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最終話.ハヤトとローザ

 がやがやと人の声がしていた。涼しい風が吹き込んでいる。


 だんだんと浮かび上がりつつある意識。ぼんやりと、二人仲良く草原を歩く姿が見えたような気がした。二人は手を結びながらいつまでも、いつまでも、歩き続けていた。


 意識がさめていくにつれ、それが幻影であることがわかった。また俺はベッドに寝かされているんだな、とそんな勘が働いた。


 その勘はまさに大当たりだった。ハヤトが目を開けると、木製の天井が見えた。ここはどこだろうか。俺は死んだのだろうか。輪廻転生したのだろうか。ハヤトが目を開けたときに考えていたのはそんなことだった。


「ハヤトさん?」


 俺を呼ぶ声がする。それは一瞬、口調からしてクリスティーナかとびくりとしてしまったが、その優しい鈴のような声はクリスティーナのものではなかった。


 その声にこたえるように視線をそちらへ向けると、そこにいたのはローザだった。


 ハヤトはばね仕掛けの人形のようにがばっと起き上がり、ローザの両肩をつかんで揺さぶった。


「お前、生きていたのか!?」


 ハヤトはローザの目を見つめた。


「お前、生きてたのかって、そのセリフはこっちのもんだっつーの」


 そういうのは奇抜な色のツインテールのアカリだった。


「四日も眠りっぱなしで、よく生きてるもんだよなー」


「本当だぞ、ハヤト!」


 といって大声で言うのはシンだ。どうやらオースティンとソファーに座り込んで話し合っていたらしい。そのオースティンもこちらを見てびっくりしたような目をしていた。




 外から鳥のなく声がする。この世界はもう昼になったんだな。ハヤトは一人だけ平和ボケしたようなことを考えていた。


「ハヤトさん……」


 そういいながらハヤトの腕にあつい目頭をあてるローザ。


 俺はローザが生きていることが自分が生きていることよりも驚きなんだがな、とハヤトは思いながら、ローザの背中をさすった。




 どうやら元の世界に戻ってこられたんだな、よもや死のバスに乗った先じゃあるまいな。それだったらもう何発かクリストファーをぶん殴る必要がある。




「一体俺はどうなったんだ? ここはどこだ?」


「ここは元クリスティーナさんの酒場の二階の応接間です。ハヤトさんがゲームが終わるときに倒れられて、それでみんなで必死に介抱して、なじみのあるこの場所まで運んだのです」


 そりゃ大変だっただろうな、とハヤトは思いながら、当然と思える質問をする。


「俺は倒れている間、ずっとここにいたのか? ここっていうのはつまり、えーとだな」ハヤトは頭の中で起こったことを整理しながら話す。「この世界だ」


「この世界、ですか?」


 ローザは心底不思議そうな顔をする。ハヤトはその顔を見て、ああ、あの出来事は白昼夢のようなものだったんだろうかとさえ思った。


 だがあの出来事は本物だろう。現実世界へ行ったこと。さらにそこでこのゲームの支配人と出会い、そして戦ったこと。そして自分が死んだこと。そのすべてがついさっきのことのように頭の中に映像が浮かび上がる。間違いない。あの出来事は本物だ。


 妙なことではあるが、このゲームの世界にも俺はいて、魂だけがなかった状態なんだろう。


「お前ら、よく俺の看病なんかしたな。みんなめいめいのことをしていてくれてよかったのに」


 といい、部屋にいる四人に目を配る。ローザ、アカリ、シンにオースティン。みんな本当に心配してくれてたんだなと思う。




「なあに言ってんだ。たまたま今日の見舞いの時間に集まっただけだっつーの」とアカリ。


「アカリさん!」ローザが叫ぶ。


「へーんだ」


 ハヤトは思わず失笑した。



 ローザは再びハヤトの方を向き、いかにも心配そうに声をかける。


「ハヤトさん、お怪我は大丈夫なのですか?」


「ああ」あっちで負ったけがの方がひどいからな、と言いかけて口をつぐんだ。話がややこしくなるから、この話はまた後ですることにしよう。


「それはよかった。私、心配で心配で。ずっとそばにいたんですよ」


「そうか。そのおかげかもしれないな」


「何がですか?」


 ローザはきょとんとした。


「いいや、なんでもない。こっちの話だ」とハヤトはおどけて見せた。


 その話を聞いていたシンがソファーから立ち上がり、


「どうやら元気になったみたいだな」と言う。「じゃああの剣技でももう一回見せてもらおうかな?」


「勘弁してくれ」


「冗談だよ」


 といってシンは軽やかに笑った。


「おっ、まじめなシンが冗談を言うなんて珍しいこともあるもんだなー」とアカリが言うので、


「俺だって冗談くらい言うさ」と反撃する。


「でも、お兄様がご無事で私は何よりです」


 ハヤトは気になっていたことを言う。やっとお兄様が聞けた。彼にはなんだかとても懐かしいような気がした。


「ローザ、さっきからハヤトさんハヤトさんって言ってたけど、嫁みたいだったぞ」


 そうハヤトが茶化すと、ローザは顔を太陽よりも真っ赤にした。


 そんな様子を見て、ローザを除く一同は笑った。


「ようし、それじゃあダンスでもするか」


「ダンス?」アカリが声をあげる。「なんだそりゃ」


「俺にもわからん」といってハヤトは笑う。


 そうしてハヤトはローザに声をかけた。「Shall we dance?」


 ローザは目を星の瞬きのようにキラキラさせながら、「はいっ!」と威勢よく返事をした。


「デスゲームは終わったが、誰かにキルされないようにしろよ?」ハヤトは言う。


「わかっています。私たちはアサシンですもんね。アサシンらしく踊りましょう」


「アサシンらしく、か……」


 そういうと、ハヤトはベッドから降り、立ち上がってローザと見つめ合った。


「ローザ、踊れるか」


 ハヤトが問う。


「ハヤトさんがリードしてください」


「俺もわからない」


「なんですか、それ」


 そういってその場にいる全員が笑った。


「じゃあ、なんとなくでも踊ろうか。アサシンの間合いで」

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