43.ローザ戦
ローザの体は言う。
「このゲームもまたデスゲームだ。ただし私が負けても私の魂は死なないがね。君が負けた場合だけ君が死ぬのだ」
ローザの声で説明がなされる。
「お前……、クリストファーか」
「いかにも。ただし体はローザ君のものだがね」
「ローザを、お前を殺したらどうなる」
ハヤトは気が気でなかった。相手がローザの姿でなければ殺してやりたいくらいだった。もっとも相手がローザの姿だからこそ殺してやりたいのだが。
「ローザ君はまだ魂のまま眠ってもらっている。この体が死ぬことは、つまりローザ君が死ぬことを意味するのさ」
「なんだって……?」
ローザが死ぬのはいやだ。しかしこのデスゲームはどちらかが死ななければならない。ということは、かならずローザと別れなければならないのだ。俺が死ぬかローザが死ぬか……。
「おやおや、泣いているの?」
ハヤトはそんなつもりもなかったのに、いつのまにやら涙を流していた。ローザと別れるのはつらい。だが自分が死んだところで彼女とは会えない。彼女を殺しても彼女とは会えない。どうする。ハヤトはさんざん悩んだ。
「ハヤト、悩む必要はない。これは最期のダンスなんだ。どちらかは必ず死ななければならない。だからもう君に選択肢はないのだよ」
「お前、お前……。ふざけるな! 俺がどれだけあいつと一緒にいたいと思っているのか知ってるのか!」
ハヤトは悔しさに泣き叫ぶ。
しかしローザの声形をしたクリストファーはとくに意に返さずに言った。
「君は弱い人間ではないだろう。私と戦え。制限時間を与えよう。あと5分だ。この間にどちらかが死ななければ二人とも消えてなくなる。選択の余地はない。だから、戦え! ハヤト!」
ローザは怒鳴る。
ハヤトは悔しい思いを右手でぬぐい、いつの間にか膝から崩れ落ちていた自分を奮い立たせる。
「おう、戦ってやるよ。でも、ローザは……」
「わかった、約束しよう。この体を切り裂いても、ローザ君は現実かゲームの中へ戻してあげよう。だから戦え、ハヤト!」
ハヤトはクリストファーの叱咤にうながされ、背中の剣を抜き、想いきりローザに振り下げた。
「甘い、甘いぞ、ハヤト」ローザの声が言う。「あまりにも隙が多すぎる!」
しなやかな体でハヤトの攻撃はかわされ、横合いから剣で切られてしまう。
「くっ」
ハヤトは攻撃をもろに食らい、横腹から出血する。黒いシャツが余計に黒々と光った。
「ぬるい!」
続くクリストファーの攻撃。ハヤトはなんとか体の向きを変えていなそうとしたが、胸のあたりを鋭い刃先がスルリと切り裂く。血がたらたらと流れていく。ハヤトにはその感覚がたまらなく不快だった。
ハヤトは一歩分飛びのいた。そしてハンドガンを抜きローザに向かって撃った。しかし手が震えて、うまく撃てなかった。
「どうした! ハヤト! そんなことでは君は死んでしまうぞ!」
「いいんだ、それで」
ハヤトは方膝をつく。
「ローザのためなら、俺は死んでもいい。だから俺を殺してくれ」
ハヤトはおごそかに言った。
しかしクリストファーはそれを許さなかった。
「愚か者!」
そうしてハヤトの顔を足で蹴り飛ばす。彼は吹き飛ばされる。
「生涯を誓った相手がいる者がそんな調子でどうする! 馬鹿者! 私を倒して何としてでも二人で生きていこうとするのが貴様のあるべき姿であろう! それを殺してくれだと? 馬鹿を言え! 恋人を置いて死のうとする馬鹿があるか!」
「でも!」ハヤトはクリストファーに向かって叫ぶ。「お前を殺すなんて俺にはできない」
「ならば、死ね」
クリストファーは床に座り込んでいたハヤトに向かって駆け出した。
「貴様ら二人とも殺してやる。貴様がこれほど見込みのないやつとは思わなかったぞ!」
「お兄様!」
「ローザ!?」
「剣で防いでください。そして遠慮せず、私を殺してください」
もう一人のローザがそこにはおぼろげながら立って見えた。
「お兄様。私のことを殺してください」
「でも、そしたらお前が……」
「ハヤトさん、私と生涯を誓ってくださるんでしょう? ならば死ぬなどどおっしゃらないでください。あなたならできます。何とかして私とともに一生を共にしてください。私はいつまでも待っていますから。だから、必ず勝ってください。そしてまた私を守ってください。ハヤトさん、もう一度、私とキスを。一度じゃなくても構いません。何度でもお願いします。だから……、死ぬなどとおっしゃらないでください。私はあなたともう一度、そして永遠に、暮らしていける日を楽しみにしています。ハヤトさん、だから、必ず、勝ってください」
そしてローザの亡霊は消えた。
ゆらゆらと揺れる視界を、頭を振り、振り払う。
「ローザ、その想い、受け取ったぜ」
ローザの姿をしたクリストファーはけげんな顔をしながら剣を振り下ろした。
しかし、即座にハヤトは剣でその攻撃を防いだ。
「ん?」クリストファーは不思議そうな顔をした。
「どうだ、戦う気になったか?」
ハヤトの反応速度はクリストファーを超越していた。
「ああ、そうだとも。俺はローザの願いをかなえてやらなくちゃいけない」
「はは、なんだねそれは」
ローザの体のクリストファーは心底珍しいものを見るように尋ねた。
だがハヤトは意に返さない。彼はクリストファーの剣をはじき、間合いを取って剣をクリストファーの方に差し向けた。
「お前になんか関係ねえ。ただ、俺はお前を倒す。そして必ず、俺はローザと生きていく!」




