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4.いわゆるお姫様抱っこは恥ずかしい

これっていわゆる「お姫様抱っこ」だよね、、、


ソフィーは誰に見られているのか考えただけでも恐ろしくなった。恥ずかしい。とてつもなくはずかしい。このくらいの男の子って、友人を抱っこするのかな、、、同世代の友人はベルンだけだから分からないが、今日帰ったらゼフィーに聞いてみよう、でも、普通じゃないと思う。


ソフィーがうーんと考えている間に、ベルンの自室のソファーにそっとおろされた。17才になってもなお、天使の面影を残しているベルンが、今にも泣きそうな顔をしている。


「フィー、大丈夫?痛いところはない?僕のせいでごめんね」

「本当にベルンは優しいなあ、ちょっと怖かったけど、大丈夫だよ。だいたいベルンのせいじゃないだろ」

「フィーに何かあったら、僕悲しいよ」


そばに控えている近衛兵が眉や鼻をピクピクさせているが、まあいつものことだ。その時


「なんてことだ!」


というベルンの大きな声が部屋に響いた。ソフィーは、怪我はなかったが、上着やズボンがところどころ破れていたのだ。腕や足を引っ張られたときに裂けてしまったのだろう。


「ねえ、心配だよ、今日はここに泊まっていきなよ」

「ベルン、本当に心配しないで。俺は男だからこれくらい平気さ。でも、今日はもう帰るよ。」


ソフィーはベルンの部屋で少し休憩した後、早めに帰ることにした。王城の中は、図書室での騒動で呼び出された貴族(主に令嬢の親など)が出入りしていて慌ただしく、落ち着かなかったのもある。


「じゃあ、ベルン、失礼します」

「今日は本当にごめん。それと、これ。」


そういうと、手に持っていたものをソフィーに見せた。


それは虹色に光る爪のような形の石のついた美しいネックレスだった。ベルンはソフィーの首にネックレスをつけようとする。あれ、男の子ってネックレスつけるものなの?混乱するソフィーだったが、ベルンの指が首元に触れるとドキドキした。


ベルンは慎重にネックレスをつけて、満足そうにソフィーを見た。


「これは絶対にはずさないで、ね」

「うん、ありがとう。きれいだね、でも、、、僕男だから、ネックレスは恥ずかしいかも、、、」

「そんなの関係ないんだよ」

「そうなの?」

「うん、なんにも関係ない」


そういうと、ベルンは軽くソフィーを抱きしめた。


「じゃあ、気をつけて。寂しいけど、今日の後始末があるから当分会えそうにないんだ。ちょっと時間がかかるかもしれないけど、また連絡するから」




しょんぼりと手を振ってフィーを見送った王子であったが、護衛を連れたフィーが見えなくなるやいなや、顔から表情が消えた。先程までの犬っころのような顔が、一気に極悪人のように変わる。そばにいる近衛兵達に緊張が走った。


「父上は今どこだ」

「は、執務室であります。」

「今から向かう。先触れを。」


一人の近衛兵が慌ただしく走っていった。



「あいつら、ただじゃおかねえ」



眉間にシワを寄せた凶悪王子のそんなつぶやきを聞いた他の近衛兵たちは、「ヒー」と心で思いながらスタスタと執務室へ向かう王子の後をついていくのだった。



執務室にズカズカと入ると、ベルンは言い放った。


「父上!!」

「分かっておる、分かっておる」


国王は傍若無人に入ってきた息子に対して、「まあまあ、おちついて」といいながら愛想笑いをした。怒り狂っているのは分かっている。最近特に増えてきた令嬢達に対して、こんなことが起きる前に対策をするべきだったし、なによりフィーが巻き込まれた。ベルンが怒るのももっともだ。


「あの場にいた令嬢の身元を確認した上で、保護者に引き渡しをおこなっている。とりあえず30日間の自宅謹慎にしておる。近衛兵と司書たちの証言もとった。図書室はもちろん、王城への出入りについても、もっと厳しくしよう。」

「へたすりゃフィーの命に関わる事態になったかもしれないんだぞ。自宅謹慎なんて生ぬるい!フィーが巻き込まれたんだ!フィーが見ていなかったら切り捨ててやるところだった!」

「お、おいおい、そんな恐ろしいことを言わんでくれ!本人たちも深く反省しておる。反対に、お前が婚約者を早く決めないからこんなことが起きたという意見だってあるくらいだ。」

「ほう、誰がそんな発言をしたのですか。その方と、この騒動に関わった者たちのリストをください。」

「何をする気だ!」

「まだ、何もしませんよ。ただ、覚えているだけですよ。」


ギリギリと歯を鳴らし、地を這うような低い声が響く。国のトップが勢揃いしている部屋で、王子以外の者は皆震えていた。恐る恐る一人の官僚が、ベルンの求めるメモを差し出すと、ベルンは部屋を出ていこうとした。


「あ、騒動を起こしたものは今後オレの目にふれないようにしてください、もちろんフィーの前にも。首を切り落としてほしくないならね、」


それだけを言うと執務室を出ていった。


「怖い!あいつは魔王の生まれ変わりかもしれん。」


国王が嘆くと、部屋にいたすべての者がうなずいた。



このオルタ国は、この大陸の中で1番の大国である。3代前の王の時代は軍事大国として恐れられていたが、今ではよく発達した農業と、美しい景観を生かした観光が中心産業の豊かな国である。内政的にも安定しており、一人息子の王子は(対外的には)優秀で、後継者争いもない。あるとしたら、王子の婚約者をめぐり、貴族たちが浮足立っているくらいだ。


なのになぜか王子の性格は魔王そのもので。しかも信じられないことにフィーの前では「やさしい王子」を完璧に演じている。もう、ずっとソフィーにいてほしいと願うのは、ベルンだけではなく王城全体の望みであった。


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