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9.NPCの悲しい定め

 次の日の朝、ローザとハヤトは久しぶりに朝食を『ブリン・ディデ』でとっていた。奥の席でひっそりと食事をとれるのは家に次いでここなのだ。店内の人かずは席がまだ埋まりきらない程度だが、前日から酔いつぶれている者もいる。ときにはそのような客たちから情報を収集できることもあった。


 席に着くと、二人のもとへクリスティーナが食材を運んできた。今日の食材には早速サンショウウオからとれる魚身のようなものがメニューに並んでいた。


 いつものようにメイド服を着たクリスティーナが食材を机に並べ終わると、彼女はプレートを抱えてトークモードに入った。


「お二人はダンジョンに入られたことはあるんですか? 今のパーティーになってから」


「つい昨日行ってきましたよ。ひどい目にあいましたけどね」


 そういうと、ローザは軽く笑った。


「お兄様ったらドジだからオオサンショウウオに半身食べられて、もがいてらっしゃいました」


「お前がもっとフォローしてくれたらよかったのに」


 と食べながらハヤトは愚痴を言う。


「お兄様がもっと注意を払うべきでした」


「相変わらず、二人でうまくやっているのね。それはよかったわ」


 それはちょっと誤解だと思いますよクリスティーナさん。


「私なんてパーティーにいたころはあまりうまくやれなくて街に下りてきたんだから」と視線を落として言うクリスティーナ。


 せっかくだからこのままパーティーへの勧誘をしたいと思っていたハヤトだったが、無理強いをするのもいきじゃないと思い、さりげなくそちらへ話を持っていこうとした。どうもただならぬ過去がありそうだからな。


「でもクリスティーナさんは十分お強いじゃないですか。この前もラビットを一撃で倒されてましたし」


「いえ、私の問題は強さの問題ではないのです」


「と、言いますと?」


「私のあのスキルは……」


 と、クリスティーナが言ったとたん、店内の入り口に怒号が走る。


「おーいお前らあ! よけいな真似はするんじゃねえぞ! 俺たちは金をとりに来た! ついでにアイテムもだ!」


 強盗と思わしき四人組は、そこらへんにいそうな冒険者の服装でそう怒鳴る。どなった人物は大柄な男だったが、それ以外にはこれといった特徴はない。


 そしてその男がハンドガンを三発天井に向けて撃った。すさまじい音が鳴り響く。それを聞いてクリスティーナさんは給仕用の金属のプレートを落とし、悲鳴をあげた。


 その悲鳴を合図に、四人組のリーダーと思しき男はクリスティーナを呼びつけ、人質にした。


 ハヤトは驚いた。近くのメイドではなく、隠匿のスキルの中にいたクリスティーナが人質にされたことに。


 彼はローザに合図をし、いざとなったらハヤトの防御魔法で何らかの行動を起こそうと思っていた。四人組はあたりを見回していたが、二人のその動きに気づいた者はいなかった。


 ハヤトは木の魔法と火の魔法の両方が使える。つまりそれなりに魔法の適性があったというわけだ。スキルが一つない状態ハヤトにとっての救いだった。


 隠匿スキルを使いながら物音を立てないよう、ゆっくりと接近する。ローザはサポート役に回らせた。


 ハヤトは不審に思った。この強盗集団四人組のうち、二人はNPCと思しき服装をしている。それなのになぜこんなつまらない強盗なんかしているんだ? 何かがおかしい。NPCが命を捨てるような行為を始めるなんて。


 だが今はそんなことを考えている余裕はない。


 ハヤトは姿勢を低くしながら【隠匿】で十分な位置に接近することができた。


 彼は集中する。そしてカウンターにいる男に向かって火の魔法を放った。地面からごうごうと火が燃えたぎるが、男はそこから足をもつれさせながら脱出する。その間にローザがハンドガンでプレイヤー、NPCの順で腹部にバンバンバンと銃弾を的確に浴びせ、まともな行動を不可能にする。

 素晴らしい銃撃だ、ハヤトはそう思った。【狙撃】を使い始めたばかりの命中精度とは思えない。客の合間を縫って攻撃を当てていったのだ。 


 とにかくローザの方はこれで十分だった。後はリーダーの男だ。


「おい! 早くしろ! とっとと金を出せ! 店にあるもの全部よこすんだ! とにかく早くしろ!」


「はい、すみません!」


 男がクリスティーナを脅す。男は仲間がやられてそうとう精神的に追い詰められているようだ。体が落ち着いていない。


「今俺を撃ってみろ! こいつの命はないからな!」と言ってクリスティーナに銃を向ける。


 言わずとも伝わっているだろうが、念のため妹に射撃をやめるよう手で合図を出す。


「早くしろ! お前ここの店員やってんだろ!? 何をもたもたしてるんだ! はな……」


 その途端、ガアアアアアアアアア! という音がした。いや、単なる音ではない、クリスティーナのそばにいた男の絶叫だった。男はすさまじい絶叫を放ちながら、全身ビクビクと痙攣してその場に倒れた。


「無詠唱魔法!?」ハヤトが驚き混じりに気づいた。これはクリスティーナの雷撃だった。ハヤトとローザはまだそこまで到達していない。高度な魔法の使い方だ。


「まじかよ……!」戦闘経験の不明だったクリスティーナさんがそこまでの腕っぷしの持ち主だったなんてーー


「ハヤトさん、後ろ!」


 言われて振り返ると、ローザに腹を撃ち抜かれたNPCの二人がふらふらしながら詠唱をし終えかけているところだった。杖の先が光っていた。


「……よ、我々に力を!」


 ハヤトは【隠匿】を使いつつ、特訓で得た回避技術で間一髪、めきめきと伸びてくる巨大な木の幹を上体をそらせてよける。そして、


「炎の神よ、二人に救いを!」と短い詠唱をして、二人をごうごうたぎる炎で包んだ。二人ははかなくも光の結晶となって消えた。


 なんてこった、とハヤトは思った。


「許せ……」ハヤトが膝をついて言う。取り返しのつかないことをしてしまった、と、ひどい喪失感と脱力感に体が支配される。


 そこにローザが駆け寄ってくる。「お兄様は悪くありません! 私がもっと軽症で済ませていれば、」


「そしたら俺とクリスティーナさんが危なかったろ」


 そういうとローザは黙り込んでしまった。それでもそっと、倒れそうになったハヤトを両手で支える。


「三回死ぬとこの世から消える。それがクリスティーナさん含め俺たちの、NPCの悲しい定めじゃないか。頼むぞ、どうかあの二人が死んでいませんように」


 ハヤトはそう、天に祈った。

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