10.良い知らせと悪い知らせ
ハヤトがボロボロになった店の前で、どうしたものかとため息をついていると、スタタタ、と自分の方へ走ってくるクリスティーナに気づいた。と同時にクリスティーナは頭を下げた。
「ありがとうございます! わたしを助けてくださって」
とお辞儀の勢いもそのままに言ってきた。
ハヤトは驚きつつも、当たり前に思うことを告げた。
「いやいや、活躍したのはローザの方ですし、何より男にとどめを刺したのはあなたじゃないですか」
そういってハヤトは軽く笑った。
しかしクリスティーナは姿勢を崩さずに言った。
「いえ、私一人だったらすごく怖くて動けなかったでしょうし、何より私はNPCですから。同じお二人に助けてもらえて安心しました」
そうだ、とハヤトは先ほどのことを思い出す。俺が最後に倒した二人はNPCだった。普通なら同じNPCとして助けてくれてもいいものを、あろうことか攻撃してきたのだ。
「私は、今日もお兄様の活躍が見られて感動しました」
とローザが歩み寄りながら言う。
「いや、スキルをうまく使いこなしてたお前の方こそ大したもんだよ」
と言ってローザの金髪を優しくなでる。ローザは心底嬉しそうに顔をほころばせた。
そうしていたところで、クリスティーナがさっと顔を上げる。メイドっぽく装飾された衣装が揺れる。
「どうされました?」とハヤト。
「お礼、と言っては何ですが、お二人に二つ、申し上げたいことがあります。ただ……」
というとクリスティーナは少し表情を曇らせた。一体何だろう、とハヤトは勘ぐった。
「一つはお二人のパーティーに、お礼と言ってはなんですが、入らせていただきたく思うんです」
「本当ですか!」とハヤトは喜色満面で喜んだ。二人パーティーは戦闘に際して少し息苦しい。三人パーティーの方がきっと戦いやすいだろう。ただローザはあまりいい顔をしなかった。せっかく戦力が増えるのになんでだ? とハヤトは思ったが、深くは考えないことにした。
「助けてくださった二人の恩返しをできれば、と思います」
「ありがとうございます! クリスティーナさんに助けていただければ恩返しなんて十二分ですよ!」
と飛び跳ねそうなぐらいの勢いで言う。
「よかった」とクリスティーナはハヤトとローザの二人を見ながら不敵に笑った。
ただ……、とクリスティーナは言いづらそうにしているので、ハヤトがうなずいてみせて先を促す。
「もう一つは悪いお話なのですが……、お二人とも、私が【予知】を持っていることはご存じでしたね?」
そういえばそうだったな、とハヤトはラビット戦のときのことを思い出す。
「私の予知スキルはあまり縁起のいいものではない、便利なものではないんです」
「と言いますと?」
クリスティーナはやたらと言いづらそうに視線をきょろきょろさせ、それから息を吐いて呼吸を整えて言った。
「私の予知スキルは、人の死が関わっていないとうまく発動しないんです。つまり先日の戦いのときは、ハヤトさんに本当の死が迫っていたから予知ができたのです」
「死が? 人の死がかかわる予知……、それってもしかして」
「はい、たぶん想像されている通りだと思います。それが私が戦闘の一線からしりぞいた理由です。戦っていても戦っていても、やがては人の死が見えてしまう。それが嫌で私は戦闘NPCとしての活動をやめたのです」
「でも今回は協力してくれるんですか? 万一俺たちの死が見えたら」
「はい」とクリスティーナはさえぎった。「人の死をもしかしたら防げるかもしれない、と思うから私はふたたび戦闘員として戦場に赴こうと思うのです。そして」と彼女は言葉を重ねた。「非常に申し上げにくいのですが……」
ハヤトとローザは次の言葉をじっと待った。
「ローザさん、あなたには死が間近に迫っています。だから私に協力させてくれませんか」




