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第一話 日常の崩壊

 ありふれた日常は突然崩れ去る。


 最初その言葉を聞いたのは歴史の授業中だった。戦争の映像を背景に、歴史の先生が重苦しい表情で語っていたのを今でも思い出す。戦争、疫病、災害。日常というモノは案外脆弱なものであり、ふとしたきっかけで消えてしまうものであると。先生は言った。「今ある日常はとても大切なものなのだから、それを守りなさい」と。



 正直俺は日常なんてクソくらえと思っていた。日々生きていることに意味なんて感じないし、ただ周りに流されながら大学に進学し、周りの目を伺いながら就職して、そのまま特になんの意味も無く死んでいくだけの人生。そんな日常なんてまっぴらごめんだし、そんな世の中は間違っている。そう思っていた。



 今なら言える。先生、あなたは正しかった。日常というものはあっさりと喪失しうるもので、失ってから初めてその価値が分かるんだ。



 これは俺が日常を消失するお話。非日常の先に望んだ未来はあったのか。そんなお話。



 ……


 話を始まりの時に戻そう。あの日はそう、忘れもしない、とんでもない暑さの日のことだった。俺はいつも通り、教室の自分の席で本を読んでいた。教室の中はクーラーが効いていてそれほど暑くはなかったが、窓から差す太陽光が刃物のように俺の腕を焼き焦がしていた。


 「よう佐藤。また読書か?」


 後ろから急に声をかけられたので少し驚いた。中瀬だった。中瀬智也なかせともや。俺の数少ない友人であり話し相手だ。(とは言ってもほとんどあちらが一方的に話すので、俺は聞く側にまわることが多いのだが)


 「おはよう中瀬。珍しく今日は早いな。いつもは遅刻ギリギリのくせに」


 「ほら、これだよこれ。これを学校に忘れたから。早く来て書かなきゃいけなくてさ」


 中瀬は屈託のない笑顔をしながら、俺の顔の前でプリントをヒラヒラとさせる。それは進学希望先を記入して提出するために配られたプリントだった



 「進学希望調査」。あまり見聞きしたくはない響きの言葉。「進学」という言葉も「希望」という言葉も好きではない。そして数学ではないのでマイナスにいくらマイナスを掛けたとしてもプラスにはならない。



 「なあ佐藤。お前、どこが第一志望? やっぱ国立にした?」


 中瀬はためらいもなく聞いてくる。相手の懐をすぐに知ろうとするところは中瀬の良い所でもあり悪い所でもある。正直、進学先について話したくもなかったので適当にごまかすことにしよう。




 「それだけど、俺は…。」




 口を開くと同時に俺は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。返答をためらったからではない。脳が理解するよりも先に体が「異変」に気付いたのだ。


 「なんだ…、これ…」 


 そう口に出したのは俺だったのか、中瀬だったのか、それともまた別の誰かだったか。もしかしたら全員が口をそろえてそう言っていたのかもしれない。しかしそんなことは、この状況において些細なことだった。




 俺たちは「暗闇の中に居た」。




 「暗闇」の中。不思議なことに真っ暗な世界に居るはずの俺たちはお互いの姿を認識することができた。6,7人くらいだろうか。先ほどまで教室で談笑していたはずの生徒たちが口をぱくぱくとさせながら周りをきょろきょろと見まわしている。


 「ちょっとこれ…いったいどういうことなのよ!」


 斜め前の方で(といっても方向感覚もあいまいだが)、女子の悲鳴にも近い怒号が響き渡る。生徒会長の相沢さんだ。彼女がこんなに声を荒げているのは初めて見たかもしれない。


 「携帯、携帯は何処だ!?」


 今度は後ろで誰かが話している。


 そうか携帯か。とりあえず確認だ、ラインで他の友達と連絡が取るべきだ。俺はポケットから携帯を取り出しホームボタンを押した。



 …もう一度ホームボタンを押した。画面は表示されない。



 …もう一度ホームボタンを押した。黒い画面が固まってた表情の俺の顔を映し出している。



 …電源ボタンを長押しした。…もしかしたら俺の携帯は壊れてしまったのかもしれない。



 「くそっ!!」


 怒号。どうやら誰かが携帯を地面に投げ捨てたようだ。携帯が使えないのはどうやら俺だけではないようだ。


 「おいおい、皆落ち着けって。こういう時はパニックになるのが一番危ないんだ。

  一度みんなで今までのことを整理しよう。」


 中瀬だ。こういう時にこいつは頼りになる。みんなが中瀬の方向を向く。普段からリーダーシップを取る奴だったからみんなも中瀬の言葉に耳を傾けることにしたようだ。


 「まず状況の整理だ。俺たちは今暗闇の中に居る。携帯は通じない。今ここにいるメンバーは全員教室にいた人たちだ。俺が思うにはだな…」


 中瀬の言葉を最後まで聞くことはできなかった。突如として現れた黒い触手が中瀬の体を包み込んだ。一瞬の出来事だった。俺らはそれをただ見る事しかできなかった。


 「んんんんんんんっ!!!!んんっ!!んーーー!!」


 暴れる中瀬を黒い触手が包み込み…そして…消えた。


 一瞬の静寂が流れる。


 「きゃあああああっ!!!!!」 

 

 相沢さんの悲鳴だった。その悲鳴で俺は我に返った。


 逃げなければいけない。ここは危険だ。逃げなければ…。でもどこに…?


 とりあえず俺は中瀬と反対方向に走りだした。何も考えていなかった。ただひたすらに怖くて、逃げ出すことしか考えていなかった。


 どんっ!


 激しい衝撃が頭を襲った。殴られたのか?そう思った。だけど違った。俺は転んだだけだった。


 その足には…黒い触手が巻き付いていた。


 「っっ!!!」


 声にならない悲鳴。わしゃわしゃとした感触の触手が体に巻き付いてくるのを感じる。俺は体の全身から鳥肌が立つのを感じた。怖い…。だれか助けてくれ。


 そして触手は俺の顔にまで到達した。目を触手が覆う。完全な暗闇だ。何も見えない、わからない。ふといろいろなことを思い出した。これが走馬灯というものなのかもしれない。



 俺の記憶の教室の中で。俺の記憶の授業中に。俺の記憶の中の先生は言った。



 

 「ありふれた日常は、突然崩れ去ってしまうものなのです。」








―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「…8人の転送を確認しました。直ちにスキル付与の段階に移りますか?」


 暗い部屋のなか、男が尋ねる。


 「そうだな。そうしよう。善は急げというしな。転送費用もバカにならない。今回こそまともな人材がいることを願うよ。ふふっ。」


 小柄な女が答える。


 暗い部屋でただ青白い光が二人の顔を怪しく照らし出していた。










はじめまして。Hiropanという者です。

小説を書くのは初めてでなかなか緊張しておりますが、良い作品が作れたらなと思います。

誤字脱字の指摘、感想など是非とも待っております。

何卒よろしくお願い致します。

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