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みちくさ

太陽光発電

作者: 斎木伯彦

 先月末、東京都の新築住宅に太陽光発電の設置を義務化する条例案について、パブリックコメントが設けられている旨を告知しました。

 あれから賛否両論を見比べていたのですが、反対派の論調が性能や環境への影響などではなく人権問題や貿易関係の話題に終始していて的外れな印象を受けました。一方の賛成派の論調はこの反対派の論調への反論といった体裁が多く、外国などの都合の良いデータを示しているだけで論破した気になっている浮ついた内容を見掛けたりもしました。

 その中で慎重論は私の意見に近かったように思います。

 慎重派の意見は、太陽光発電の設置義務化の前に、中古住宅への断熱・気密性の向上を補助する制度を確立して、エネルギー効率を上昇させる取り組みが先だという内容でした。伝統的な日本家屋は夏を過ごしやすくする工夫が主体で、風通しの良い間取りや家具を採用しています。例えば居間の横に縁側を設けて障子で仕切りを作りますが、夏場はこれらの仕切りを外して屋外から室内へ風を通すようになっています。冬場や雨の日は戸袋から雨戸を引き出して風を遮り、寒さを凌ごうとします。更に寒い地方の家の中央には囲炉裏が設けられ、暖房と調理を同時に行い効率的に室内を暖める工夫もされていました。

 伝統的な日本家屋で快適に過ごすには、現代の家電製品ではなく、伝統的な家具を用いる必要があります。ですので、伝統的な家具を用いない現代の住宅は伝統的な日本家屋の建築方法から逸脱したとしても何ら問題とはなりません。気密性や断熱性能を向上させて家電製品の効率化を図り、少ないエネルギーで大きな効果を得られるようにするのは省エネや省資源の方向性に合致するでしょう。

 そうした省エネ住宅の屋根には太陽光発電パネルがあっても良いと思います。しかし、これは年間を通して日照時間を確保でき、積雪量もほとんどない太平洋側での話です。

 賛成論者の中には北欧の事例を持ち出して太陽光発電パネルの普及を促す人もいるのですが、海外サイトによる世界の年間降雪量の堂々一位は青森市の792cmです。二位の札幌市で485cm、三位の富山市は363cmとなっており八位の秋田市以外は十位までをアメリカとカナダで占めています。気象庁の資料と食い違う数値もありますので、後書きに気象庁の資料を抜粋します。

 北欧の年間降雪量は少なく、気温が低いので凍結はしても積雪による発電阻害は我が国の豪雪地帯ほどではありません。また夏は白夜と呼ばれる太陽が沈まない期間もありますので、年間の太陽光発電量は多くなるでしょう。

 地理条件や気象条件の違う国や地域を持ち出して、「どこそこでは太陽光発電を採用しているから、我が国(地域)も遅れないように採用しよう」などという暴論には耳を貸す必要は全くありません。我が国の国土は東西南北に細長く、更には国土の中央に聳える山脈によって気候風土が同じ緯度でも全く違います。例えば都心部と同じ緯度(35度40分)付近の北陸地方の都市に、敦賀市という港町があります。戦国時代には大谷吉継が治めていた土地ですが、敦賀市の年間平均降雪量は224cm、都心部では11cmと、二十倍もの差があります。これだけの気象条件の差があって仮に東京都のように新築住宅への太陽光発電パネル設置義務化を導入となれば、頭がおかしいとしか言えません。むしろ同一都道府県内であっても地域によって大きく降雪量や降雨量が違う場合もありますので、統一した基準で設置義務化というのは不可能と言って過言ではありません。

 それと同じです。気象条件や地理条件が全く違う国や地域の例を持ち出して「設置義務化は国際社会の潮流」と嘯いたとしても、私には頭のおかしい戯言にしか見えないのです。確かに化石燃料の使用は抑制する必要がありますが、それを全て太陽光発電で賄う必要性はないのです。発電方法には他にも水力や原子力があります。江戸時代には各地に水車があったように、現代の我が国でも改良した水車による簡易発電所があって良いでしょう。昼間、晴れた日にしか最大効率の発電ができない太陽光発電よりも、年間を通じて一定水量のある河川に水車を設置して発電すれば、安定した電気が得られます。防災などの観点からすれば諸問題があるかもしれませんが、水力発電も持続可能な自然エネルギーとして活用できます。

 現在、生活排水を流す下水道と、雨水などを流す排水管は別系統で整備が進められています。道端に設置されている人孔マンホールの蓋を確認して下さい。雨水を流す排水管路には「うすい」「雨水」などと刻印があります。生活排水を流す下水道には「汚水」「汚」などの刻印がされ、双方を流す場合には「合流」と示されています。この内、雨水を流す排水管の末端合流部分に小型の水力発電を設置すれば、太陽光発電が機能しない雨の日でも発電量を補完できるかもしれません。

 我々日本人の悪い癖として一つの物事に集中してしまうきらいがありますが、太陽光発電に固執するのではなく、他の自然現象からも持続可能な発電が可能であれば、それらも同時に研究開発と普及を推進していくのが化石燃料に頼らない新しい時代の幕開けに近付くのではないでしょうか?

 そういう意味でも東京都の太陽光発電パネルの設置義務化条例案は、時期尚早として施行日を遠く設けるのが良いと思います。まずは中古住宅の断熱性能と気密性の向上を目的とした改修工事に補助金を出し、かつ高気密高断熱住宅への建て替え促進と太陽光発電パネルの設置に対する補助金支給などを組み合わせれば、遠からず都内の住宅事情は大きく変化するでしょう。

 そこに太陽光発電以外の自然現象を利用した発電方式が加われば、省エネは加速していくはずです。

 「濫觴」という言葉があります。これは物事の始まりを表現する言葉ですが、言及されているのは長江の源流です。長江のような大河川も元を辿れば盃すら浮かべることができない小さな流れに過ぎないということです。しかし長江はその微々たる流れが集まって、ついには対岸すらも見えない大きな流れとなっています。自然現象を用いた発電量は微々たるものでしかありませんが、それが幾つも集まれば大きな発電量となるでしょう。同じように個人の力は小さいものですが、個人が集まり集団となることで大きな力を発揮できます。歴史を紐解けば、我々日本国民は団結して大きな力を発揮して来ました。「天の時、地の利、人の和」の三つが揃うと不可能も可能になると言われます。しかしこの三つの内、決して失ってはならないのが「人の和」です。我が国の古称が「大和」であるのは、先人たちが決して人の和を失わないようにと願いを込めていたのかもしれません。

 そうした人の和を乱す存在を排除して来たのは、我々日本国民が未来永劫に亘って繁栄する為の知恵でしょう。賛否両論、堂々と意見を戦わせてより良い意見が産まれることを願います。

◆資料

日本国内の年間平均降雪量|(観測地点)の抜粋・出典は気象庁


 都心 11cm


北海道

 札幌   597cm

 旭川   743cm

 小樽   676cm

 稚内   656cm

 根室   221cm

 釧路   162cm

 帯広   201cm

 室蘭   211cm

 函館   381cm

 幌加内 1348cm


青森県

 青森 669cm

 むつ 514cm

 八戸 248cm

 なお青森県内の最大積雪深を記録する酸ヶ湯は欠測


秋田県

 秋田 377cm


岩手県

 盛岡  272cm

 宮古  148cm

 湯田 1055cm

 大船渡  69cm


山形県

 山形  426cm

 新庄  817cm

 酒田  321cm

 肘折 1635cm


宮城県

 仙台 71cm

 石巻 54cm


福島県

 福島   189cm

 若松   478cm

 白河   161cm

 檜枝岐 1247cm


茨城県

 水戸  16cm

 つくば 14cm


栃木県

 宇都宮  28cm

 奥日光 451cm


群馬県

  前橋   24cm

 みなかみ 929cm

  草津  638cm

  藤原 1180cm


新潟県

 新潟   217cm

 長岡   595cm

 十日町 1169cm

 湯沢  1180cm

 津南  1349cm

 高田   635cm


富山県

 富山 383cm

 伏木 341cm


石川県

 金沢 281cm

 輪島 201cm

 吉野 588cm


福井県

 福井 286cm

 大野 502cm

 敦賀 224cm


埼玉県

 秩父 67cm

 熊谷 22cm


山梨県

 甲府   29cm

 河口湖 103cm


長野県

  長野   263cm

 軽井沢   136cm

  松本    80cm

  白馬   668cm

 野沢温泉 1177cm


岐阜県

 岐阜   47cm

 高山  473cm

 白川 1055cm


滋賀県

 今津  291cm

 彦根  104cm

 米原  213cm

 柳ヶ瀬 572cm

 なお最大降雪量の世界一を誇る伊吹山は欠測


京都府

 京都  19cm

 舞鶴 206cm


兵庫県

 神戸   2cm

 豊岡 312cm


鳥取県

 鳥取 214cm

 米子 133cm


島根県

 松江 88cm

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