14.どうしようもないパーティー
「お兄様は私が殺させません! 誰一人にも指一本触れさせません」
「それはこっちのセリフだ。それにスキルチェンジをした以上、殺させない役目は俺の方が負うことになるだろ。お前は後方支援を頼む。その機会があればな」
ハヤトはしげしげと手紙を見つめた。クリス・アーベン。こいつがジョーカーなのか?
「パーティー総出で殺しに来ていた可能性も否定できませんよ。なにしろ私たちは人の往来のある場所で狙われたんですから。たとえ大人数でも射殺を選択するのは合理的だと思います。それと可能性としては低いのかもしれませんが、私たちが初心者狩りを狩っていたように、私たちが狩られて有り金を奪われた可能性も無きにしもあらずだと思います。証拠に私の有り金はすっかり持っていかれてしまったんですから」
と、となりで不平を漏らす少女の金髪が揺れる。香のような優雅な香りが鼻をついた。いい匂いだ。人がこの匂いをかいだらうっとりするだろうな、とハヤトは思った。俺もするけど。
「あとはなんで俺じゃなくてローザが狙われたのか、だな。単に狙いやすかったのか、それともローザに何か……、ってローザ?」
ローザは立ち上がって部屋の中央に立った。
「私にはお兄様への愛以外これっぽっちも持っていません。何もです。だから私が恨まれるいわれはありません」
「なるほどな。となるとやっぱりクリスか? でもほとんど絡みもなくて手紙で情報を漏らす変人がそんなことをするかな」
するとローザはハヤトをしっかとみつめて、両手を広げた。
「お兄様、考えてもわからないことは頭の隅に置いておきましょう? 今は橋島をちょっと警戒していればいいだけです。せっかくクリスティーナさんがNPC仲間としてこんな部屋をあてがってくださったんですから」
といってローザはトテテテ、とハヤトに向かって歩き、そのまま倒れこんだ。ボスッと音がした。
「お、重い……」
「重い? そうですかお兄様。私の愛はそれくらい重いのですよ」
「愛、ね……」
愛って何だろうな、ハヤトは思った。こんなかわいい妹がいて、そいつに好意的な感情を持っていて、それって愛なんだろうか。血がつながっていなければ兄と妹でも愛なんだろうか。
「お、に、い、さ、ま。まーた難しいことを考えこんでいる顔になっていましたよ。少しは考えることをやめて休んでください」
「そういわれてもな。考えることが性分みたいなもんだからさ」
呆れた、とばかりにローザは兄から体を離し、ため息をついた。
「でもま、俺たちはアサシンでいるさ。お前の仇をとるまではな」
と言ってハヤトは立ち上がった。
見るとローザの顔は花のように輝いていた。
そんな顔を見せられちゃあ、ただ座っているわけにはいかないよな、とハヤトはため息をついた。
お兄様、ちょっと待っててください、と言われてから数十分、そろそろ眠くなってきたぞというところで部屋の扉がノックされた。
「はーい」と答えてみる。もっともこの部屋に来るのは二人しかいないだろうが。
「お兄様ー?」
「ハヤト君ー?」
と、声がかけられる。
「「おかえりなさいませ、ご主人様!」」
「え? これどういう状況?」
ハヤトの目の前には、黒と白を基調とした装飾的なメイド服のローザとクリスティーナがいた。
「あなたたち何してるの?」
思わず口調が変になってしまった。
「ハヤト君が難しいことばっかり考えてるっていうからー」
「お兄様のために私たちがご奉仕させていただきますー」
なんだその語尾をのばすしゃべり方は。やめなさい、みっともない。
しかし二人はハヤトの後ろに回り込んで、ハヤトを無理やりベッドに座らせた。そして、
「おやぁ? ご主人様、肩が凝っておられます。私がおもみしますね」
「あ、ずるい。私もお兄様、ご主人様の肩、おもみします」
今少し噛んだろ。まあいいけどさ、とハヤトはまんざらでもないような感じになっていた。
「たまにはこんな経験をさせてもらってもいいのかな。今まで銃の重さを感じて生きてきたけど、もうすぐ楽になれるような気がするよ」
「私たちが―」
「楽にして差し上げますー」
「ちょっと怖いからやめてもらっていいかな? 自分で楽になるからさ……。別に二人の接待が嫌だってわけじゃないんだけどさ」
「接待! お兄様ったら、いやらしい~」
「接待にそんな意味込めてねえよ! ていうかその雰囲気に俺を巻き込むな! もう終わりだ終わり! のんきにこんなことやってる場合じゃねえぞ! ほら、仕事だ仕事!」
「ご奉仕も大切な仕事のうちですよ?」とクリスティーナ。
「お兄様ったら、接待で照れちゃって。私たちはただ健全なサービスを提供してるだけですよ?」
「サービスってなんだよ。とにかく何でもいいから、ほら、着替えなおしてこい」
そういってハヤトはメイド服の二人組を追い出して着替えさせた。
それにしても、とハヤトは思いを巡らせる。あんな時間をかけて、メイド服で出てきて、まったく仕方ない二人だ。
そんなことを思っているうちに、ハヤトは自分の口角が上がっていることに気が付いて慌てて無理やり口角を下げた。
「おい、お前ら。さっきから扉の隙間からのぞいてるのはよーくわかってるぞ」
とおごそかに言うと、さささっと引き上げていく音が聞こえた。まったく、何をしてるんだか。本当に仕方のないパーティーだ。ハヤトはそう、誰にも聞こえないようにつぶやいた。




