22.敗北の味
「あの光り輝いている湖のほとりに白金の剣がささっています。それを抜いた方が、その奥にいる邪悪な魔法使いの操る巨大な蛇を切り裂いて倒すのです。するとすべてが元通りになります。お兄様、お姉様、やってくださいますね」
「ええ、必ず。たぎる血が勝ちを確信しています。お任せくださいませ」
「お兄様……」ローザは何となく感嘆した。
ローザとハヤトは光差す池のほとりの、その芝生に銀色に光り輝く剣を見つけた。それは二人が見てきた何ものよりも光り輝いていた。
ハヤトは背中にさしていた剣をその場において、かわりに白金の剣を刺した。驚いたことに剣はピタリと背中のさやに収まった。
「行こう、ローザ」
そういってハヤトはローザを促し、暗くじめじめした、それでいてしっかりたいまつが仕掛けられている洞窟の奥へと進んでいった。
再び大広間へと差し掛かったところで、二人はピタリを足を止めた。いよいよお出ましだ。そんな気がしたのだ。
すると奥からシュルシュルと音を立てて、そしてずりずりと地面を削りながら蛇と小さな人影が出てきた。いや、人影が小さいんじゃない、蛇がでかいのだ。二トントラックじゃきかない、それくらい太くて巨大な蛇だ。
今からこいつを倒すのか、これは厄介そうだな、とハヤトは今更のように後悔した。こんなのと本気で格闘していたら命がいくつあっても足りないんじゃないか。しかし今さらやめることはできない。何よりローザの前で格好悪いところを見せるわけにはいかない。
ハヤトは白金の剣を抜いて構えた。ローブを深くかぶった魔法使いはロッドをこちらに差し向け、真っ黒い体の蛇はずざざざとうねりつつ体を引きずりつつ、こちらへと迫ってくる。このフィールドの中でどう戦うか、それが求められている。
するとローザが魔法使いに向かってサブマシンガンを連射した。ところが魔法使いは身動き一つ取らず、そしてまったくダメージを受けることもなかった。
その瞬間、ハヤトはこのゲームの趣旨を理解した。このゲームが何を求めているかを。
「ローザ、蛇だ! 蛇を引き付けてくれ!」
「はい! お兄様!」
言われてローザはサブマシンガンを下げ、フィールドを縦横無尽に駆け回った。すると蛇はシュルリと赤い細長い舌をローザに向けた。しかしローザはこれを棒高跳びの要領でよけた。
続いて蛇はローザを追い続けたが、ローザが自分の体をくぐるように逃げたので、蛇は自分の体をねじるハメになった。
そのままローザは逃げ続けていたが、徐々に体力を消耗していく。そうしてだんだん走る速度が遅くなっていく。
このままだとローザは蛇に飲み込まれて消化されてしまう。消化はともかくつかまってしまう可能性が高い、ハヤトはそう考えた。しかしハヤトには勝算があった。そう自分では思っていた。
そのとき、ローザがシュルっとのばされた舌に足を絡み取られ、宙づりになった。
「お、お兄様」
その時、ハヤトの全身の血がたぎった。気づくと視界に飛び込んでくるものすべてがスローモーションになって見えた。やっぱりだ、とハヤトは思いつつ、シュタタ、と蛇の口の方へ駆け、飲み込まれかけていたローザを救い出すため、跳躍して蛇の舌を白金の剣で切り裂いた。そのままローザをお姫様抱っこして着地した。
「大丈夫だったか?」
ハヤトは尋ねる。
「いったい何が……。お、お兄様、ありがとうございます」
一瞬の出来事だったようで、ローザは混乱していたが、ハヤトには非常に長い時間だった。
しかしことはそう簡単には運ばなかった。背後で蛇の威嚇する音が聞こえてハヤトが振り向くと、蛇の舌はすっかり治っていた。
「どうして……」ローザは嘆くように言った。
だがハヤトはまだ悲観的にはなっていなかった。何か方法があるはずだ。一気に全身を切り刻めば、と思い、ローザに再び逃げ回るよう指示を出した。
「お兄様! これで大丈夫ですか!」
ローザが問う。
「問題ない! 安心しろ!」
そういいつつも、安心なんてローザでもできないんじゃないか、とハヤトは思った。
ハヤトは待った。その時を。
そしてその時は訪れた。
ローザが再び蛇につかまれ、そうして今度は飲み込んだ。
ハヤトは、落ち着け、と自分に向かってつぶやいた。
そして霹靂一閃、再び同じ動作で蛇の口に向かって跳躍、白金の剣で無理やり口をこじ開け、蛇が抵抗する間もないほど一瞬の隙にその中へと入りこみ、そして蛇の体内を切り裂きながらローザに向かって走る。今度はローザをかついで、蛇の腹まで真っ二つ。
あたりは蛇の体液でびっしょりとぬれ、血だまりとなっていた。ハヤトはぜえぜえと息をはいた。さすがにあの速度で体を使うと身体に負担がかかるらしい。
ハヤトはこれでミッションクリアか、と安心した。しかしそれは早計だった。
蛇は確かに体を地面に横たえ、ぐったりとしていた。しかしその裂け目は徐々に閉じていき、やがて見る見るうちに口元まで元通りになり、ついには体を持ち上げて、その鋭い瞳孔で二人をにらみつけるように体を起こした。二人の後ろは壁だ。
終わった、ハヤトはそう思った。万事休すだと。




