別の空間の中なのは確実だと思う。
だって、暗いっていうか黒い入り口に入ったら、広い廊下が現れるなんて通常空間では考えられない。
後ろから来たカイさんにわかっていたかのように背中を押されて先に進む。
入り口から少し離れてから数字の書かれたドアがあった。
ドアの前は廊下よりも広くなって広場みたいになっている。
広場の奥に階段があるので気になってみていたら、次の階からこの階に移動する階段でこちらからは入れないことを教えてもらった。
4階までは同じような構造で、次の階に行くにはボス部屋をクリアしないといけないので、この1階ではボス部屋だけ通る人ばかりらしい。
まずは全員で1の部屋に入る。
部屋の真ん中にスライムが1体だけいる。
戦うのはルルからだ。
ルルを床?におろすと、自分でバリアを張ってすすすって進んでほどほど離れた距離から触手で鋭い突きをしてあっという間に倒してしまった。
倒した後は一度部屋を出ないと次の魔獣が出てこないので、一度部屋を出る。
「いつもこんな感じでうちの子たちは討伐しているみたいです」
「ここからは2組に分かれるぞ。俺とニーナ、ロウとカイな。だいたい鐘の半分くらいで組み合わせを変えていこう」
鐘の半分は、私では1時間半くらいの感覚だ。
私と組んだダンさんは2の部屋にロウさんとカイさんは1の部屋を使用してスライム達の特訓が始まった。
2の部屋に入ると、やっぱり真中に3体のスライムが待ち構えている。
今回はダンさんのムムとララ、うちのマリンで1体づつ討伐する。
マリンはルルと同じようにあっさり討伐して戻ってきたが、ムムとララはバリアを張ってかなり近づいてから触手を伸ばすけど当たっているんだけど倒すまでにはいかなくて何度か刺して倒せていた。
戻ってきたムムとララはバリアのおかげで何もないみたいだけど、ルル達が近づいて行って何かモニュモニュしている。
コツでも教えているんだろうか?
一度部屋を出てドアをしっかり閉める。
もう一度入ると3体のスライムが待ち構えているので、同じようにムムとララ、そして今度はリトで討伐する。
この流れを1時間半ほど行って、ドア前の広場で組み合わせを考えるためにロウさんカイさんと合流した。
「ムムとララは1体となら大分短時間で倒せるようになった。そっちはどうだ?」
「1体ずつだから効率悪いや」
「まだそんなに順番が回転出来てない」
ロウさんとカイさんの方は回転率が悪くて思った成果が出ていないようだ。
「全員でボス部屋を行きませんか?20体でしたよね?ムムとララを見ているとバリアに体当たりされても壊れてなかったから効率が上がると思いますよ。こちらのスライムも9体いますしね」
ボス部屋を全スライムで周回することを提案した。
色々話したけど、一度ボス部屋を行ってみて問題なさそうだったら周回することになった。
結果は問題なかった。
それにボス部屋は確定でスライム核が1個以上出るんだって。
少しでも収入があってよかった。
戦闘は殆どをうちの子たちが倒しているけど、ムム達のスライムはきっちり残して倒しているし、だんだん他の子たちも倒す速度が速くなってきた。
ダンさん達はスライムを見守っているけど、私はスライムのいない壁に向かって火魔法でファイヤーボールを打ち出したり、ファイヤーアローを打ち出したりしていた。
風魔法だと、矢のイメージもよさげだけど、カマイタチみたいなイメージのウィンドカッターもよさげに発動していた。
今までできなかった属性の魔法の練習も思いっきり出来るので、ダンジョンに特訓に来てよかった。
お昼ぐらいまで誰も来なかったのでボス部屋を周回した。
広場でお昼を食べて、ちょっと休憩している間にもみんな会話をしようとスライムに向き合っている。
午後も同じようにみんなでボス部屋を周回していたら、みんな一撃でスライム討伐できるようになってきたので、再び20体出てくるボス部屋と10体出てくる4の部屋に分かれることにしたんだけど、組み合わせでもめたので、ダンさん、ロウさんはカイさんのスライムを連れてボス部屋に、私とカイさんで4の部屋に行くことになった。
そうすることで、1回の周回でスライム当たり何スライムを倒せるっていうのが平等になるからってことらしい。
私一人で4の部屋にいっても良かったんだけど、今回は必ず誰かが付きそうって言われたのでカイさんが付き添ってくれることになった。
午後も体感時間で1時間半くらいで付き添いが交代しながらスライム達の特訓を続けて、私は壁に向けて魔法の練習をしていた。
「今日はここまでにしよう」
1日目の特訓が終わった。
「1階には宿泊できる安全地帯が無いんだが、どうする?」
宿屋に行くかダーウィンに戻るかの話まで出ていた。
「ダンジョンの中で野営しないんですか?」
ダンさん達が困ったように表情を変えた。
「5階からならセーフゾーンがあるからそこで野営するんだけど、1階はそんなのないから」
セーフゾーン?。
「セーフゾーンって何があるんですか?」
「魔獣が出てこない、飲める水が湧いている場所の事だよ」
ロウさんが教えてくれたけど、1階でも野営には困らないと思うんだけど違うのかな。
「初めてだから変な事言ってるかもしれないんですけど、1の部屋のスライム倒してそのまま野営しちゃダメなんですか?」
水も魔法で出せるし、用足しは壁を作って見えないようにすることもできる。
他の人も入ってこれないから安心して眠れるからいいと思うんだけど。
ダンさん達は、出来るかどうかの検討に入ってしまった。
結局、1の部屋のスライムを倒してそのまま野営してみることになった。
さくっとスライムを倒して、ダンさんとロウさんが部屋の隅に棒を地面にくぼみを作ってさして布をかけて目隠しを作ってくれた。
当然目隠しから逆の隅に寝ることになった。
中に人が入っている限りはドアは開かないので、全員寝ようと思えば眠れるけどさすがに不用心なのでダンさん達はまた交代で見張りをしてくれるそうです。
皆が各自収納している夕食を食べて、用を足してすぐに眠らせてもらうことにした。
「起こすからそれまで寝てろ」
カイさんがそう言ってくれたので、起こされるまではゆっくりしてようと思う。
この前の野営みたいにスライムテントになってもらって、寝ようとしたら2番目の見張りになったダンさんがうちの子たちみたいにスライムベッドとテントにしていたので驚いてしまった。
「ある程度、意思がきちんと伝わるようになったんだ。だからお願いしてみた」
嬉しそうに自慢された。
「すごく寝心地いいですよ。お休みなさい」
お休みなさいがみんなから帰ってきて、やっぱり嬉しい。
ダンジョンの中なのに、安心感に包まれてそうそうに寝てしまって、朝までまったく起きなかった。
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