第12話 角ウサギ狩猟
今日もポヨポヨとした感触で目を覚ます。
いや、昨日よりもポヨポヨした感触が増えている。
ちゃんとルルとマリンで起こしてくれたみたいだ。
「おはよう」
""マスター おはよう""
挨拶を交わした後は、体力づくりをするために広場に移動した。
広場には昨日と同じように数人の人が既に運動していた。
邪魔にならない場所に移動して、まずは普通に魔力の流れを早くした状態でランニングをする。
ランニングをした後に、身体強化をしてランニングをする予定だ。
ランニングをしていると、昨日教えてくれたジョンさんが広場に入ってきた。
お礼を言いにジョンさんに近づいていく。
気が付いていたみたいで、先に挨拶されてしまった。
「おはようございます。昨日いただいたアドバイスのおかげで身体強化が出来ました」
「もうできたのか。ニーナ凄いな。一応身体強化をやってみろよ。成功しているか見てやるから」
ありがたい提案をいただいたので、遠慮なく確認してもらうために身体強化を行う。
「どうでしょう?これで跳躍力やスピードも増したんですけど」
ジョンさんは私をしっかりと観察したようだ。
「ちゃんと出来てんじゃん。あとは慣れて出来る時間を長くしていくだけだな」
お墨付きを貰えて、ちょっとほっとした。
改めてお礼を伝えた後、部屋に戻って朝食にした。
今日は初めての角ウサギ狩猟の予定なので、早めに薬草採取を終わらせるためにいつもより早く出発する。
今日も延泊の手続きをしてカギを失くさないようにアイテムボックスにしまっておく。
これで今日も宿の確保は出来たので、そこは安心して採取に行ける。
街道に出てから、魔力の流れを早くして持久力を上げた状態で小走りで移動をする。
いつもより短時間で普段の薬草採取する場所付近までこれたが、疲労度はいつもと変わらないみたいだ。
(今度から魔力の流れを早くして小走りで移動しよう)
いつもの準備をして、薬草を採取する。
今日は15束集まった時に終了して、角ウサギ狩猟に切り替える予定だ。
薬草採取も慣れてきたのか、比較的短時間で15束集めることが出来た。
ちょっと早い時間だけど、お昼を食べるのでルルとマリンには周りで食事にしてもらう。
食べ終わったらいよいよ角ウサギだ。
これが狩猟できるようになれば1日で2頭狩猟すれば薬草より稼げる。
角ウサギは数はいるけど、比較的森に近い位置とはいえ草原全体に広がっているので見つけるのに苦労するらしい。
でも、私にはサーチがあるので見つけることは苦労しないはず。
充実した生活のために、何としても狩猟できるようにならなければ……。
考えている間に食べ終わったので、片付けているとルルとマリンも食べ終わったのか戻ってきた。
今までで一番緊張しているけど、ルルとマリンを撫でて気持ちを落ち着かせる。
サーチをして、スライムよりちょっと危険度が大きい反応のところに注意しながら進む。
当然、魔力の流れは速くしてステルスもしっかりかけて反射バリアもばっちりだ。
角ウサギと推測する反応にゆっくり近づいて視認できるところまで移動する。
前の世界で見たウサギよりも心なしか大きい気がする。
角も想像よりも怖いが、念のため鑑定してみる。
角ウサギ
角の生えたウサギ
食用可
角は武器素材になる
角ウサギの顔がこちらを向いたので、最初は魔法で仕留めようと思う。
イメージはウサギの口を起点として水の球を半径50cmで作成する。
たとえ角ウサギが動いても水の球の起点を口にしているので、水の球も同時に移動するイメージだ。
最初なので、小声で声に出して魔法を発動させる。
「角ウサギの口を起点に50cmの水の球。移動しようと張り付く。≪水球≫」
イメージ通りに魔法は発動した。
(角ウサギが呼吸をしているのなら、この魔法で狩猟できるはず)
水球を外そうともがいている角ウサギを安全な位置から観察する。
徐々に動かなくなっていく角ウサギ。
いかにもモンスターというスライム以外の命を奪ったことない自分がはじめて奪う命。
こころしてみなければならない。
……動かなくなった。
慎重に近づいて、ナイフでつついてみる。
どうやら確実に仕留められたようだ。
後は血抜きをした方がお肉が美味しくなるって聞いたことがある。
普通にやれば枝にぶら下げたりするんだろうけど、テイムした時から考えていたことを試してみたかった。
水球を解除して、角ウサギの口の中をナイフで少し傷をつける。
「ルルとマリン、この傷から角ウサギの血を全部抜き取れる?」
"血を抜く?"
「ええとね、この赤いのが血ね、この血が血管っていう管の中を流れているの。それをルルとマリンで吸い出すことが出来るかなって思って」
ルルが理解できるように出来るだけ具体的に説明をした。
"ルルがやってみる"
マリンはまだ理解しきれていないみたいで、ルルが試すのを名乗り出てくれた。
角ウサギの口の中に触手を差し込んで少しして、ルルの触手の先が赤くなっては消えていくってことを繰り返した。
"たぶん全部吸ったよ"
「ありがとう。ルルは血を吸う事でなにか調子悪いとかない?」
今まで食べさせていなかった魔獣の血をいきなり吸ったので、影響ないはずだけど心配してつい聞いてしまった。
"全然大丈夫。またやりたい"
ルルは機嫌よさげにプニプニ揺れている。
「良かった。やり方をマリンにも教えてくれてもいいかな?次はマリンもやりたいだろうし」
"はーい"
ルルがマリンのところに行くのをなんとなく見て、角ウサギを収納していなかったことを思い出した。
そのまま収納してもいいのだけど、角ウサギにクリーンをかけて綺麗にしてから収納した。
建前は綺麗な方が買い取り金額高くなるかもしれないだが、本音は汚れているまま収納したくなかった。
「よし、次に行こう」
ルルとマリンが肩に飛び乗る。
バリアの強度を知るために、次はバリアをいつもより範囲を大きくして角ウサギに攻撃させてみるつもりだ。
勿論危険なので範囲を広くすることでバリアが破られても対応できるように対策をとって行う。
一度角ウサギを認識したので、サーチで角ウサギが分かるようになるのがありがたい。
ラッキーなことに次の角ウサギは比較的近くにいるようだ。
普段自分の50cmくらいのところに身体に沿わすようにバリアを張っているが、今回は2mのところに張って実験する。
角ウサギに3mほど離れたところに身をひそめる。
小さな小石を拾って角ウサギに向かって投げる。
角ウサギがこちらに気が付いて、突進してくる。
鋭そうな角がこちらにめがけて突進してくるのは恐怖でしかないが、目をそらすわけにはいかない。
ナイフに氷の刃をまとわせて構えながら待ち構える。
突進してくる角ウサギが、逆方向にポーンと跳ね返された。
バリアにはダメージが入っていない。
バリアは角ウサギの突進にも耐えられることが証明された。
(これで、草原での安全がかなり高くなった)
気を抜かずに目を回している角ウサギの口を起点に水球を発動する。
目を回していたからか、暴れることなく狩猟出来た。
先程と同じように口の中に傷をつけて、今度はマリンに血抜きをお願いする。
血抜き後にクリーンをかけて収納する。
太陽を見るとまだ時間があるし、まだ疲労感はそんなにない。
慎重にいかないといけないが、あと1体くらいなら問題なさそうだ。
サーチで森から離れたところにいる角ウサギを探す。
2体の角ウサギが居たので、そこに向かう。
バリアで防いでいる間に1体を狩猟して、もう1体がまだいるようならそれも狩猟する。
そう決めて、ステルスとバリアをしっかりおこなって移動する。
移動途中であらためてバリアのありがたさを感じていた。
何がすごいって攻撃を防げるのは勿論だが、虫を入ってこさせないのが助かる。
バリアを使用するまでは、虫が本当に嫌だったから。
どこにでもいるから気にしないようにしていたけど、辛かった。
バリア張れるようになって本当に良かった。
虫が寄ってこないことに感謝をしながら歩いていると、角ウサギのところに着いた。
移動中に1体だけになっていることを期待していたけど、やはり2体いる。
バリアは当然張っている。失敗したとしても攻撃を受けることは恐らくない。
(水球を2体の口に同時に発動したら2体でも倒せないだろうか)
既に戦闘状態では無理だけど、今はまだ見つかっていない。
先程考えた1体ずつとは作戦が違うけど、戦闘で魔法を2か所同時に発動できるのは今後大きい意味を持つと思い作戦を変更することにした。
1体はこちらを向いているので口元を起点にできるが、もう1体は向こうを向いている。
少し考えて、こちらを向いているのは先程と同じ口元起点で半径30cmの水球を、向こうを向いている1体には頭部が見えるので、頭部を起点に50cmの水球を起動することにする。
"ルル、マリン、今回は2体同時に魔法をかけるね。上手くいったら血抜きをよろしく"
落ち着くためにもルルとマリンに念話で声をかける。
(右の1体は口元起点で半径30cm、左の1体は頭部起点の半径50cmで≪水球≫)
右の半径を30cmと思っていたのに次に考えた半径50cmにつられたのか、半径30cmより大きくなっているが無事水球は発動された。
2体は水を振り払おうと暴れているが、ちゃんと水球はくっついたままだ。
ステルスで気配を消しながら完全に動かなくなるのを待つ。
少し近づいて石を投げて動かないことを確認する。
(そういえば倒した後は鑑定していない)
倒した後には鑑定していない事に気が付いたので、鑑定してみる。
角ウサギ(死)
角の生えたウサギ
食用可
角は武器素材になる
鑑定にちょっと変化が出ていて、無事倒しきれていることが分かった。
口の中を傷つけて、ルルとマリンがそれぞれの血抜きをしてくれている。
血抜きが終わったのをついでに鑑定してみた。
角ウサギ(死、完全に血抜き済み)
角の生えたウサギ
食用可
角は武器素材になる
血抜きの状態もいいみたいだ。
(これで買い取り金額上がるといいな)
無事2体ともクリーンをかけて収納する。
ルルとマリンを抱きしめて感謝をして、街に戻ることにする。
直接戦闘はしていないけど、鑑定をかける事すら気付かない状態では自分の疲労状態も見誤るだろうし4体狩猟出来たので今回は十分の稼ぎになるからだ。
(今回は角ウサギを2体だけ買取に出そう。アイテムボックスは時間停止だから悪くならないし)
買取に出す内容を考えながら、街に向けて歩き出した。
無事にギルドに戻って、買い取りカウンターに角ウサギ2体と伝えた。
「2体ならここに出していいですよ」
2体をカウンターの上に出す。
職員さんが何やら色々確認して、紙に書いている。
「お待たせいたしました。皮に傷もなく大きさも問題ありません。また血抜きもしっかりされているのが確認できましたので、1体600ルーで1200ルーで買い取りでよろしいでしょうか?」
「解体手数料とかは必要ですか?」
「丸ごと買取の場合は、金額に解体手数料が込められています。ただ、角や肉をご自分に欲しい場合は部位ごとの買取になりますので、別途解体手数料が発生します。ですので、解体して持ち込むともう少し買い取り金額が上がります」
解体手数料も問題ないのでうなずくとカウンター上のトレイにお金を出してくれた。
お礼を言ってお金を受け取り、2階の食堂に移動する。
(一日で1200ルー稼げた。これなら余裕をもって冬貯金出来るし着替えも買える)
贅沢をするのはまだ早い。
ダンさんのおかげでお肉もあるし、お菓子も持っている。
今度の仕事をセーブするときにお菓子を食べようと決めているんだから。
いつものスープとパンを注文して、3等分にして収納する。
特に知り合いもいなかったので、宿泊所に移動する。
ベッドと自分たちにクリーンをかけて布団に入っちゃう。
「ルルとマリンはお腹空いてない?」
"大丈夫"
"角ウサギの血を消化したから。何日か食べなくても。大丈夫"
ルルのおしゃべりが大分進化している。
「お腹すいたら教えてね。草を薬草採取の時に集めてあるから」
""ありがとう マスター""
緊張状態で魔法を使用したし、ベッドにはいって安心したので眠気が襲ってきた。
「さて、明日も今日と同じくらいに起こしてくれる?」
"マリンも起こす"
"もちろんマスター。もう寝るの?"
「うん。眠くなっちゃった。お休みなさい」
""お休みなさい""
あっという間に眠りについてしまった。
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