20.最後の復讐戦
馬車を駆りながら、ハヤトは思った。テッテルの予知に妨害をされる可能性を考えれば、ここで仕留めねばならないと。
馬車と馬車の距離は70メートルほどまでせばまっていた。あと2~30メートル近づければサブマシンガンで確実に仕留められる。
「お兄様! お兄様! 大変です!」
「どうした!」
息が苦しくなるほどの風をこらえながらハヤトはたずねた。
「サブマシンガンが壊れてます!」
「なんだって!?」
「サブマシンガンが! 壊れてます!」
なんてこった。昨日の夜に壊されてしまったのだろうか。確かに銃の管理はローザに任せて置いたままだった。だから昨日の銃の状態がどうだったかはハヤトにはわからなかった。
サブマシンガンが使えないとなると、いよいよ近接戦に持ち込まなければならない。あまりうれしい展開ではなかったが、ようやく俺の出番が来たか、と血をたぎらせる自分をハヤトはどこかで感じていた。
テッテルの馬車が右カーブに差し掛かり、やがて左カーブに差し掛かる。ハヤトの馬車も右カーブに差し掛かり、テッテルの馬車が見えなくなる。カーブはやや下り坂だ。それにつれて速度が上がる。
「二人とも! しっかりつかまってろ!」
「「はい!」」
左カーブが終わりしばらく下り坂が続いた後、右カーブ。その先は森の中をまっすぐ道が走っていた。
やるか。ハヤトは思った。
右カーブをまがり終わったところでハヤトは荷台をつないでいたロープを剣で切り、荷台を切り離した。
「お兄様! 無茶です!」
遠くなっていくローザの声が聞こえる。
それとほぼ時を同じくして、直線で銃撃を行おうとしていたのか、テッテルの荷台から魔法が放たれる。どうやら速度を落として狙いやすくなったローザを狙うらしい。瞬間、血がたぎり、
「させるかぁっ!!」
ハヤトは馬の上から剣をなぎ、時速200キロはゆうに超えるであろう相対速度の中、五本の矢をすべて切り落とした。やけにゆっくりな矢だったな。剣が軽くてよかった。とハヤトは安堵した。これでローザとクリスティーナの安全は確保できた。後は前の三人をしとめるだけだ。
ローザを乗せた荷台はどんどんと離れていった。
テッテルの荷台からは矢が矢継ぎばやに飛んでくるが、こちらは荷台がない。相手の狙いをよく見ておけば、馬にも自分にも矢が当たることはなかった。
やがてテッテルの馬車まで40メートルのところまできて、こちらから狙われるのを警戒してか二人は荷台の中へ隠れた。
30メートルの距離まで来たところで、ハヤトはハンドガンで荷台を撃ち始めた。弾が切れるまで何発も撃った。
やがて10メートルほどのところまで来たところで、ハヤトはハンドガンの弾を装填し、そしてまた馬を二三度、むちで打ち、
「おらっ!」
ハヤトは馬の背中をけって、テッテルの馬車の荷台の鉄骨にかろうじて右手で捕まった。一瞬するっと滑ったが、慌てて左手でも鉄骨をつかむ。両手で荷台につかまったまま旗のようにふらふらとハヤトは左右上下に振られていた。
必死に両手に力をこめて、逆上がりの要領で荷台を襲った。中には二人ともが残っていたが、驚いて硬直していた。その隙に、ハンドガンで二発、バンバンと撃ち、光の粒子へと還元した。残るは馬の背に乗ったテッテルのみだ。
ハヤトは荷台を前に進み、荷前を開けてテッテルに向けて銃を構えた。
テッテルはそれを予知していたように馬の速度を落とし、やがて馬を止まらせた。そして両手を上げ、馬から降りた。
「もうこれで終わりだ、赤髪のテッテル」
そういってハヤトも荷台から降りる。
「ここまでは予知していたんだ。ただここから先、どうしたものかと迷っていたんだ。どうしたらいいと思う?」
テッテルはハヤトに向かってそう問いかけた。
「俺の仲間になるか、ここで死ぬか、だ」
テッテルは快活に笑った。
「俺の仲間に、か」テッテルは何かを地面に落とし、そして答えた。「それじゃあメンバーが黙っちゃいないな!」
そういって杖を抜いたテッテルだったが、一瞬の差でハヤトのハンドガンさばきの方が先んじて、銃は弾を放ち、テッテルを貫いた。そして彼女は光の粒子となって消えた。
しかし何を落としていったんだ? とハヤトはテッテルが落としたものを見た。それをよくよく見た瞬間、まずい、と思った。
そう思ったのもつかの間、再びテッテルが光をまとって現れた。
そしてテッテルは光る杖をハヤトの方に向けた。
「チェックメイトだ」
テッテルはそう告げた。
しかし。次の瞬間。
トスっと音がした。
軽い音だった。
テッテルは森の方を向いた。しかしそこには何も見えなかった。そして彼女は倒れた。ドサリと。
「予知が、破られ、て……? どうし、て……」
テッテルはそう呟き、光の粒子になって消えた。
とうとう橋島とクリスを除く全員がレッドプレイヤーとなって消えた。しかしその最後はあまり後味のいいものではなかった。テッテルにもわからない謎を残して復讐は終わりを迎えた。
予知が破られ擬態で殺され、何かとんでもないものを相手にしているのかもしれない。そう、思うのだった。




