25.デスゲームの始まり
「そう、本当に妙な噂なんだ」
一行は次の街、クーゼルで話をすることになった。昼間にやっている酒場は知らないと二人の騎士が言うので、レストランで話をした。
ハヤトとしては元の街に戻りたいところだったが、情報は収集しておきたいということで二人の騎士にしたがった。
「このゲームには当然プレイヤーがいるだろ? それが今度の噂じゃプレイヤーを全員追い出して、NPC同士で戦わせようって言うらしいんだ」と、シンが切り出す。「つまり本当の殺し合いをさせようって話らしい。俺たちもNPCなんだが本当ならたまった話じゃない。君たちはどう思う? これはとある商人から聞いた話なんだが」
「NPC同士の殺し合いだって? だれがそんなことを望んでるんだ? まさかプレイヤーが殺し合いをしてるNPCを見て楽しむってことか?」
もしそれが本当なら、NPCとして無視できない話だ。
「それがわからないんだ。君たちは何か情報を持っていたりしないか? あのミッションをクリアできる腕前の持ち主なら何かつかんでいないかと思って聞いたんだが」
と金髪の騎士が言う。が。
「殺し合いの話はまったく聞いたことがないなあ。ただ最近、妙なことが多いんだ」
「妙なこと? というと?」
シンという騎士が食いついた。
「つい今日の話だと、俺はテッテルっていうプレイヤーをキルしようとしてたんだ。そしたら横合いにあった森から矢が放たれて、そいつがキルされたんだ。そのテッテルっていうプレイヤーは予知スキルを持っているからそう簡単にはキルされないはずなんだ。でもテッテルは消える前に予知が破られたというようなことを言っていた」
「つまり変な奴がいたってことか」
「そうだ」変な奴、でハヤトは思い出したことがあった。「はじまりの街の酒場で飲んでるときにも誰かに監視されてたんだ。そいつを追いかけようとしたらそいつは全速力で逃げて行ってったんだが、もしかしたら関係はないかな」
金髪のシンは机に頬杖をついて考えている様子だったが、なんとも言えないような顔をしていた。
「とにかくこのゲームでは妙なことが起こり始めているってことかな」とシンは言う。
「それは間違いないかもな」
と、だんだん話が煮詰まり始めたところでとある異変が起こった。
空がぱっと暗くなり、夜になったのだ。それだけじゃない。プレイヤーと思しき人々が光の粒子になって一人、また一人と消えていく。まさか、とハヤトは思う。
「強制ログアウト!?」
ハヤトは焦って叫んだ。
四人は警戒して、飛び上がるように立ち上がり、あたりを見回した。NPCの四人はだれも光の粒子にはならなかった。
四人が冷や汗を流しているところへ、ある物体が現れた。光の球体だ。光の球体はだんだん二頭身の人の形をとり、やがてその正体を現した。
そいつは虹色の髪を短く切った少女のように見えた。
「僕の名前はアウロ」
「僕っ娘!?」ハヤトが叫ぶ。
アウロと名乗った少女は、頭に黒い冠のようなものをかぶっていた。
「僕は黒き罪の王冠をかぶる堕天使。君たちを地獄に招待しに来た」
「なんだと?」
シンが思わずしゃべる。だがアウロは反応する様子はない。それはそうだ。アウロは人の集団ごとに現れている。つまり俺たち以外のところにも、グループの中心や一人でいた給仕係の男の前にもアウロは現れていたのだ。
急に夜になった世界の中で、ただアウロだけがまぶしく光っていた。
「これから君たちにはデスゲームを行ってもらう。君たちの残りライフは全員一つにさせてもらった」
「なんだと?!」ハヤトが叫ぶ。
だがアウロはかまわず続ける。
「君たちNPCには、その数が半分になるまで、劇場で観戦しているプレイヤーたちのために殺し合いを行ってもらう。現在この世界に存在するNPCは6302人。だから3151人になるまで殺し合いを行ってもらう。そして強いものだけが残る。
ね、楽しい祭りだとは思わないかい?」
「思うわけないだろ!」シンが叫ぶ。「それって3151人が死ぬってことだろ!?」
もちろんアウロは反応しない。
「ふざけるな!」店の中にいた誰かが叫んだ。そしてアウロに向かって剣を振り下ろした。しかし無念にもその剣はアウロをすり抜け机を切り裂いた。
「これは冗談や何かのたぐいではない。正真正銘のデスゲームだ。遊びじゃない。NPCの人数が3151人以下になるまでこのゲームは終わらない、あるいははじまりの街の案内嬢10人が全員壊れるまでね。もし案内嬢が10人壊れるまでに3151人以下になっていなければ、ランダムで3151人になるように誰かが死ぬ。だから君たちにはこう忠告しておこう。自分が死にたくなければ他人を殺せ、と。
このゲームの趣旨は分かったかな? 面白いゲームを期待しているよ。それじゃあ、よい夜をお過ごしくださいまし、NPC諸君!」
慇懃に礼をし、言うだけ言うと、いろんなところから聞こえてくる怒号や泣き声を無視してアウロは消えた。あたりは真っ暗になった。
給仕係が急いで電気をつけ、そのレストランは明るくなった。すると全員の顔が浮かび上がった。みんなアウロをいたところを見つめて、顔面蒼白になっていた。
ハヤトも同じように頭まで真っ白になり、手の先が震えるほどの緊張に支配されていた。
生きたければ誰かを殺せ。その言葉がハヤトの頭の中にこびりついて離れなかった。




