39.ラストダンス
「クリスティーナさん、あなたがクリス・アーベンで間違いありませんね?」
ハヤトは静かに問うた。
「なんの、こと、かしら?」
クリスティーナはいったい何を聞かれているのかわからない、といったような顔で答える。
「あなたがこのゲームのゲームマスターだと言いたいんです。そしてクリス・アーベンと同一人物であると」
「はあ」
クリスティーナはきょとんとした。すっとんきょうなことを聞いているような顔だ。だがハヤトは続ける。
「あなたが俺に手紙を送ったり、情報を提供して行動を誘導したりしたんですよね。俺はそう確信しています」
三人だけの、果てしのない電子の空間にハヤトの声だけが広がっていく。その空間はまるで鏡合わせをしたかのように、どこまでも果てしなく続いていた。
「ハヤト君……、どうしちゃったの? 私はそんなこと、」
ハヤトがさえぎるように言う。
「クリスの手紙にはテッテルを殺したと、そして性別のことは秘密だと書いてありましたね。わざわざ性別を気にするなんておかしいでしょう」
「まさかそれだけで? ふふっ、おかしいわ」
クリスティーナは静かに笑う。だがハヤトは真剣な表情もそのままに言う。
「クリスがヤクザの子供だということは、つまりこのゲームの創造主の子供だということですね。そしてあなたは父のように偉大になりたいと、特別な能力を持ちたいと言っていた」
「それとこれとが一体どうつながるの? NPCだってそれくらいのバックボーンはあるでしょう? それにデスゲームに参加できるのはNPCだけ」
クリスティーナはなかばハヤトをおちょくるように言う。
「これは俺の勘ですが、特別な能力というのは、エンターテイナーとしての能力だと思うんですよ。適当な主人公を見つけて、そいつを面白いように誘導して、様々なイベントを起こす。こうして今しゃべっているのもその一環なんじゃありませんか? それに、ゲームの創造主ならNPCとしてゲームに認識させることぐらい容易でしょう。しかも、確実にあなたがゲームマスターだという証拠を、俺は提示できると思うんですッ」
ハヤトは即座にクリスティーナに向かって発砲した。二発。しかしクリスティーナは倒れなかった。倒れるどころか、傷一つついていなかった。
「もういいでしょう? ゲームを先に進めましょう。最高のエンターテイナーとして私たちと最後のダンスを踊りましょう。ラストダンスです」
クリスティーナは脱力してハヤトをじっと見つめた。それから少し、間をおいて話し始めた。
「私はね、あなたたちが初心者狩りを狩っている頃からあなたたちを見ていたの。それはだってNPCなのに、正義の味方みたいなことをしていたからちょっと気になっていたの。でも、そのあとあなたたちはプレイヤーに対して反逆をした。復讐をしたでしょう? 私はそれを見て、これだって、直感で気づいたの。これが主人公だってね。だからあなたたちにはいろんな仕掛けを見せてきたわ。デスゲームだったりね。でもあなたは普通の主人公以上のことをしてのけた。まさにダークヒーローだって思ったわ。だってそこら辺の見知らぬ人を殺してドアを開けるなんて簡単にはできないわ」
クリスティーナは徐々に興奮していった。
「でも、私の父は第一級のエンターテイナーとして、たくさんのVRMMOを手掛けてきて、そうして面白いゲームを作り続けてきた。私もそうしてみたいと思った。でも簡単にはいかなかった。私自身が主人公になってゲームを設計してみたこともあった。でもそれでも父のようにはいかなかった。私は父に認められないことが悔しかったのね。それが私の人生、と言ったところかしら。でも私はあなたたちを見つけた。あなたたちを使えば最高の物語が作れるって思ったの。私は本当に悔しいのよ。父に認められないのが。あなたたちも悔しい思いをしたのでしょう? それと同じかそれ以上に私は悔しいの」
そういってクリスティーナは涙をにじませた。
「でもあなたたちなら紡いでくれるのね、最高の物語を」
それにハヤトは答える。
「いえ、俺にも自分の人生ってものがありますから。俺たちは俺たちなりの人生を送りたいと思います。だから今日は最後にダンスを踊りましょう。ラストダンスです」
「そう、それは残念だわ」
そういうと、クリスティーナはホログラムの画面を操作して、三人のライフを一つにした。
「あなたたちには容赦しないわ。いたぶって、いたぶって、いたぶって、それでもいたぶって、あなたたちが命乞いをしながら私の物語を紡いでいくようにしてあげる」
そうしてクリスティーナは右手に黄金の剣を、左手にサブマシンガンを構えた。そしてハヤトとローザに向かって駆け出した。




