表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その命ある限り  作者: 宮田カヨ
7/7

その6

初めに(https://ncode.syosetu.com/n7843hb/1/)をお読みください。

「え、あ、はい……あの、わたし、春風こはくです」

 なぜこの少女は苗字を言わないのだろうか。それを聞けば、ナズナは言った。

「訳ありよ。あんまり好きじゃないの、苗字。どっかの金持ちの子供とでも思っておいてちょうだい」

「……ごめんなさい……」

「いいわよ、私の都合だもの」

 ナズナはよく喋った、それはこはくの気を紛らわせるためだった。

 村に着いた。家は全壊で、亡骸がひどいものもいた。引っ込んでいた涙が再び溢れ出る。ナズナはつむじの遺体を地面に下ろすと、手で土を掘り始めた。

「何を……?」

「埋葬よ。死者を弔うのよ」

 なぜ赤の他人にここまでしてくれるのだろう。でも、とこはくも手を動かす。

 埋葬を終えて家へと帰った。こはくはまたナズナに縋り付いて泣いた。もう死んでしまいたい、寂しい。この少女がこの場を去ったら、自ら命を絶ってみんなのところへ行こう。

 ナズナは優しく頬を包み込んできて目を合わせられた。

「あなたは生きなさい。死んでいったものたちの魂のためにも、魂の思いを風化させないためにも、生きなさい」

 そして、幸せになりなさい。

 こはくは泣き叫んだ。ナズナに縋りつきながら、気がすむまで泣いた。


「あなた、これからどうするの?」

 ナズナが聞いてきた。泣きつかれ、ナズナの膝に頭を置いていた。

「親類がいるならそこまで送るわ」

「……いえ、親族は特に……あの、四貴族ってご存知ですか?」

「……ええ、知っているけどどうかしたの?」

 父に四貴族を頼れと言われたことを話した。ナズナは口元に手を当てて、何かを考えるそぶりを見せる。

「あなた、父君は魔法族なの?」

「いえ、父は昔使用人をしていたと……東風の家で……」

「珍しいのね、非魔法族で魔法族の使用人なんて」

 ナズナはこはくの髪をいじりながら言った。

「ならユースの家かアンダインの家まで送るわ。ベラトールはやめておいた方がいいわよ」

「どうしてです……?」

「ベラトールの領主がアーグを繋ぐ船を止めちゃったのよ、私が降りた後でね。しばらく動かないそうよ。職権濫用だわ」

「なぜ御領主様は……」

「人探しらしいわ。私と同じ」

 変に三つ編みにされた髪の毛。器用な人、と思うと同時に恥ずかしかった。手入れもされていない髪、ナズナとは天と地の差がある。

「誰か探してらっしゃるんです?」

「ええ、父をね。でもいなかったから、次は北の国へ行こうと思っているの。ついでだし連れて行ってあげるわ」

 準備なさい、と立つように促された。

 泥や血で汚れた服を着替える。黄色の晴れ着は、父が奮発して買ってくれたものだ。

「綺麗な着物ね」

「あ、ありがとうございます……あの」

「何かしら」

「ナズナは、父君を探してらっしゃるとのことですが……どうしてです?」

「いきなり呼び捨てなのね、別にいいけど……会いたい、会ってお話ししたいの。ただそれだけよ。でもこの話はしたくない、ごめんなさいね」

 その笑顔は泣き出しそうだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ