40.ラストダンス2
クリスティーナは走りながらローザに向かってサブマシンガンを連射した。それをハヤトが黄金の剣で切り裂いていく。剣幅の狭くない剣を高速でふるう。人間離れした技だ。
「素晴らしい、素晴らしいわ! そうじゃなきゃ主人公じゃないわ!」
クリスティーナは戦いを始めて徐々に興にのってきていた。
「ちっ」
ハヤトは悪態をつきそうになってやめた。クリスとクリスティーナが同一人物だとはいえ、今まで付き合ってきたクリスティーナに悪態をつくのはなんとなくためらわれた。
しかしローザをねらって無理やり能力を発揮させるのは、あまりいいやり方とは考えられなかった。
そしてハヤトはクリスティーナに向かって初めて魔法を使った。
「木よ怒れ!」
しかしその攻撃は目に見えないほどの動きで避けられてしまった。まるでハヤトのスローモーションをコピーしたかのような動きだった。
ハヤトはまさか、と思った。
「そう、その通りよ!」
クリスティーナは喜色満面になっていった。
「あなたたち二人の能力をコピーさせてもらったの! だから二人で戦うあなたたちと、一人であなたたちの力を発揮できる私とじゃレベルが違うのよ! さあ、私の作る物語の一部になりなさい!」
そういいながら、クリスティーナは雷魔法をローザに向かって放った。
「ローザ!」
ハヤトはクリスティーナの雷撃を体で受けて、ローザへの攻撃を防いだ。だがそのかわり、自分がその雷撃でダメージを受けることになってしまった。
「ぐっ……」
ハヤトはしびれる体を何とか動かそうとするが、体で受けて倒れてから、自由に動くことができなかった。
「お兄様、私が何とかします!」
ローザは兄の前に立ち、サブマシンガンをクリスティーナに向かって連射、しかしこれももちろんハヤトの能力をコピーしたクリスティーナに切り刻まれてしまう。
それどころか、クリスティーナから反撃として発砲された弾丸の数々に貫かれそうになる。
「ローザ!」
ハヤトの動きは間に合わない。
が、しかし。
パキーンという音がしたかと思うと、ローザは何の衝撃も感じなかった。何も当たった様子がなかった。
三人は何が起こったのかと思い、少しの間動きを止めた。しかしローザが首にかけていたネックレスを見つめたことで、何が起こったか分かった。
「ちっ、そんなもの!」
クリスティーナは全力で黄金の剣をふるい、かまいたちを起こす。ハヤトがデスゲームのときに使ったものだ。すさまじい風がハヤトとローザを襲う。そしてかまいたちをもろにくらったローザのペンダントは、パリンと割れてしまった。
「これでもう、ずるみたいな技はなしね」
クリスティーナは告げる。
ハヤトはまだクリスティーナの攻撃から立ち直れずにいた。
くそ、動け、動け、俺の体! ハヤトは心の中で叫びながらなんとか立ち上がった。しかしハヤトの体力も無限ではない。このままダメージを受けたりスローモーションの世界に入ったりすれば、ただでは済まないだろう。しかし。
「せいっ!」
ハヤトはクリスティーナから発せられた雷魔法を再びローザの前に立ちはだかり、ローザを守った。
「お兄様!」
ローザはしゃがみ込み、ハヤトの体を起こす。
「大丈夫ですか! お兄様? あまり無茶はなさらないでください。私があの人の言い分を受け入れます。あの人の物語の一部になればそれで済むのですよ。だからこれ以上無茶なことは、」
「あのな、ローザ。俺は嫌なんだ。誰かの思い通りになるってのが。自分で自分の道を切り開いていく。今まで俺はそうしてきたつもりだし、これからもそうだ」
「そぉんな無茶をしなくても、おとなしく私の物語の一部になればそれでいいのに」
クリスティーナは言う。
だがハヤトは聞く耳を持たずに言った。そして起き上がった。
「俺は、お前を、必ず、倒す。そして、自分の道を、歩む!」
その瞬間、クリスティーナは黄金の剣を再び全力でふるった。ハヤトには防ぐ術がないかのように思われた。しかし。
「紫電霹靂!」
ハヤトも同じかまいたちを起こし、電子の空間にすさまじい衝撃がぶつかり合い、衝撃波同士がぶつかり合って霧散した。
「ハヤト君? 無理しなくていいのよ?」
ハヤトはもはや満身創痍、黄金の剣を杖のようにして、片膝をつき、ぜえぜえと肩で息をしていた。もはや体が限界をむかえつつあった。しかし。
「俺は、誰の思い通りにもなるつもりはねえっ!」
そういってハヤトはふらふらと立ち上がる。
ローザはもはや説得は無意味と判断したのか、ハヤトの前に立ちアサルトライフルを連射する。狙撃スキルで強化されたそれも、パーティー強化スキルで強化されたハヤトの能力を使うクリスティーナの前にはほとんど無意味だった。
ローザ、ローザ。ハヤトは心の中で叫び続けた。俺の大切なローザが俺を守るために戦っている。それなのに俺はこのざまだ。俺はこのままでいいのか? いや、いいはずがない。だがもう体がついてこない。
大切なローザ……、ハヤトは心の中で思った。ローザ、お前は俺にとっていったい何だった? 今までは何だった? 相棒か? 兄妹か? 今までは、どうだったか知れねえ。でも、今は……!
「ロー、ザ」
ハヤトはふらふらしそうになるのを必死にこらえながら、ローザの名を呼んだ。そしてローザは振り返る。
「えっ、はい!」
「お前は、俺を、どう思っている」
「大切に思っています」
「そうじゃない」
ハヤトはローザの言葉を断ち切る。
「えっ」
「どう思っているんだ!」
ハヤトは叫んだ。ローザはいつの間にか片目から流れる涙に気づかぬまま言った。
「愛しています。異性として」
「そう、それでいい。俺もだ。俺も愛してるぜ、ローザ。だから必ずあいつを倒して二人でずっと生きていこう。俺たちの命が消え去るまで」




