プロローグ
クリスティーナは言う。
「ハヤトさん、ローザさんに死が近づいています。どうか慎重に判断なさってください。危険な復讐には、もう……」
ハヤトは思う。自分の中で何かがたぎっているのだ。それは元メンバーに対する怒りかもしれないし、アサシンとしてのプライドかもしれない。あるいは別のなにかかもしれない。
だがローザのことを思うと……。仮にクリスティーナさんの読みが正しくて、ローザが死んでしまったとしたら? 俺たち二人は幸い死んだことがないが、もしかしたらそれは不幸なのかもしれない。俺たちは死を知らないんだ。それにローザは上位のパーティーでおんぶにだっことまではいかなくとも、恩恵を受けてきたのも確かだ。
これからは自分たちのパーティーを強くして、それで見返してやればいいのだ。そうだ。それもれっきとした復讐じゃないか。なにも暗殺にこだわる必要なんかない。
そう思ってローザに視線を向けようとした瞬間、窓ガラスが割れる音がしたかと思うと、巨大な火が飛んできた。いや、単なる火じゃない。あれは火の矢だ。それがローザに向かって直進していく。ごうごうたぎる炎の矢がローザに向かってーー、ハヤトは覆いかぶさろうとしたが、間に合わない。視界の端でクリスティーナが立ち上がり、絶句しているのが見えた。だめだ、本当に間に合わない……!
そうしてパキパキ、ごうごういいながら、炎はローザの髪を焼き、そしてローザの胸元にぶすりと矢が突き刺さった。そしてローザは血反吐を吐いた。
それから、床を転げていった兄に向かって、ローザは血まみれの笑顔を作った。それがローザの、兄に対する精一杯のメッセージだった。そして彼女は光の粒子となって消えた。
ハヤトは思った。いや、感じた。俺は、俺たちは、アサシンであり続けろと、そう世界がささやいているのだ。
「くそがあああああああああああ!!」
ハヤトは絶叫した。
ハヤトはドンドンと床をたたきながら叫んだ。床が壊れんばかりに。だがたたいてもたたいても叫んでも叫んでも怒りは収まらなかった。
しかしスンと、ある瞬間、何かにとりつかれたかのようにハヤトは静かになり、静かに立ち上がった。
「ハヤト、さん?」
クリスティーナが心配そうに声をかける。
だがその声はハヤトには届いていなかった。
ハヤトは静かにつぶやいた。
「俺は、アサシンだ」