第2話 街へ
気が付くと森との境目に立っていた。
とりあえず、どう考えても森は安全に思えなかったから森を背にして歩き出す。
歩きながら手に持っていた手紙を開いて読み始めた。
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無事の転移をお祝い申し上げます。
先程もお伝えいたしましたが、手紙にもしたためさせていただきます。
使命などはございません。ただ自由にこの世界をお楽しみください。
転移後のお体は、10才から16才でランダム設定でご用意いたしました。
周りと違和感が無いように、色彩や顔だちを調整済みです。
また、以前の母国語と現地の言葉を入れ替えております。
意識せずに現地の言葉を理解して生活できますのでご安心ください。
文末にお体の年齢と買い物結果の能力を記載いたします。
また、丈夫な服と3日間の生活費を贈らせていただいています。
新しい世界での生活の門出にご利用ください。
最後になりますが、これは現実です。
お腹も空きますし、怪我をすれば痛いです。
死んだら復活などできません。
周りの人たちは同じように生きている人です。
どうぞお忘れなきようお願いいたします。
転移直後は日の出の時刻です。
少しでも早く街にたどり着けることをお祈りいたします。
10才 女
アイテムボックス(特大 時間停止)
鑑定 Lv.2
水魔法 Lv.3
光魔法 Lv.3
火魔法 Lv.1
土魔法 Lv.1
風魔法 Lv.1
基礎魔法
掃除 Lv.MAX
調理 Lv.MAX
裁縫 Lv.MAX
ステルス Lv.2
サーチ Lv.3
テイム(スライム)
剣術 Lv.1
冒険者の基礎知識
追伸
ここまで読んでくださった方に朗報です。
転移後の1カ月は努力すれば身に着くスキルが通常より取得しやすくなっております。
ぜひこのチャンスタイムをご活用ください。
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思わず歩くのを止めて読んでしまった。
「まじか……」
思わずつぶやいてしまった。
何だろう、戦うメイドさんが出来そうな能力になってしまった。
そして、文末と言いながら能力結果の後に、しかも手紙の一番下で小さい文字で追伸を記載って……。
とりあえず、歩きながらできる能力の確認をしていくことにした。
まずは安全を確認するためにサーチの能力の確認をしていく。
「どうやるんだろう?とりあえず、言葉に出してみる?サーチ」
何も変化を感じなかった。
「ただ言葉にするだけでは駄目みたいね。使用することを意識して、≪サーチ≫」
途端に半径100メートル程の範囲の様子がなんとなくわかるようになった。
気持ち悪いことに、最初っから使い慣れているかのような感覚を覚えてしまう。
範囲内の反応で危険と危険個所などの違いが分かる。
「気持ち悪いけど、ありがたい能力ね。特に疲れるようでもないからこのままサーチしたまま歩こう」
とりあえず、危険な反応はなさそうで安心した。
「次はステルスをやってみよう。考えている通りなら、気配を消しつつサーチで危険を回避すればより安全だよね」
サーチをした時と同じようにと意識して≪ステルス≫って唱えた。
何か変わった気がするけど、自分では明確にはわからない。
ステルスを意識して≪ステルス解除≫を唱えてみた。
ステルスを唱える前の感覚に戻ったことから、成功しているとみなした。
「ステルスも疲れるまでは使ったまま歩こう≪ステルス≫」
少し先程と違う感覚だけど、別にそこまで気にならずに歩けるのでそのまま歩き続ける。
「あと、歩きながら確認できるのは鑑定とアイテムボックスかな。≪鑑定≫」
足元にある草を鑑定してみた。
雑草
食用可
苦い
視界の隅に半透明なパソコンのウィンドウみたいなのが浮かんだ。
「本当に鑑定した……」
独り言が多くなってしまっているが、気にしない。
触っても安全そうなので、雑草をちぎった。
手に持った雑草を、サーチをした時と同じように。
でも声に出さずに≪アイテムボックス≫って意識した。
何も入ってないことが理解できた。
どうやらアイテムボックスに入れるには、間違っていたみたいだ。
今度は≪収納≫って意識してみる。
手の中にあった雑草が消えた。
「……」
もはや独り言も出ない。
今度は≪アイテムボックス≫を意識する。
雑草が1個入っているのが分かる。
「出し方は?」
収納を意識すればアイテムボックスに入れることが出来たんだから、今度は出すことを意識すればいいはずだ。
≪雑草 1個≫を意識したら手の平に出てきた。
「よかった取り出せた」
また雑草を収納して、すこし先にある岩の上に出すことを意識して取り出してみる。
「成功したよ。出す先をきちんと意識すれば、離れたところにも取り出せるんだ」
これはとてもいい能力をもらえた。
他のものも鑑定してみたくて、他の草を鑑定してみた。
薬草 体力草
食用可
体力回復効果がある。
ポーションの材料の1つ。
薬草だったので、採取したかったけどナイフも持ってないので無駄にしてしまう可能性が高いと冒険者の基礎知識が伝えてくる。
(残念。無駄にしてしまうのはもったいないから採取は諦めよう)
能力確認はこれくらいにして、歩かなきゃいけない。
日が暮れるまでに街にたどり着かなきゃ、転移一日目で死亡してしまう。
冒険者の基礎知識を確認しながら、街に入るための言い訳を考え始める。
10才の子どもが一人で、かつ荷物を持たずに旅をすることはほぼ常識外だろう。
だから、1人でいる理由が必要だ。
「でも、まずは歩かなきゃ」
サーチで安全を確認しながら、サーチで確認した敵対反応ではない恐らく人が通っている場所を目指して歩き続けた。
体感時間で30分程歩いた所で道に出た。
道に出る前にサーチで右の方から結構大勢の人が左に向かって進んでいるのを感じていた。
夜に旅をする人は少ないだろうから、右の方に街などの人が生活している場所があると思う。
一種の賭けだが、右の方に向かって歩き出した。
途中何度も転んだりしたけど、服は破けたりしなかった。
「さすが丈夫な服」
ちょっと汚れたりしたけど、荷物もなく歩いているのにきれいなままなのは違和感を感じるのでそのままにしておく。
「1人な理由は嘘つかないようにしよう。嘘を判断できるスキルがあるかもしれないし。気が付いたら森の境目に居た。お父さんお母さんとはもう会えない。これだけにしておこう」
ちょっと疲れてきたので、サーチとステルスを解除、少し進んだらサーチで確認する方法に切り替える。
何度目かのサーチでたくさんの人を感知した。
「よかった。人が居る」
街らしき気配を感じて安心したらのどの渇きを自覚した。
基礎知識のおかげか基礎魔法の水は飲めることが分かったので、手の平に意識して水が溜まることを想像した。
必死だったから手の平からこぼれるくらい水が出てしまったが飲むことが出来た。
「美味しい。基礎魔法の試しにもなったし、早いところ街に入ろう」
思わず笑顔になった。
まだ太陽は頂点にはなっていない。
今日中にやることはたくさんある。
ギルドに登録して、宿を借りて必要なものを揃える。
明日には依頼を受けてお金を稼がなきゃいけない。
気合を入れて街に向かって歩き出した。
やっと街の入り口にたどり着いた。
午前中だからか入り口に並んでいる列は短い。
周りに見られながらも同じように列に並んだ。
冒険者の基礎知識のおかげで、街に入るにはギルドカードがなければ入場料が必要なことが分かる。
だんだん列が進み、自分の番がきた。
「ギルドカードか住民票を見せてください」
思ったより丁寧に兵士の方が聞いてきた。
「ギルドカードも住民票もありません。ギルドに登録しようと思っています」
基礎知識ではこんな答えでいいはずだ。
内心とても怯えながら子どもらしく答えた。
「では、こちらで少し話をさせてください」
兵士さんに奥のテーブルの方に誘導されてしまった。
(何かまずかったのかな。)
怯えたのが伝わっってしまったのか、
「入場料と理由をもう一度聞くためですよ」
って安心させるように笑いながら落ち着かせてくれた。
(でも怖い)
連れてきた兵士さんは机に座ってた人に何かを伝えて、ニコって笑って門のところに戻っていった。
「何度も済まないけど、ギルドカードや住民票はないんだね」
こちらの兵士さんも丁寧に聞いてくれた。
「はい。持ってないです。ギルドに登録しようと思っています」
先程と同じことを答える。
兵士さんは何か考えながら、
「1人で来たの?保護者は?あと荷物はどうしたの?」
って聞かれると思っていたことを聞いてきた。
あらかじめ決めていたことを話す。
「荷物は無いです。気が付いたら森の裾に居て。危険だと思って歩いて移動してこの街にたどり着きました。お父さんとお母さん……もう会えない」
そこまで話したら涙が出てきて話せなくなってしまった。
自分でもびっくりしたけど、確かにもう会えない。
そう自覚したら涙が止められなくなってしまった。
「そうなんだ。どうして森の裾に居たかわかる?」
優しく聞かれたけど、「わからない」と泣きながら答える事しかできなかった。
「街に入れませんか?」
って聞いたら、
「大丈夫。嘘じゃないことが確認できたし犯罪歴もないから街に入れるよ。100ルー持ってるかな?」
ポケットから1,000ルーコインを出す。
兵士さんは黙って受け取ってくれた。
机の中を探して、小さな巾着に100ルーコインを9枚入れてくれた。
「これが入場証、初めてのギルド登録の時に必要だからなくさないようにね。あと、ポケットに入れているのは掏りにあうから危ないよ。鞄かアイテムボックスがあるならしまっておきなさい」
顔を見上げると、内緒ってウインクしながら巾着を渡してくれた。
「ありがとうございます」
まだ涙が出てくる目をこすってお礼を言った。
ギルドの場所も丁寧に教えてくれて、門を入ることが出来た。
異世界初めての街に無事に入ることが出来た。
嬉しさと安心さからまた泣きそうになったのを走ることでごまかした。