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17.アサシンとクリスティーナの過去

 霊廟への道中、ローザはハヤトをちらちらとみていた。ハヤトの容態を気遣ってのことでもあったが、ハヤトが発揮した謎の能力に驚嘆してのことだった。


 ハヤトはハヤトでクリスティーナのことが気が気でなかったが、復讐が完璧にはいかなかったことに失望してひどく倦怠感を覚えていた。


 さいわいクリスティーナとは霊廟で会うことができた。まだ死んではいなかったのだ。三回は。だとしても後一回か二回。あまり前線には連れていくのは気がひける。


「私は卑怯者ですから」とクリスティーナは言う。「私は一度も死んだことがなかったんです。なぜなら私には自分の死が見えたから。そうして逃げてきた。そうやって逃げ続けるのが嫌で私は必死に魔法の練習を重ねました。研究も重ねました。優れた力は手に入れることができました。でも。特別な力は手に入れることができませんでした。それが私の限界です」



 そして酒場でローザがハヤトの治療をしながらクリスティーナは話をつづけた。


「だから私は人を救ってみたかったんです。人を救うのは特別な力かもしれないと思ったからです。そうして救ってパーティーに組み入れたのがあのレべリアです。もう一人の」


 と言ってクリスティーナは酒場のカウンターの方を向いた。そこにいたのはローザよりも少し短い髪を同じように束ねた青い髪の少女だった。


「彼女も私たちのパーティーの一員でした。でも彼女は一度死んでしまった。それは私が特別な力を持っていなかったからです」


「そんなに特別な力を求めるのは何でですか?」とハヤトは無邪気に聞いた。


「それはたぶん私がずっと追い求め続けてきたからです。小さいころから私は父のように偉大になることを求められてきました。でも私はどんなに努力しても特別な力、偉大な力を身に着けることができなかったんです。この話はNPCの皆さんよりも、案外畑違いのプレイヤーの方々の方が共感していただけるのかもしれませんが、私の求めていたものは特別な力だったんです。ね、少し変わっているでしょう?」とハヤトとローザに向かって微笑む。


 ハヤトは直感で答えた。


「NPCにしては、ですかね」といって軽く笑った。「俺たちも現在進行形でちょっと変わった人生を歩みつつありますけどね」


「ええ、そうみたいね」とクリスティーナが言って、三人は笑った。「だってアサシンになるだなんて。変わってるわ。ジョブがあるわけでもないのにアサシンなんか名乗って」


「気持ちの問題ですよ。気持ちの」


「じゃあ初心者狩りを狩っていたころはアサシンじゃなかったってこと?」


「そうですよ。あれはアサシンじゃありません」


 クリスティーナは失笑した。


「でもパーティーを追放された日、ローザをあしざまに言われたときにひらめいたんです。俺は、俺たちは暗殺者(アサシン)だって。クリスティーナさんみたいな血のにじむような努力をしたわけでもないんですよ。ただ、直感しただけです」


「アサシンか。もしかしたらジョブみたいなのが特別な力、なのかもね」


 そういってクリスティーナは笑顔を咲かせた。


「あまり名誉なジョブではないかもしれませんけどね」


「それでもやっぱり根っこのところでは変わってないのかもね。初心者狩り狩りに、悪を滅するアサシン。うん、おんなじみたいね」


「悪を滅する。確かにそうかもしれませんね」ハヤトは笑いがこらえきれなかった。


「それが終わったら、のことも聞いていいかしら?」とクリスティーナ。


 確かにその後のことはあまり考えていなかったな、とハヤトは思った。


「アサシンが終わったら、俺たちはまたただの凡人に戻るのかもしれませんね。でもクリスティーナさんみたいに輝いている人を見ると、凡人も悪くはないのかな、とも思うんですよ」


「あら、そう。もしその復讐が終わったら、私のところに来てみてくれないかしら。きっと面白いものが待ってるわよ」


「確かにそんな感じがします」とハヤトは言った。


「お兄様、お傷の治療、終わりました。クリスティーナさんもお兄様のお相手をわざわざありがとうございました」とやや不機嫌な様子で言った。そんな風にハヤトには見えた。仮にもクリスティーナの好意に甘えているのだ。気のせいだろう。


「そうね、遅くまでお部屋にお邪魔しちゃってごめんなさい」


「治療を手伝ってくださったんですから関係ありませんよ」とハヤト。


「ふふ、ハヤト君は優しいのね。それじゃあお邪魔しました。お二人とも、ごゆっくり」といって愛想笑いをしながらクリスティーナさんは部屋から出ていった。静かな夜だった。

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