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15.討伐隊戦

「前酒場で祝杯を挙げてたときのこと、覚えてるか」


 と剣を後ろに携え、ベルトをしっかりしめてハンドガンをぶら下げるハヤトが訪ねた。


「祝杯のとき……、お兄様が影を追いかけていってしまったときのことですか?」


「そうだ」


 ハヤトは少し緊張した声でこたえる。


「あのときのことが、何か?」


「いや、あのとき影は店から遠ざかるように走っていったよな」


「ええ。それがどうかしましたか?」


「いや、ちょっと考え事をしていただけだ」


「そうですか」


 そういうと、緊張もあり二人はふたたび黙り込んでしまった。



 さかのぼること10分ほど前、ローザ、ハヤト、クリスティーナの三人は例の酒場にいた。この日の夜は客も比較的少なく、三人は談笑にふけっていた。すると突然クリスティーナが言ったのだ。また火の矢が飛んできてローザが死んでしまう光景が予知で見えると。


 それを受けて三人は酒場を離れ、酒場を狙える場所を探して回っていた。つまり敵の居場所を探していたのだ。だがめぼしいプレイヤーは見当たらず、結局酒場の反対側がよく見える場所で、攻撃が来るかどうか見張っていたのだ。


 クリスティーナは【予知】のほかに【パーティー強化】を持っていたので、それを使って全体的なパフォーマンスの向上をしてもらった。だがローザの【諜報】ではめぼしい結果は得られなかった。



 そして今、裏路地で相手の出方をうかがっているのだった。クリスティーナの予知した時刻まで30秒を切っていた。今回は正確に予知ができた様子だった。


「いいか、こちらから相手が認識できない以上こちらが不利だ。だから無理をして反撃をする必要はない。余裕があったらでいい。クリスティーナさんもです。万一混戦になったら俺が前線で戦いますから、二人は遠距離から援護射撃をしてください」


「わかりました」とクリスティーナ。


 ローザはしばった髪を揺らしてこくりとうなずいた。


 残り10秒。9、8、7、6、5、4、


「3……、2……、1……、来た! 避けろみんな!」


 そうハヤトが叫んだ直後、裏路地にやや斜め方向から例の火の矢が飛んできた。火の矢はゴウゴウと燃えながら地面に突き刺さった。どうやら場所がわれていたらしい。


「じゃ、援護頼みます!」そう言ってハヤトは駆け出した。



 ハヤトは矢が飛んできた建物へと向かう。その建物はマンションのようで、ドアがたくさん並んでいた。援護の二人には、ついてこいともついてくるなとも明言するのを忘れてしまったが、二人とも距離をとりつつもついてきていた。そうこなくっちゃ、とハヤトは思った。


 クリスティーナのスキルによって狙撃や諜報のスキルが強化されたローザに敵の居場所を尋ねるように視線を送ったが。ローザは静かに首を振った。どうやら諜報のスキルも使えないようだ。何らかの対策が練られている可能性も高い。


 ハヤトは杖を前方へと向けながら歩いた。本当は銃を向けたいところだったが、狙撃スキルをローザに渡した以上、銃に頼りきりになるのはまずかった。


 ハヤトは一つ二つとドアを蹴り飛ばして開けていく。一つ開けるごとに一瞬振り返って合図を出す。


 それを繰り返すこと七回目のことだ。ハヤトがドアを蹴り飛ばすと、「ッぶね!」


 中から獲物に飢えた灰色オオカミが飛び出してきた。と同時に奥の部屋から二人が火の魔法を放った。一人は炎を。一人は火矢を。その二つが合わさって体勢を崩したハヤトを狙う。ハヤトは何とか剣をよけるように矢をいなそうとしたが、背中に炎を浴びてしまい、服は焼けただれ皮膚もひどいやけどを負ってしまった。


「ちっ……」ハヤトは舌打ちした。背中がひどく痛む。これは軽いけがではないなと本能的に察した。


 だが敵の狙いはただ単にハヤトに痛手を負わせることだけではなかった。ハヤトの後ろでは俊敏な灰色オオカミが二人を翻弄している様子だった。そちらを見ることはではなかったが、どうやら一匹ではなかったらしい。


 だがこちらも目を離している隙はない。こちらには討つべき仇がいるのだから。


 ハヤトは唱える。


「炎よ! 炎! 炎! 炎!」


 何発もの炎の弾を飛ばして敵の攻撃を防ごうとするが、火矢と炎が別々に前から飛んでくることで、よけるのに精いっぱいになり、思うように攻撃が当たらない。一方的に体力を消耗していく。血がポタリポタリと地面に落ち、たらたらと体からにじみ出ていくのがわかる。


「炎よ怒れ!」と杖をふるう。


 しかしなかなか相手はひるまない。


 クソっ、どうすればいい。ハヤトは歯噛みした。


 ハヤトはドアの一つを開いて顔を出しては攻撃を繰り出すというのを反復して行っていたが、体中からの出血が止まらなかった。それでもやらねばならない。俺はアサシンなのだから。相手に暗殺されちゃあアサシンの名が廃るというものだ。


 なんとか不意打ちを食らわせたい。それがなによりアサシンらしいことだ。ハヤトは思った。


「お兄様! それ以上戦い続けては死んでしまいます! 今回は安全策で退却しましょう!」


 そうローザは叫ぶがハヤトは悩んでいた。ローザを危険にさらすわけにはいかない。だがたった二人を相手にこんなすぐに退却していいのか? たとえ対策されていたからと言って、三四人のメンバーのうち、たった二人だけに倒されてたまるか、と思った。クリスティーナの強化スキルで確実に戦闘能力は向上している。それなのに、なのに……!!


「しまっ……!」


 ハヤトは腹部にもろに火の玉を食らってしまった。だが。


「木よ(いか)れ!」そういって肉を切らせて、返す刀で火の玉の飛んできた方へ木の矢を複数飛ばす。


 暗い奥の方からうめき声が聞こえ、光の粒子になって消える。よし、一人、倒したぞ。


 だが。


「ハヤトさん危ない!」


 そういって全速力でなりふり構わず走ってきたのはクリスティーナだった。予知で何かを見たのだろうか、と思う間もなく、ハヤトは高出力な火矢に貫かれたクリスティーナを目の前に見るハメになった。


「クリス、ティーナ、さん?」


 クリスティーナはハヤトの前に出て、胸に思い切り火の矢を受けていた。ズチッと肉を切り裂く音がしたかと思うと、矢はクリスティーナを貫いて、ビシャリとハヤトに血を浴びせた。そして彼女はハヤトの方に倒れかかった。そしてその途中で光の粒子となって消えてしまった。


「あ、あ、あ、俺なんかのために……クリスティーナさんが……」


 ハヤトは血が出るほどこぶしを握り締めた。悔しさが血のようにあふれて止まらなかった。


 火矢を放った女はローザの銃撃にあった。


 よし、いまだ。ハヤトは気持ちをすぐに切り替え、いつもの手癖でハンドガンを抜き、ババンと弾を放つ。しかしテッテルの赤髪を切り裂きはしたが、命中とまではいかず、一瞬足止めするにとどまった。そしてテッテルはあらためて撤退するために走り去っていく。


「逃げるな、くそ……」ハヤトはふらふらよろけながら追いかけようとした。「クリスティーナさん。クソ……クソ……」


 何か策はないかと頭を巡らせているうちに、ゆらりと視界が揺れ始めた。めまいか、貧血か、とハヤトは思った。これ以上戦うのはまずいか、しかし。 


 ハヤトはやけどだらけの体をローザに抱えられて、なかば強制的に来た方へと戻っていく。


「クリスティーナさん、まさか死んではいませんよね……。仇は必ず取りますからね。霊廟で、待っていてください」

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