第22話 (言い訳)特訓なんです
椅子に座って水を飲み終わったころには呼吸は落ち着いていた。
「さあ、次の特訓をしよう」
的を片付けて、石タライのところまで戻ってスライム達を確認しようとしたら、水遊びは終了みたいで皆いなかった。
クリーンをかけて収納しておく。
同じ場所に先程作成したものを出して、改めて見るとこのままでは今の身長では不都合があるので少し修正してからたっぷりの水を出す。
水が溜まったら今まであまり練習できなかった火魔法を特訓する。
火魔法を炎と熱と分離して考える。
あやふやだけど、熱いのは分子が活発に動いている状況だったはずなので、目の前の水の分子が徐々に停止してゆっくりになっていくことをイメージする。
しっかりイメージして魔法を発動していくと、水が徐々に凍り始めた。
(やっぱり火魔法は炎と熱を操作できるんじゃないかな)
今度は目の前の氷水の水分子が運動量がどんどん増えていくイメージをしっかりして魔法を発動する。
徐々に氷が解けて、水になり湯気が出てきてついには沸騰した。
(次は、理想とする温度に出来るかどうかの実験)
理想とする温度をイメージして、魔法を発動する。
沸騰していたのが、徐々に下がり湯気が出ているお湯になった。
恐る恐るちょっと手を付けてみると、理想とする温度になったみたいだ。
いざ、と思ったらまたぐには私の身体は小さいので、土魔法の練習として手すり付き階段を作成する。
そんなに太くしてないのに手すりも結構丈夫にできた。
階段の上まで登って、靴から服まですべてクリーンをかけてお湯の中に入る。
(服が濡れて気持ち悪いけど、危険がある中で服や靴を脱げない。でもお風呂だ……)
浴槽に段差を付けて座ることが出来るように直前に変更したけど、いい具合にお湯に浸れる。
危険が近づいた時にはお湯を出てクリーンをかければすぐに動くことが出来る。
それを言い訳に我慢できずに浴槽を作ってしまった。いや、土魔法の特訓をしたんだ。
今まで新規の能力獲得に注目していたが、買い物で貰った能力にもレベル表記があることを思い出したので、自分に鑑定をかける。
よく見ると土魔法がLv.1からLv.2に上がっていた。
もしかしたら、新規に取りやすいだけじゃなくて、取得できる経験値がアップしているのかもしれない。
だとしたら、レベルが低い物を練習するのも重要な気がする。
今後の特訓内容を考えていたら、スライム達が戻ってきた。
"マスターも水遊びしてる"
""一緒 入る""
階段を使って飛び込んできた。
「これは温かいお湯に入るお風呂って言うんだよ。本当は服を脱ぐんだけど、外だと脱げないからね。だから服着たまま入っているんだよ」
少し長湯してしまったけど楽しいお風呂タイムを過ごして水を捨てた浴槽をしっかり収納しておく。
全員にクリーンをかけて、椅子を出して水分補給をする。
「ちょっと久々のお風呂で熱くなっちゃったから、風を出そうと思うけど近くで見る子いる?」
"""見る"""
スライム達が膝に乗ってから≪ウィンド≫を使用してそよ風程度の風を浴びる。
暑くなった身体に気持ちがいい。
風をスライム達と浴びていると、リトが先程のルルの様に何かをしようとしている。
ウィンドを止めて、リトに注目していると少しの間そよって風が当たった。
鑑定して確認すると、やっぱりリトに風魔法が生えている。
「がんばったねリト。風魔法が生えているよ。ほんとうにうちの子はみんな頑張り屋さんだ」
皆を抱きしめてぎゅってする。
「特訓はここまでにして、今日は帰ろう。みんな頑張ったよ」
汗も引いたし、抱きしめたまま立って椅子を収納する。
忘れ物がないのを確認して、道に向かって移動する。
スキルも生えたし、スライム達も色が表す魔法を手に入れることが出来た。
でも、スライム達は特訓を続けたいみたい。まだ出来てないのがあるんだそうだ。
何をやっているのかまでは教えてもらえなかったけど。
そんな会話をしながらの帰路はあっという間だった。
戻ったギルドで角ウサギを3体買取に出して、1体600ルーで無事に買い取ってもらえた。
減額がなかったことにほっとしながら、食堂に行っていつものスープとパンを注文する。
お目当ての人達がいるか食堂を見渡して探し、見つけたのでそちらに近づいていく。
「相席いいですか?」
「珍しいな。もちろんどうぞ」
ダンさん達が笑いながら許可をくれる。
お礼を言って、素早く食事を分けて収納してしまう。
「今日スライムテイム行くって言ってましたよね。どうでした?」
そう、スライムがテイム出来たかが気になっていたんだ。
「見てくれ!」
3人が膝の上に乗せていたのか、スライムを持ち上げて見せてくれた。
偶然なのか、みんな白系のスライム達だった。
「見つけたのがたまたまこいつらだったんでな、ニーナの経験談を踏まえて頑張ったらテイム出来たよ」
「ニーナありがとな。ニーナに会えたら相談したいことあったんだよ」
「そうそう。食堂で周りに聞こえないように話すのも気疲れするから、食べ終わったら広場行かないか」
私にとっても都合のいいお誘いだったので、了承した。
「わかりました。私も相談したいことあったので急いで食べちゃいますね」
ゆっくりでいいって言われたけど、ダンさん達の相談内容も分からないので出来るだけ時間を取れるように早く食べた。
食べ終わった後、みんなで広場に移動した。
人が居ないところに座ってまずはダンさん達の相談を聞いた。
「俺たちのスライムは大きさを変えないんだけど、なんでだかわかるか?」
「ルル達にダンさん達のスライムと会話できるか聞いてみますね」
"ねえ、聞いていたと思うけどそこのスライム達と会話できる?"
"出来るよ。大きさの変え方が分からないようだったら教えてあげてもいい?"
"教えてあげられるなら教えてあげて"
「今ルルがスライム達に話を聞いてますのでちょっと待ってください」
ダンさん達に状況を説明して、くっついているスライム達を見守る。
"マスター、大きさの変え方と街での注意点を教えたよ"
"ありがとう"
「スライム達とうちの子が会話したみたいです。わからなかった大きさの変え方を教えたそうなので大きさを変えられると思いますよ」
「ありがとう。さっそくやってみよう。ムム、肩に乗れるくらい小さくなって」
ダンさんのスライムはムムという名前みたいだ。
ムムは無事に大きさを変えることが出来た。
カイさんとロウさんのスライムも大きさを変えられていた。
皆さん自分のスライムがかわいいみたいで、大きさを変えられたスライム達をほめている。
(そうだよね。スライムかわいいよね)
「本当にありがとう。おかげで移動が楽になるよ」
すでに肩に乗せてもらっているムムも嬉しそうにプルプルしている。
「それでニーナの相談ってなんだ?」
自分の相談を忘れていた。
「ここら辺で魔法の練習が出来る場所を教えてもらえないかと思って。特に火魔法はこの辺では練習できないですから」
皆さん納得した感じで考えている。
「ニーナは角ウサギの狩猟は出来てるよな。ゴブリンはもうやったか?」
「ゴブリンはまだです。角ウサギで何とかなっているのでもう少ししたらって考えてましたから」
「なるほど。ちょっと相談するから待っててくれるか」
「ならスライム達を一緒に遊ばせていてもいいですか?」
了承を貰えたので、広場の端っこなのをいいことに、小さい方の石タライを出して小さくなったみんなを水に入れて遊ばせてあげる。
うちの子たちも放水を使うのは止めているので、わたしが手で波を作ってプカプカ水に浮かんで遊んでいる。
スライム達を水遊びさせていると、相談が終わったのかダンさん達がこちらに来てくれた。
「なんかムムの楽しいって感じが伝わってくるんだけど、何してるんだ?」
「水遊びですよ。なんかスライムは水を好むみたいですよ」
「そうなのか。遊んでくれてありがとうな。で、練習場所なんだがな、ニーナが俺たちを信用してくれるなら少し遠出しないか?」
「信用してますけど、遠出ですか?」
「ああ、南の隣街にダンジョンがあるからそこなら魔法の練習に丁度いいんじゃないかと思ってな」
「ダンジョンは凄く興味を惹かれるけど、ダンさん達には何の利点も無いんじゃな……」
「スライムに関してニーナが分かっていることを教えてもらえないか。それが対価だ」
「それなら……。わかりました。私が知ってるスライム情報を教えますし、ルル達にムム達の先生になるように伝えますね」
「逆に俺たちが貰いすぎになりそうな気もするが、じゃあダンジョンに行くでいいな」
それから街を出る日付や用意した方がいい物の話しになった。
・3日後の夜明け位に南門集合
・毛布
・雨除けマント
・食料は自分で管理
・走る速度にもよるけど、多分途中で野営が必要
・ダンジョンには最初は3日、1日お休みして様子を見て大丈夫そうならその後また3日潜る
細かいことは移動しながら決める事にして、出発までに最低限の準備はしておくように言われた。
ダンさん達も宿に戻るので、スライム達と石タライにクリーンをかけて片付けする。
お休みなさいを言いながら別れて、宿泊所へ戻る。
もう一度クリーンをかけてベッドに入る。
明日と明後日で色々準備しなくちゃ。
「明日は最初に必要な買い物をしてから、角ウサギ狩猟と野良スライム狩り時間あったら特訓にしよう。明日も同じくらいに起こしてね」
明日の目覚ましをお願いして、お休みなさいを言いあって目を閉じる。
買い物早く終わるといいな。
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