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11.ローザの死

 そのあと、客たちにけががないことを確認して、戦いに巻き込んだ謝礼として代金を払わずに帰ってもらった。そして三人は店内をくまなく掃除したあと、店の二階の応接間で話をした。


「ハヤトさん、ローザさん、本当に復讐を続けるのですか? きっとその復讐はつらいものになります」


「それは承知の上ですよ」


「レッドプレイヤー……」彼女はそうつぶやいて、ハヤトに向けていた顔を下げる。「お気持ちはわかります。お話を聞いた限りでは単なる復讐のように思えます。ですが私にはそれだけに思えません」と言って顔を上げる。その顔は必死だった。いつもの色気は抜けていた。「きっと、きっとお二人の心の底にはプレイヤー全体に対する憎しみがあるのでしょう? プレイヤーは三回死んでもちょっとしたペナルティをくらうだけ。でも私たちNPCは三回死んだら本当に死ぬ、消滅してしまう。そうやって消えていったNPCは残念ながらたくさんいます。だから確かに私たちはプレイヤーを心のどこかで嫌っているのです。でもそれを、何もあなたたちが、自らはりつけにされに行くようなことをするのはどうかと思います。もちろんあなた方の意志が固くて、それでも行くつもりなのは承知しています。ですが、私の予知スキルはローザさんの死を明確に示しています。できれば攻撃的なことはしばらく控えていただきたいと思いますが、ハヤトさん、ローザさん、それでも行きますか。私はまた、NPCが死んでいくのを見るのが、つらい」


 ハヤトは自分の靴のつま先を見た。たしかにクリスティーナの言う通り、復讐は犠牲をともないかねないし、一度は復讐をしているのだ。しかもプレイヤーは殺しをしてもただの謹慎で終わりだ。それはそうだ。それがこの世界の条理なのだから。


 それでもーー、とハヤトは思う。自分の中で何かがたぎっているのだ。それは元メンバーに対する怒りかもしれないし、アサシンとしてのプライドかもしれないし、クリスティーナの言う通りプレイヤーに対する恨みなのかもしれない。そして全部かもしれないしあるいは別の何かかも。


 だがローザのことを思うと……。仮にクリスティーナさんの読みが正しくて、ローザが死んでしまったとしたら? 俺たち二人は幸い死んだことがないが、もしかしたらそれは不幸なのかもしれない。俺たちは死を知らない。


 ローザは上位のパーティーでおんぶにだっことまではいかなくとも、恩恵をいくらか受けてきたのも確かだ。だからもうこの復讐は終わりにしてもいいんじゃないか……。そうハヤトは思った。


 これからは自分たちのパーティーを強くして、それで見返してやればいいのだ。そうだ。それもれっきとした復讐じゃないか。なにも暗殺にこだわる必要なんかない。


 そう思ってローザに視線を向けようとした瞬間、窓ガラスが割れる音がしたかと思うと、巨大な炎が飛んできた。いや、単なる炎じゃない。あれは炎の矢だ。それがローザに向かって直進していく。ごうごういう炎がローザに向かってーー、ハヤトは覆いかぶさろうとしたが、間に合わない。視界の端でクリスティーナが立ち上がり、絶句しているのが見えた。


 だめだ、本当に間に合わない……!


 そうしてパキパキ、ごうごういいながら、炎はローザの髪を焼き、そしてその胸元にぶすりと矢が突き刺さった。そしてローザは血反吐を吐いた。


 ローザは床を転げていった兄に向かって血まみれの笑顔を作った。それがローザの、兄に対する精一杯のメッセージだった。そして彼女は光の粒子となって消えた。


 ハヤトは思った。いや、感じた。俺は、俺たちは、アサシンであり続けろと、そう世界がささやいているのだ。ローザを殺した犯人、彼女に憎しみを抱くのは誰だ? 決まっている。元パーティーメンバーだ。


「くそがあああああああああああ!!」


 ハヤトは絶叫した。


 ハヤトはドンドンと床をたたきながら叫んだ。床が壊れんばかりに。だが叩いても叩いても、叫んでも叫んでも、怒りは収まらなかった。


 しかしスンと、ある瞬間、何かにとりつかれたかのようにハヤトは静かになり、静かに立ち上がった。


「ハヤト、さん?」


 クリスティーナが心配そうに声をかける。


 だがその声はハヤトには届いていなかった。


 そしてハヤトは静かにつぶやいた。


「俺は、アサシンさ」

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