13.はじまりの街と手紙
「いつもごひいきに、どうも」といって親しげに手を振るのは銃火器を扱う商人だ。
エントランスホールや、そこから連なるはじまりの街には銃火器を扱う商人は数少ない。恐らくこの先の街でもそうだろうが。
昼の間みっちり銃火器の扱いをローザに教え込んだハヤトは、いざというときの戦いのために武器を調達しておいた。
その練習が済んだ後、三人はハヤトの【隠密】を駆使しながら、返り討ちに会わないよう慎重にはじまりの街で買い物をしていた。しかしなかでもクリスティーナははしゃぎっぱなしだった。あまり悪目立ちできない二人との温度差が激しかった。
「ク、クリスティーナさん、はしゃぎすぎですよ」とハヤト。
「いいじゃない。つかの間の安息よ。私も買ってあげるからさあさ、行ってらっしゃい見てらっしゃい!」
「は、はあ」
ハヤトはこの人の外でのテンションにはついていけないな、と思った。
「このえんじ色のスカートなんか質的にコートの上に巻いてもいいんじゃないかしら? ベルトで」
「コートの上にスカート、ですか? 独特ですね……」とローザ。
「でもローザちゃんは金髪だから、ダークグリーンの方がコントラストもあって目立ちにくいからそっちの方がいいのかもしれないわね」と言ってクリスティーナは洋服店でローザにスカートを当てて楽しんでいる。
どうやらローザもクリスティーナのテンションにはついていきかねているようだ、とハヤトは思った。
「あ、これもこれも!」
「クリスティーナさん、この上から着ても銃が取り出しにくいのでは?」
「大丈夫大丈夫、私が何とかしてあげるから! これでも私、裁縫が得意なのよ?」
「そ、そうなのですか……」
「これをこうして左右に切れ目を入れれば……、店主さーん! これください!」
クリスティーナはすっかり暴走気味である。
「せっかくだからうちの酒屋の二階の奥部屋を片付けて、そこに泊まったら? 二人もいつまでも同じ場所に居すわっていたらいつ狙われるかわからないでしょ?」
「いいんですか!」ハヤトが叫んだ。
ハヤト・ローザ組はそういわれて、これはとばかりにその提案に乗った。
そうして用意されたあたらしい部屋は、ほこりっぽさをのぞけば木造の、情緒あるファンタジーな部屋になった。壁には紋章がある盾がかかっており、たいまつもある。
たいまつなど居住にかかる費用は二人が負担するということにした。それでも好待遇には変わりないので二人は首尾よく条件をのんだ。
「お兄様、こうしている間にすっかり昼を過ぎてしまいましたね」
「ああ、タイムリミットは後一日半か。あれ、窓の外でハトがバサバサしてるぞ? なんだ?」
「伝書鳩かもしれません。私が諜報に使ったハトですよ」
ハヤトは窓を開けてハトを中に入れてやる。ハトは羽音もしたたかに部屋に降り立ち、くちばしにくわえていた手紙を落とすと、再び空に飛び立っていった。
ハヤトは手紙を手に取った。そして開けようとしたところで、
「お兄様、私に見せてください」
「だめだ、俺が確認してからだ」
「おーにーいーさーまー」と言ってぐいぐい手紙を引っ張る。
二人は気が済むまで引っ張り合った後、手紙が破れては困るという結論に至りしわしわになった手紙を開いて中から出てきた紙に書かれた文章を読んだ。
拝啓
木戸ハヤト君、ローザ君、仲良くしているだろうか。私クリス・アーベンは、君たちが僕のパーティーメンバーを霊廟送りにしたことを半日ほど前に知ったところだ。別に恨みは持っていないが、君たちとパーティーメンバーとの間には何か確執があったのかな。ともかく、僕を殺さずにおいてくれたことに感謝して、一つ、情報を提供しよう。君たちの暗殺劇によってパーティー内部で対立が起こって、リーダーの橋島は追放になった。変わって紅一点のテッテルが中立派としてパーティーをまとめることになった。彼女たちが君たちを襲うかどうかは僕にもまだわからない。ただ僕は君たちの様子をうかがう限り、君たちを殺すのには乗り気じゃないよ。伝えたいことはそんなところだ。何か質問があったらまた次の手紙と一緒に送ってくれ。じゃあまた、どこかで会おう。草々不一
さすがのローザもこの手紙には苦笑いを浮かべていた。
「この人はあんまりパーティーメンバーと仲良くないんですかね。自分たちの情報を教えちゃうなんて」
とベッドの上で四つん這いになってハヤトの持つ手紙をのぞく。すでに髪はほどいていた。金色の髪が垂れていた。
「あいつはプレイヤーだったし、確かに、よほど殺されるのが怖くない限り自分たちの情報は漏らさないよなあ。もしかしたらこいつが何かたくらんでるんじゃないか」
そういってハヤトは手をあごに当てて考え始めた。ローザも横に座って考えを共有しようとした。
「まずクリスの一つのスキルは隠密、しかも対象を特定してかつ複数人にかけられる。だからもしクリスがお前を殺した張本人、裏で糸を引いていたとしてもおかしくない。例えばの話、橋島に恨みをはらすために話を持ち掛けて、お前を殺させたのかもしれない。あくまで推測だけどな。あるいは橋島単独で。ただ橋島は隠密もちではないからそれは考えづらいな」
でも、とハヤトは思う。仮に一人ずつ殺したいのなら、次に殺されるのは俺だな、と。




